第二章 第59話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】㉔
若者は少しも上官の将官が連なっていると云うのに気負う様子も無く、淡々と自身の考えた方策を説明し始めた。
「此処は、一旦全ての戦略常識を頭から綺麗サッパリ忘れ去り、政略面での【フランソワ王国】を追い詰める事を検討するべきです。
現在【フランソワ王国】の殆どの地方は、予備役の兵士も全てと言って良い程に徴集されていて、全くの無防備と言って良く、然もそれぞれの地方の食糧倉庫からは、普通の民間人を動員した上で運送業務を義務化しております。
つまり、仕事の出来ない老人や子供等を除いて、【フランソワ王国】国民は国家からの命令で挙国一致体制で必死に今の状態を支えている訳です。
ですがそれは、あくまでも【フランソワ王国】国民の犠牲を国家が強いる事で成り立って居ります。
此の状態を長期間続ける事など、常識的に不可能であり、相当に【フランソワ王国】の中枢部は国民からの鬱憤を溜め続けている事でしょう」
一旦、発言を止めて若者は大型パネルに広域戦況図を係りの者に切り替えさせた。
その上で、幾つかの河川と大河を示しつつ、その流域に存在する様々な集落と街や村々を、指示棒で指し示しつつ説明を再開した。
「皆様もご存知の通り、魔力の保有量が多い人材は当然軍隊に徴集されていて、魔法での様々な貢献を軍にする為の要員となっていて、その仕事の中には生活にも必需な【水魔法】での貢献も含まれます。
【水魔法】は飲料水や洗濯そして医療用水等にも使われますが、感染病の予防として排泄処理の用水としても重宝されます。
ですが、此の様な貴重な人材を徴集された側の、集落と街や村々の生活はどうでしょうか?
ほぼ確実に、河川と大河から水を引いて暮らしている筈です。
然も今の状態では、水を汲む作業だけでも大変な負担となり、集落と街や村々は正に瀕死に近い状態と言えるでしょう。
此の様な状況が続いている今ならば、平時には有り得ない程に平民は【フランソワ王国】への忠誠は、相当低下している事は確実と思われます。
実際に色々な地方に潜ませている、スパイ達からもそれを裏付ける証拠や風評が報告書で上がっています。
恐らくは、彼等【フランソワ王国】の平民達に生活の保証と、徴集された夫や父親の罪は問わないと声明を出せば、問題少なく投降すると考えられます」
其処までの話しは、我々の間でも散々討論されて来たので、別に真新しくは無かったが水資源を大前提にした話しは目新しかった。
「・・・ふむ、此処まで水資源の話しをするとなると、何やらその方面の策があると思うから、続けて話す様に・・・」
その俺の言葉から、我が意を得たりと顔を綻ばせた若者は、続けて説明し始めた。
「流石ですヴァン様!
先ずは、その策を話す前に前提条件を整える話しを致しましょう。
彼等【フランソワ王国】の平民達を投降させた後に、彼等をその土地から離れさせるための運搬条件が御座いますが、此れを【オーディン】での亜空間収納を利用する事で、今現在インフラ整備されていて生まれ変わった【ドラッツェ帝国】の国土内に存在する、新たな開拓地に疎開させて、戦後は彼等の望むままに新生【フランソワ王国】か疎開した【ドラッツェ帝国】の新たな開拓地に住んで頂きます」
「その辺りの話しは、【ドラッツェ帝国】の皇帝陛下と宰相に図って貰う必要が有るが、そんなに悪い扱いにはならない事は俺が保証する」
「有り難う御座います、ヴァン様!
それでは、策を申し上げますと、現在の打つ手無しの状況は一重に【ブレエン要塞】に対して攻城戦を挑んでいる、【リッシュモン】率いる55万もの【フランソワ王国】軍が堅牢である事につきます。
ならば、何が奴等に効果的か考えてみましょう。
奴等は広域における魔法の攻撃や防御を抵抗してしまう、アーティファクトを使用しています。
ですが、当然ながら無限の効果範囲などは有りえませんし、その効果範囲にいる彼等自身も魔法が使用出来ません。
ならば効果範囲外からの攻撃ならば如何でしょうか?」
「否、その場合でも超遠距離からの魔法による攻撃では、魔法自体が効果範囲に達した段階で、抵抗にあってしまってほぼ全てが無効化される」
「然も、幾重にも魔法を重ねて放出しても、魔法で有る限り抵抗されて無効化された」
俺以外の者達が、代わって答えてくれたが、若者はその通りだと言わんばかりに頷いた。
そして説明を再開する。
「私も、その抵抗された様々な実験攻撃の報告書は、読まさせて頂きました。
然も物理攻撃をする為に、火薬の導火線に火を付ける為の火魔法である【松明】もキャンセルされたと云うことでした。
ですが、広域な効果範囲よりも遥かに遠くから、然も自然現象と物理的な理屈で、質量によって向かって来る物に対してまでもは抵抗出来ない筈です」
此の時点で、俺は此の若者の大枠での策謀と論旨の先が読めた!
バンッ!
と直ぐ側に有る机の上を手で叩き、俺は叫んだ!
「そうか、【水攻め】だな!」
その俺の叫びを聞き、若者は大きく頷く。