第三章 第1話 【フランソワ王国】首都攻防戦①
最終的に纏まった作戦案に従い、全ての軍勢が【フランソワ王国】の首都である【パロス】に向けて進撃する。
但し、他の軍勢と異なり【リッシュモン】大将率いる【フランソワ王国】軍の残存勢力だけは、【ドラッツェ帝国】軍との決戦に敗れた敗走状態での撤退戦を繰り返しながら、【フランソワ王国】の首都である【パロス】に後10キロメートルの地点まで撤退する事に成功していた。
その地点で何とか【ドラッツェ帝国】軍を食い止めるべく、【リッシュモン】大将率いる【フランソワ王国】軍の残存勢力は、現在の兵力で【ドラッツェ帝国】軍の侵攻軍に抵抗するべく、出来る限りの強固な布陣を敷いた。
その布陣を整えている間にも、【リッシュモン】大将は首都【パロス】に向けて伝令を放った。
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「・・・で、此れが【リッシュモン】が求めてきた救援要請の書状か・・・」
小姓から手渡された書状をヒラヒラと指で摘んで弄びながら、【フランソワ王国】国王【シャルレ・フランク三世】は、非常に不愉快そうな様子で言葉を紡ぐ・・・。
「ハッ、誠に不甲斐ない事に、【リッシュモン】大将は70万もの軍勢を率いながら大敗してしまい、観測しますに残存している兵力は凡そ20万にまで減って居る様です」
「何と! 余の大切な軍兵を50万人も消耗したというのか!」
「御意! 全く以ってとんでもない仕儀で御座いますが、首都から供与した全ての攻城兵器も遺棄して来たらしく、一台も持って返っていないようです」
「あの何十台もの攻城兵器を揃えるのに、どれ程の年月と莫大な費用が掛かっていると思って居るのだ【リッシュモン】は!
あ奴の命程度では賄きれるものでは無いぞ!」
「全くで御座います陛下!
それでは陛下が予め指示されていた様に、奴の家族と親族を例の【クライスト教団】が所持している、人用の監禁小屋に放り込んで置きますか?」
「否! その程度では生温い!
あ奴の配下である将官共の家族と親族も、同様に監禁小屋に放り込んで置け!」
「御意! その様に措置致しますが、【リッシュモン】大将が申し込んで来た救援要請の書状にある、首都に駐屯する禁軍30万による救援軍派遣に関しては如何になさいますか?」
「全く、厚顔無恥とは恐ろしいものよ、どうやら自分の立場というものが理解出来ていないらしいな。
だが、【リッシュモン】とその配下の将官は兎も角、残存している20万の兵力は惜しいな・・・。
良し、30万は出せんが20万の禁軍を派遣し、追いすがって来た【ドラッツェ帝国】軍15万に対して、倍の兵力で殲滅させよ!」
「ですが陛下! 【ドラッツェ帝国】軍は70万の兵力であった【リッシュモン】大将の率いる兵力に勝っております。
如何に禁軍は【フランソワ王国】軍に於いて最強とは言え、此の不気味な力を持つ【ドラッツェ帝国】軍に対しては、かなりの被害を負いかねませんが?」
「当然、余もその辺は考えておる。
派遣する禁軍20万人には、全員に例の薬を服用させてから戦闘に臨む様に命令させよう」
「例の薬とは、もしや【クライスト教団】から齎された【バーサークの血】でありますか?」
「その通りだ、【クライスト教団】からの説明では、【バーサークの血】を服用すれば通常状態の兵士と比べて、魔力と体力が爆増して凡そ3倍の能力アップとなるそうだ!」
そう国王は側近に対して説明し、小姓に【バーサークの血】と呼ばれるまるで血を固めた様な、錠剤状の薬を持って来させて、側近の前で瓶に詰め込まれたそれを翳す。
「此の【バーサークの血】は、千年以上の歴史を刻む【クライスト教団】が、ひたすらに人体実験を繰り返す事で出来上がった薬で、実際に私はその薬を用いた実験で罪人をサンプルとした、魔獣との対戦をさせてみた処、赫羆とほぼ互角の勝負となっていたぞ!」
何やら嬉しそうに語る国王に、その罪人とは【フランソワ王国】国民では無く他国の人間ですか? とは聞けずに側近がわざとらしい程の驚嘆の声を上げて見せると、雄弁に国王は更に語る。
「さて、それでは首都に駐屯している禁軍の内20万の軍勢を編成し、其奴等にに此の【バーサークの血】を一粒ずつ配布し、【リッシュモン】率いる我が【フランソワ王国】軍を救援に向かうように指示せよ!」
「御意!」
そう返事して側近が、国王の私室から退出して行くと、それに代わる様に【聖教】における司教の服装を来た人物が入室して来た。
「おお、ペテロ司教では無いか!
ペテロ司教自身が教会では無く、ワザワザ余の私室にまで出向いて来るとはお珍しい。
何か特別なご用事かな?」
廷臣には、かなりぞんざいな態度で接する国王が、如何に司教とは云え、只の宗教家を相手に丁寧な物言いをする姿は、もし日頃の国王を見慣れている者からしたら、驚愕ものの姿であったろう。
幸いなのか判らないが、現在、此の私室には第三者が居らず、彼等はかなり親密そうに話し始め、やがて話が終わると誰にも悟られる事無く、ペテロ司教は国王の私室を退出して行った。