第三章 第2話 【フランソワ王国】首都攻防戦②
「・・・どうやら上手く騙す事が出来た様だな・・・」
その俺の呟きを受けて、近くに居る【ソロモン】と【魔人ブレスト】は同じ様に頷いて、他のメンバー達と共に俺に随伴して走り出した。
現在俺達は、【フランソワ王国】の首都である【パロス】の内部に潜入していて、潜入メンバーは全員新しく開発された【隠蔽スーツ2】をインナースーツの上に着ている。
此の【隠蔽スーツ2】とは、現在メンバーが顔に装備している特殊なゴーグル以外では視認出来ない程の隠蔽状態を、走ったり物にぶつかろうとも維持できる非常に優れた代物である。
当然その隠蔽性を維持する為に、脚部には静音ブーツを履いているので、特別な警戒タイプのアーティファクトを全力で稼働させない限りは、至近距離に居ようとも発見は出来ないだろう・・・。
何故此の様な特別な装備をしている潜入メンバーが編成されて、【フランソワ王国】の首都である【パロス】の内部に潜入する作戦が実施されているかと言うと、例の【リッシュモン】大将達の家族や親族を人質として監禁している小屋から、彼等を無事に取り返して脱出させる事を企図して、それを完遂出来ると考えられる人材が予め集められて、早速そのまま実施に移っている訳だ。
【パロス】の中でも繁華街から遠い位置に有る、【聖教】の教会群が連なる一角に存在する食料庫などの倉庫群の一つが、偽装された人質を監禁している小屋で、その近くには警戒監視塔まで有って、かなりの警戒網が敷かれているのが事前段階で判明している。
「さてやるぞ」
ヘルメットに装着しているヘッドフォン越しにメンバーに開始を告げ、10人の腕利きメンバーは己の担当している任務に取り掛かった。
俺はその中でも難易度が2番目に高い、人質を監禁している小屋を直接警備している兵士を無力化する任務に取り掛かる。
警備している兵士は全部で10人居て、其の内4人が2人ずつで周囲を定期的に周回しながら警戒している。
俺は、同じ任務に就いている新生ベネチアン王国軍で、俺の親衛隊に所属している腕利きの【ゲイリー】にもう一組の2人の対応を任せ、周回している2人の背後に廻り込む。
全く俺の存在に気付かない2人の背後から、彼等の頸動脈に指で点穴してアッサリと意識を失わせると、ほぼ同時に【ゲイリー】も他の2人の意識を刈り取る事に成功していた。
素早く計4人の兵士を無力化し、俺の【亜空間収容】に収納したタイミングで、難易度が1番目に高い警戒監視塔の無力化を【魔人ブレスト】が単独で成功したとヘッドフォン越しに知らされた。
(流石は【魔人ブレスト】だな)
彼は元々空を飛べたが、特訓によって羽搏きを極力しない事で、殆ど音を立てずに滑空して近付く事が出来るのだ。
他のメンバー達も任務を着々と熟して行き、周囲の警備している兵士を全て無力化する事に成功したので、人質を監禁している小屋に侵入した。
案の定、外の異変には気付いていなかったらしく、隠蔽モードを切って突然現れた我々に驚愕する【リッシュモン】大将達の家族や親族達計70名に、落ち着く事をお願いする。
「・・・確認致しますが、貴方方は【リッシュモン】大将達の家族や親族で間違い無いですか?」
そう言いながら俺はヘルメットを外して、素顔を晒して笑顔を彼等に向けながら、手に持った通信機で中継している【ボナパルト】少佐と繋ぎ、画面と通話で本人たちかどうか確認させる。
暫く掛かったが、双方が本人達と確認出来たので、いよいよ此処から脱出する準備に取り掛かる。
元気な者達は良いが、やはり老人や子供達には脱出する際の足手まといになってしまうのは否めない。
なので、仕方無く彼等には強制的に眠って貰って、俺の【亜空間収容】で収納させて行く。
そして問題無さそうな30名を連れて、警戒しながら監禁されていた小屋の外に出ると、ゆっくりと別の倉庫から出てくる数名の男が姿を見せる。
(何?! センサーに反応しなかっただと?!)
メンバー全員が警戒しながら、己の武器を手に持ち何時でも戦闘体勢に移れる様に構えると、数名の男の一人が進み出て俺達に声を掛けて来た。
「お見事ですね、こんなに簡単に我々が構築した警戒網を突破し、少しも問題無く脱出行動に移れるとは想定もしていませんでしたよ。
是非、貴方方のリーダーを紹介して頂き、私と会話をして貰いたいのですが?」
そんな事を言いながら、奴は部下らしい隣の男に指示し警笛を掲げさせた。
(つまり、己の相手をしなければ警笛を鳴らし、脱出を阻止するという事か・・・)
そう判断した俺は、【魔人ブレスト】と【ゲイリー】以外のメンバーに指示して【リッシュモン】大将達の家族や親族の脱出に取り掛からせ、俺を含む3人で現れた現れた数名の男に対峙し、警笛が鳴らされそうになったら即座に動ける様に3人でアイコンタクトしておく。
そして俺は奴等の前に進み出て、会話に応じる事にした。
「・・・俺がリーダーだが、先ず俺を指名して会話を要求して来たからには、お前は自己紹介してくれるのだろうな?」
そう答えて、やや煽る様に問いかけると、奴は笑いながら応じて来た。
「ああ、此れは迂闊でしたな、平にご容赦を。
申し遅れましたが、私の名前は【ピリポ】、十二使徒の一人にして食糧を司る者にして、別名は【伝道者ピリポ】と申します」
そう名乗りながら恭しく頭を下げて礼をして来た。
恐らくは【クライスト教団】の者なのだろうが、かなりの実力を持つ事が察せられて、俺達は何段階か警戒レベルを上げて、直ぐに対応出来る様に身体を内部から準備させて行った。