第三章 第4話 【フランソワ王国】首都攻防戦④
駐屯地での戦闘は、俺達にとって駐屯地に居る禁軍の兵士を倒す事が目的では無い。
一番目の目的は、此方に【フランソワ王国】上層部の関心を引き付けて置き、人質を無事にブレエン要塞まで送り届ける事と、これから行われる様々な作戦の布石を打つ事への欺瞞工作でもある。
二番目の目的は、駐屯地を大きく破壊し彼等の軍事拠点を叩き潰し、後の抵抗拠点になる事を予め防いで置く。
三番目の目的は、当初は無かった目的で、先程現れた【ピリポ】という男のお陰で出来た項目である。
その目的とは、【聖教】を隠れ蓑にしている【クライスト教団】の幹部を、出来る限り引きずり出して正体を明かして行く為だ。
【ドラッツェ帝国】にとっては、【フランソワ王国】全体が敵であり将来に渡っても国境が隣接する以上、なるべく大衆レベルで友好的な国家体制と民度が啀み合わない状態にしたいだろうが、我々としてはそれだけではなく【クライスト教団】そのものの壊滅を図らなければ、将来の禍根を世界に残してしまうのは非常に問題なので、絶対に阻止したい。
俺達3人の搭乗している【八咫烏】3機による、圧倒的な火力での打撃力は簡単に駐屯地の壁面の一部は崩壊させており、その崩壊した壁面を見た禁軍の兵士達はかなり悲壮な顔をしながら、攻撃魔法や弓矢でPSに攻撃を仕掛けて来るが、PSの地面を滑走する様なローラーダッシュのスピードに翻弄されて、少しも攻撃を当てられず、返って同士討ちをする回数が増えて混乱の度合いが増して行った。
禁軍は約10万の兵力が残存していた様だが、正直な処、俺達の搭乗する最新型PSである【八咫烏】が本気を出せば、1機でも時間を掛ければ殲滅出来るだろう。
だが、此方の目的は前述の通り彼等を殲滅する訳では無いので、なるべく人死にを出さない様にしながらひたすら駐屯地の施設破壊を、俺達は淡々と熟していく。
応援に来た【フランソワ王国】軍は、己達よりも優れている筈の禁軍が、僅か3機の俺達の乗るPSに翻弄され続けている現実に、駐屯地に近付く事もせずに呆然と立ち尽くしていて、そんな彼等を指揮する筈の【フランソワ王国】軍の将官も、同様に呆然としている。
余りに俺達に翻弄され続け程々に疲労が重なった禁軍の兵士達は、段々と攻撃行動を無駄と判った様で、三々五々と集合し始めて周囲に盾を並べて防御用の布陣を敷いて、ひたすらに俺達の圧倒的な火力による暴風の様な嵐が過ぎ去るのを待っている様子となっている。
(・・・そろそろか・・・)
部下の【魔人ブレスト】と【ゲイリー】に指示を出し、俺達は彼等禁軍が一纏まりに防御用の布陣を敷いた場所を、三方から囲む形の位置に移動し、PSに積載していた戦術レベルの【催眠魔法】を封入した弾頭を、肩部に搭載していたカノン砲で一斉に投射した!
案の定、疲れ切った禁軍の兵士達は自律神経に対して直接働き掛ける【催眠魔法】を受けて、バタバタと将棋倒しの様に一斉に折り重なってぶっ倒れて行き、このままでは積み重なった下の方の兵士が窒息しそうなので、俺達の搭乗している【八咫烏】を通して、母艦の【天鳥船】の【亜空間ゲート】を此の場と繋ぎ、禁軍約10万人を亜空間収納した。
そのタイミングで、とんでもない速度で此方に飛んで来る物体が、常に警戒していた[ヘルメス]のセンサーに引っ掛かる!
「来たか!」
思わずコックピット内で声を上げて唸りながら俺は、【八咫烏】の額に装備している【光子粒子砲】を照準せずに、勘だけで撃つ!
横に薙ぐ形でビーム状の光線が暗くなってきた空に閃光として走り、完全には捉えていなかったが高速で飛ぶ物体の一部に当たった!
光線が掠ったお陰なのか、明らかに進路が逸れた高速で飛ぶ物体は、俺が開けた【亜空間ゲート】からはかなり離れた駐屯地の壁面に突き刺さった。
その直ぐ後に、最後の催眠状態の禁軍兵士を【亜空間ゲート】に放り込み、亜空間収納を終えて駐屯地の壁面に突き刺さった物体に注意しながら【亜空間ゲート】を閉じた。
「あーあ、折角のチャンスだったのに、閉じちまったのかよ」
駐屯地の壁面に突き刺さった場所から、突然声が上がり、ガラガラと煉瓦造りの駐屯地壁面の残骸の中から人が起き上がってきた。
其奴は、【聖教】の一般的な司教の格好をしていて、何処と無く例の【ピリポ】という男と雰囲気が似ている。
「よおよお、お前さんが、例の千年ぶりにやって来た【星人】だな?」
何故判別がついているのか判らないが、真っ直ぐに俺の搭乗する【八咫烏】を指さして来た男は、実に興味深そうにジロジロと【八咫烏】を眺め、やがてポンと手を打ち合わせて自己紹介し始める。
「先ずは自己紹介させて貰おうか!
俺の名は、【シモン】十二使徒の一人にして主に戦闘を司る者。
別名は【熱心党のシモン】と言うぜ!」
そう告げて来た男は、実に飄々としていてまるで掴みどころが無い人物に見えた。