第二章 第61話 ブレエン要塞戦『水攻め作戦』① 【アルテュール・ド・リッシュモン】視点
◇◇◇【アルテュール・ド・リッシュモン】視点◇◇◇
ブレエン要塞への攻城戦を開始してから、凡そ1ヶ月が経った・・・。
その間にも、度々ブレエン要塞を救う為らしき、【ドラッツェ帝国】軍による外部からの牽制攻撃が行われたが、その尽くを鎧袖一触で退けたので、此処2週間程は全く牽制攻撃どころか、偵察も行われなくなってしまった。
恐らくありとあらゆる魔法攻撃が通じず、他の手段や大きく迂回して首都に直接攻撃する等の方策を考えているのだろうが、首都には精鋭である禁軍20万が駐屯しているので、国力の減衰で多くの兵力を失っている【ドラッツェ帝国】軍では、とてもではないが禁軍20万を抜くことは出来ないだろう。
ただ、懸念すべきは各地方から糾合した兵力が此方に居るので、属国や各地方の反乱に対処する兵力が地方には存在しないので、戦後にはそれぞれの地方を鎮圧しなければならないと云う、非常に気が滅入る仕事が将来は増えてしまった。
なるべく早くにブレエン要塞を奪還して、元の国境線である【マジノ線】を【フランソワ王国】の手に入れて、【ドラッツェ帝国】へ睨みを利かす事にする為には、少なくとも2週間後にはブレエン要塞の攻略に目処をつけなければならない。
しかし、ブレエン要塞に対して万全と思える膨大な攻城兵器を使用していると云うのに、中々城壁の破壊が上手く行っていないのが現状だ。
攻城兵器で何箇所を同時攻撃して、かなり防御能力を失わせたので翌日には完全に崩壊させようとしていたのだが、何と次の日には城壁の破壊された部分には、奇妙な形を変える金属が補強材として使われた強固な城壁が出来ていて、いざ攻城兵器で再度攻撃して破壊しても暫くすると奇妙な形を変える金属が、その破壊された部分を埋め尽くしてしまい、返って強靭さが増してしまい手が付けられない事になる。
流石に全ての城壁を此の奇妙な形を変える金属で覆う程の量は存在しない様で、段々と破壊された箇所の内、土壁で対応して来る箇所も増えている。
なので現在は、幾つかの重点箇所での敵味方の攻防がひたすら繰り返されている。
正直な処、何処かのタイミングで犠牲を顧みずに徹底的な攻撃をして、一気にブレエン要塞を攻略する必要が有るだろう・・・。
その時の被害を最小にするべく、様々な手当を旗下の幕僚と対処を考えて、明日の攻撃に向けてその日は早めに就寝する事にした。
だが、いざ翌日になって早朝から攻撃準備の為の手当をしていると、何かの音が聞こえて来る。
(何だ? ブレエン要塞からの音か?)
と思いながら、天幕から顔を出して確認すると、どうやらブレエン要塞とは反対方向の首都方面から聞こえて来るのが判った。
(もしかすると、【ドラッツェ帝国】軍の攻撃か?)
直ぐ様着替えを整えて、自身の天幕から出て会議用に設えた天幕に入り、幕僚達と迎撃する為の打ち合わせをしていると、突然血相を変えた兵士が会議用に設えた天幕に飛び込んで来て、大声を張り上げた!
「水です! 大量の水が此の場所目指して押し寄せて来て居ります!
一刻も早く高台にお逃げ下さい!」
そんな有り得ない言葉を吐かれて、一瞬思考が止まったが、直ぐに自我を取り戻して天幕から出て、近くに設けた物見台に駆け上がる!
すると遥かな地平線から押し寄せて来る高さ5メートル程の津波が、濁流となって此方に向かって来るのが視認出来た。
瞬間思考が停止して呆然としてしまったが、気を取り直して物見台から駐屯地に居る兵士達に向かって、吠える様に大声を張り上げた!
「直ちに只今居る場所より高い場所に避難しろ! 水攻めだ!
津波となった大量の水が、此方に押し寄せて来る!
逃げるんだ!」
そう叱咤する様に大声で兵士達に命令したが、心の内では迅速な行動は無理だと判断していた。
(・・・私もだが、人は想定していない状況に陥ると、思考が停止して咄嗟には動けなくなるから、逃れられる兵士達は少ないだろうな・・・)
(そもそも、此の大量の水は何処から出現したのだ?
近隣には大河は存在しないし、魔導具やアーティファクトで水を生み出したとしても、此れほどの量は簡単には確保出来ないだろうし、大体上手く水勢を導く事が難しい筈だ!)
そう考えながらも、近くの兵士達を連れて近隣の高台目指して、必死に馬に騎乗して誘導して行った。
その間にも、段々と大きくなる津波の轟音が響いて来て、戸惑う兵士達が慌て出したが、明らかにその時点で手遅れとなっていた。
ドドドドドドドドドッーーーーー!!!
その轟音を伴った津波は、水勢を少しも衰えさせずに一気に我々の駐屯地に襲いかかった!
「うわわわわーーーー、た、助けてくれーーー!」
「な、何でこんな場所に洪水が?!」
「お願いだ! だ、誰かお助けを!」
「ぐあああああああーーー!」
「く、来るなーーーー!」
「ど、どうしてこんな事に?!」
兵士達の上げる悲鳴を、心が張り裂ける様な気分で聞きながら、己をひたすらに心の中で叱咤し、何とかある程度高い高台に辿り着いた。
しかし、高さ5メートルの津波に対して十分かどうかは判断できず、何とかなる事を信じて迫って来る津波を見つめる事しか出来ずに居た。
そしてそのまま私は、意識を失ったのであった・・・。