第二章 第62話 ブレエン要塞戦『水攻め作戦』②
「・・・凄いものだな・・・」
水攻めにより、押し流されていく攻城兵器や【フランソワ王国】軍の兵士達を、大型パネルで中継される画面越しに眺め、俺達は自分達が計画し実行した事ながら、何とも言えない気分で眺めているしか無かった・・・。
それは当然であろう・・・、何と言っても55万もの軍勢全てが津波に巻き込まれ、ブレエン要塞を破壊し続けていた攻城兵器群が、全て押し流されて根本から破損して行き、やがて完全に倒壊して行ったのだ。
小一時間に渡り波状で押し寄せる津波に晒された【フランソワ王国】軍は、少しばかり高い台地に登った人間と元々頑強な獣人部隊以外は、津波で押し流されてしまい、ある程度水が引いた地面に死屍累々と横たわっている・・・。
「・・・良し、予定通りに此の横たわっている者達は、片っ端から亜空間収納して後方の【ドラッツェ帝国】にある野戦病院群に送るのだ!」
此の宣言が【ゲルト】元帥から各軍の指揮官に命じられ、予め編成されていた救援部隊が彼等を次々に収容して行った。
そんな中、少しばかり高い台地に登った人間と元々頑強な獣人部隊凡そ合計5千人が、犇めき合う様にしている高台に、俺達と【カーン】大将率いる軍でも精鋭部隊、そしてブレエン要塞に籠もっていた【ドラッツェ帝国】軍の精鋭部隊が向かった。
対峙する両軍の間で、何とも言えない空気が流れる中、【カーン】大将が【フランソワ王国】軍に語りかけた。
「聞け! 【フランソワ王国】軍よ!
私は、元【フランソワ王国】軍遠征軍、第一軍指揮官にして遠征軍代表であった【カーン】大将である!
現在我々は、【フランソワ王国】の指揮下から離れて、【ドラッツェ帝国】軍と協力して、現【フランソワ王国】体制の指導者である国王の【シャルレ・フランク三世】を打倒する目的で、新生ベネチアン王国とも協力している」
そう宣言して、一息ついた【カーン】大将は、辞儀を改めて【フランソワ王国】軍に話し始めた。
「ついては、君等の代表である【リッシュモン】大将と上層部の者達と話し合いたい!
【リッシュモン】大将は居られるかな?」
その問いに、【フランソワ王国】軍の残存部隊の連中は複雑そうな顔で黙り込む。
そんな連中の間から、ひょこっと顔を出した小柄な男が返事して来た。
「此れは、お久しぶりです【カーン】大将。
実は、【リッシュモン】大将は例の津波に晒された際に、しこたま水を飲んでしまいそのまま気絶して居り、現在は意識不明の気絶中です」
「貴官は、【リッシュモン】大将の懐刀だった【ボナパルト】少佐だな。
了解した、貴官を含めて上層部は気絶中の【リッシュモン】大将を連れて、ブレエン要塞の医務室に向かってくれ、そして此処に居る軍人と獣人部隊の者達も、少し離れた場所に野戦病院を建てているので、武装解除に応じる者は直ちに医療が受けられる様に手配しているから、降伏では無いので余り痩せ我慢をせずに治療を受けてくれ」
そう【カーン】大将が説明すると、顔を見合わせた軍人達の中で、幾人かの軍人が怪我を負った者や昏睡状態の者を担いで来て、俺達の指示に従い野戦病院に連れて行かれ、元気な者達はそのまま此の高台に残り、俺達と【リッシュモン】大将の交渉結果次第で方針を決めると云うことになった。
現在では、既にブレエン要塞の玄関口である大手門は大きく開かれていて、上空で隠蔽モードを維持している【オーディン】と連携して、津波で被害にあった怪我人達を収容して治療する事と、此の機に乗じて攻撃して来ないかと周囲の警戒に全力を尽くしている。
そんな状態のブレエン要塞に収容した【ボナパルト】少佐と気絶中の【リッシュモン】大将、そして【ボナパルト】少佐と同僚の幕僚達は、【リッシュモン】大将以外は簡単な問診と【ヒール】の魔法を受けて、我々との交渉する為に現在の状況確認をお互いにする事になった。
先ず、我々の津波攻撃によって押し流されたり怪我を負って収容された【フランソワ王国】軍は、概算で40万人に上り、その内の9割方は時間が掛かるかも知れないが治る事が判明しているが、幾つかの付近の高台に逃げおおせた5万人以外の残り行方不明の10万人は、恐らく津波の勢いで亀裂が走った地面の裂け目に落ちてしまったと考えられる事を伝えた。
「・・・此れでもあの凄まじい津波から、よくぞ生き残ったと言えますし、貴方方の迅速な行動のお陰で沢山の軍人が助かったのですね・・・」
「・・・嗚呼、本当ならば此の様な極端な作戦は我々としてもしたくは無かったが、【リッシュモン】大将の構築した堅牢過ぎる程の布陣と、信じられない程強力なアーティファクトの所為で、此の作戦しか攻略方法が存在しなかったのだよ・・・」
「・・・其れは、お褒めのお言葉だと聞いて置きますよ【ゲルト】元帥・・・。
しかし、私は今現実に貴方と会話していても、未だに信じられないで居るのですが、こんな通信手段を貴方方は使用していたのですね・・・。
【星人】の超技術とは、本当に凄まじいですな!」
そんな風に慨嘆しながら、あくまでもオブザーバーとしてしか参加していない俺にチラッと視線を向けて、【ボナパルト】少佐は首を振った。