第三章 第6話 【フランソワ王国】首都攻防戦⑥
【フランソワ王国】首都から脱出してそのままブレエン要塞まで高空を飛んで到着し、俺が保持している亜空間収納していた人質の中でも老人や子供達を解放した。
先に到着していた人質の家族の方々と合流する事が出来て、彼等は涙を流して喜び合っている。
俺達は、自分達の愛機である【八咫烏】の補給を行う為に、ブレエン要塞の広場に待機している【オーディン】の格納庫に収納し、俺と【ソロモン】そして【魔人ブレスト】はブレエン要塞に赴き、今現在も布陣して【ドラッツェ帝国】軍と向き合っている【リッシュモン】大将との連絡を通信機で行う事にした。
やはり、軍の指揮官である【リッシュモン】大将は此方との通信に出られず、代わりに前回と同じく【ボナパルト】少佐が通信パネルに出て来た。
「此れは、ヴァン殿自ら通信して頂けるとは大変有り難い。
そのご様子では予定通りに作戦は遂行されたのですな?」
「勿論だ。 この人質奪取作戦こそは今回の全体作戦の要であり、今後の憂いを断つ為の一手だからな!」
「真に有難うございます!
当然、我々は予定通りに【フランソワ王国】軍の禁軍20万人を上手く誘導し、【ドラッツェ帝国】軍を挟み撃ちにすると見せかけて、迂回させた歩兵による横槍と騎馬隊による突撃で、禁軍20万人を混乱させますので戦況図を俯瞰しながら、適切なタイミングでの亜空間収納をお願い致します!」
「了解している! 恐らくは双方共にかなりの怪我人が出てしまうから、後方での医療体制を万全にしている。
怪我や病気はどうとでもなるので、呉れ呉れも君を含めて全員は命を落とさない様に、無理せず戦ってくれよ!」
「判って居ります! 本来は人同士が殺し合うなど愚の骨頂ですからね。
なるべく禁軍にも死人は出さない配慮をしながら戦うつもりですよ」
そう返事してくれた【ボナパルト】少佐と一旦通信を切り、今の通信で触れた後方での野戦病院の状況を確認する。
「そちらの準備はどうなって居ますか?」
「予定通りに万全だよ。 以前に収容された【フランソワ王国】軍の兵士達も、野戦病院で9割方治療は終了していて、その殆どは例の自分達が荒廃させた【ドラッツェ帝国】国土の、インフラ整備と農業プラントでの仕事に精をだして頑張って貰っているよ。
きっと、此の仕事をやり遂げる頃には、熟練の作業員として重宝される事になるだろうね」
随分とノンビリした口調で話す【ドラッツェ帝国】宰相は、【ドラッツェ帝国】首都に居ながらにして、野戦病院の状況とインフラ整備の進捗状況更には物流状況までを、己の部下である官僚達を手足の様に使い、テキパキとそれぞれの担当部署の責任者に命令して行く。
その姿は、まるで遥か未来の行政のトップの様で、俺の超技術の産物である様々な通信機器を、俺などよりも完璧に使い熟しているさまは、実は此の人物は産まれる時代を間違えている突然変異なのでは無いかと疑っている程だ。
「それでは、準備も整って居る様なので、次の段階に移行します」
「お願いします」
淡々と応じてくれた宰相と通信を切り、禁軍と向かい合っている【ドラッツェ帝国】軍の指揮官、【ゴットワルド】中将に通信を繋いだ。
「此方は予定通りに人質奪取作戦を成功させました。
次の段階に移行しましたので、予定通りに【リッシュモン】大将の率いる軍が禁軍と連携する様に貴方方の軍を、挟撃する形に行軍を開始します。
それに対してワザと防御陣形しか行動しない様に振る舞いながら、実際の処は禁軍のみに防御する布陣を敷いて、なるべく被害を受けない形で暫く耐えて下さい!」
「予め【ゲルト】元帥から、今後の作戦行動は承っている。
ヴァン殿、暫くは無能な指揮官の様に右往左往しながら、ひたすら防御する能無しぶりを演じてみせるよ!」
【ドラッツェ帝国】軍の指揮官である【ゴットワルド】中将は、【ゲルト】元帥同様に豪快そうな見た目通り、本来は剛勇を誇る進撃戦が得意だが、今回は不得意な防御的な布陣で暫く我慢させてしまう事になる。
「暫くの辛抱ですよ、【リッシュモン】大将の率いる軍が迂回して、【フランソワ王国】禁軍の横っ腹に攻撃を開始して、禁軍の布陣が乱れた瞬間に攻勢を仕掛けて、貴方の得意な進撃戦で一気に蹂躙して下さい!」
「了解だヴァン殿! 是非、此の【ゴットワルド】の進撃戦をご覧頂きたい!」
「ええ、楽しみにしておりますよ」
返事を送りそのまま通信を切り替えて、新生ベネチアン王国軍の指揮官である【ラング】大将が率いる、【白虎軍団】を中核とした5万の正規軍の司令部に繋ぐ。
「【ラング】! 今の処【フランソワ王国】の国土に侵攻してから、状況はどうだい?」
「いよお、久しぶりだなヴァン! 活躍は此方にも届いているよ!
ヴァンにとっても、俺達新生ベネチアン王国民にとっても、【フランソワ王国】は敵国そのものだから、あまり友好的な態度は取れないけれど、国民はある意味、あの国王の被害者と言っても良いから、基本的に慰撫しながら行軍しているし、余裕のある兵站からは余剰分の食糧を配給して行っているよ。
お陰で、殆ど抵抗も無く国境線から離れた要塞に拠点を設けたが、何の反撃も受けていないよ。
だが、此れも後少しで破られるんだろう?」
「・・・嗚呼、正直な処、此の状況はある種の嵐の前の静けさだよ・・・。
敢えて、他の軍隊には言っていないが、今回の戦争の本当の敵は【クライスト教団】だから、サッサと【フランソワ王国】軍には敗れて貰って、【クライスト教団】の操る怪物共と対峙する体制を整えたい!」