第三章 第8話 【フランソワ王国】首都攻防戦⑧
通信を終えてから1時間程休憩し、【オーディン】の格納庫に向かう。
俺の愛機である【八咫烏】初号機は、既に補給を終えていて、今はオプショナル・パーツの換装が行われている。
今現在、【八咫烏】は正式ロールアウトした量産機が、【大和武尊】に20機納入されていて、此処【オーディン】には試験タイプの5機の内3機が存在し、現在戦っている戦場には【バルト】大尉の1機があり、残り1機は研究機体として新生ベネチアン王国での耐久試験に使用されている。
俺は、格納庫に隣接するパイロット控室に入室し、部屋に居て此方に顔を向けて挨拶して来た【魔人ブレスト】と【ゲイリー】に、目礼で挨拶しながら彼等が見ている大型パネルに目をやる。
其処に映る戦場を俯瞰的に見える全体図では、完全に【ドラッツェ帝国】軍15万を挟撃すべく、【リッシュモン】大将率いる【フランソワ王国】軍10万と、【フランソワ王国首都から出陣して来た禁軍が移動しているのが見えて、【ドラッツェ帝国】軍は防御布陣を敷いて対抗する行動に出ている様に見える。
しかし、実際に色分けして敵味方を識別出来る様にして、各部隊の行動を予定進路図で矢印を重ねると、まるで全体図が変わったものに見えてくる。
【リッシュモン】大将が率いる軍の後方で密かに編成されていた騎馬隊と、中軍に所属している左軍が、それぞれ迂回して挟撃体勢を更に進めて、包囲殲滅する様な包囲陣を仕掛ける動きを見せる。
禁軍に【リッシュモン】大将が予め自軍が行う行動を知らせていたのだろう・・・。
少しもその動きに動揺せずに、予定通りの行動としてまるで連動する様に、【ドラッツェ帝国】軍15万の真正面から禁軍は横陣で攻めかけた。
それを堂々と受け止めた【ドラッツェ帝国】軍は、【ゴットワルド】中将の極めて頑丈そうな布陣で以って、鉄壁の防御陣を前面に展開した。
(見事なものだな、流石は歴戦の将軍だ! 本人は苦手だと言っていたが、此の防御陣は力攻めで簡単に崩せる様な甘い代物では無いぞ)
進撃戦で名を馳せる【ゴットワルド】中将の堅牢極まり無い防御陣は、禁軍が前面に押し出して来た魔法攻撃部隊と弓兵の攻撃を、防御魔法を何層にも施した大型の盾で全て跳ね返して行き、後方からは支援魔法での前面に居る兵士達の防御力を通常状態から、何倍ものレベルに跳ね上げている。
此の防御レベルの強固さに相当戸惑ったらしい禁軍は、挟撃してくれている筈の【リッシュモン】大将率いる軍に対して、迂回ルートで伝令の騎馬を送り出す。
だが、そんな事を進路上で交差する形になる騎馬隊が許す筈も無く、伝令の騎馬は当然足止めされた上で、そのまま捕虜にされる。
足並みを揃えながら左右から迂回して行く騎馬隊と左軍は、禁軍まで残り1キロメートルまで近付いた段階で、一気に速力を増して【ドラッツェ帝国】軍を包囲するのでは無く、横陣を敷いて【ドラッツェ帝国】軍に攻撃をしている禁軍の左右から、ほぼ同時に襲いかかった!
まさか、同じ【フランソワ王国】軍の【リッシュモン】大将率いる軍が、何の躊躇いもなく自軍を攻撃して来た事に、動揺しまくった禁軍の左右に配置されていた兵士達は、慌てて騎馬隊に必死な形相で訴えかけた。
「間違えるな! お前達が攻撃しているのは友軍だぞ! グフッ!」
「た、助けてくれーーっ! うわわわわーーーー!」
「攻撃するのは、俺達が攻撃している方向に居る【ドラッツェ帝国】軍だ! 仲間に間違って攻撃するとは何事だーーー! ウグッ!」
「旗を確認しろ! 此方は【フランソワ王国】軍のエリートである禁軍だぞ、お前達の様な寄せ集めの軍隊が逆らったら、後の軍法会議で熾烈な裁きを受けるぞ! ゲエエエエエッ!」
「な、何てことだ! 如何に横槍を突かれたとは言え、アッサリと侵入されてしまうなんて!」
そんな怒りや焦燥、更には命乞いと懇願の言葉が戦場に溢れ、禁軍は左右の混乱が中央にまで影響し、殆どの兵士が状況が判らず進撃の足を完全に止めた。
そのタイミングを、眼前で見ていた【ゴットワルド】中将とその旗下の兵士達が見逃す筈も無い!
「さあ今だ! 押し返すぞーー!」
「「「「「うおおおおおおおおおーーーー!!!」」」」」
【ゴットワルド】中将が雄叫びの様な号令を下し、それに応える様に轟いた兵士達の叫びは、戦場を覆い尽くして余りあるもので、それを聞いた禁軍の兵士達は萎縮してしまって、対面する【ドラッツェ帝国】軍に尻込みし始めた!
そのタイミングを完璧に捉えた【ゴットワルド】中将は、自分の持つ【トライデント】を振り翳し煌めくそれを振り下ろした。
「吶喊!」
その戦場に響き渡った大音声を背に、【ドラッツェ帝国】軍は大盾を前面に翳して、そのまま禁軍の前面に突進した!
混乱している禁軍は、本来なら直ぐに引っ込めるべき魔法部隊と弓兵を、適切に対応出来ず。
突進してくる【ドラッツェ帝国】軍の前面に晒した状態で、受け止めてしまい、正に鎧袖一触で前面が崩壊してしまった。
「グワアアアアアッッ!」
「推すな、押すなよおおおおっ!」
「前を開けろよ、逃げれないだろうがあああああっ!」
装備の充実度や士気の高さから、【フランソワ王国】軍の中でも最強と目されて来た禁軍は、簡単に前面を崩されてしまい、何とか立て直すべく中軍と後方部隊を前面と左右から切り離し、早急に編成を切り替えようと行動し始めた。