第二章 第58話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】㉓
正直な処、こんな展開は望んでいなかったが、【フランソワ王国】軍は非常に堅牢な布陣のまま【ブレエン要塞】に近付いて来て、要塞からの様々な魔法攻撃を雨霰と受けたのだが、ある程度予想していた通りに魔法攻撃は全て抵抗してしまい、全てが無効化されてしまった・・・。
【ソロモン】から聞いていたのだが、【フランソワ王国】に取り上げられた魔導具やアーティファクトの中には、全ての魔法攻撃をキャンセルしてしまったり、かなりのレベルの魔法攻撃を抵抗してしまう物が有ったそうで、恐らくは攻撃して来ている【フランソワ王国】軍には、携行可能の抵抗してしまうアーティファクトが配備されているだろうと【ソロモン】は推測していた。
(・・・やはり魔法は殆どが抵抗されてしまい、此の地域一帯がその効果範囲となっているから、物理的な攻撃と防御が主体の戦闘になってしまったか・・・)
その事を完全に把握していたらしい【フランソワ王国】軍は、兵士達が【ブレエン要塞】から投射される弓矢や投石から身を庇う盾に守られながら、数多の攻城兵器の最終組立に取り掛かり始めた。
(ふむ、決して長くない訓練期間だった筈なのに、キビキビとした動きで仕事を熟している兵士が多い。
恐らく、【リッシュモン】の配下達もかなり優秀な将官が揃っているのだろうな・・・)
着々と仕上がって行く敵の攻城兵器を確認し、敵の布陣構成を改めて精査して、敵の布陣の弱点を見出そうとしたが、中々見つけられないので、仕方無く側面に俺達機甲部隊は牽制攻撃を仕掛ける事にした。
素早く隠蔽シートを跳ね上げて、そのまま横一列の陣形で敵側面に物理的な遠距離攻撃である、火薬を用いた爆発物や弾丸による射撃を試みた!
だが、やはり備えていた様で、獣人部隊でも巨大な巨象部隊と巨犀部隊が、信じられない程の巨大な盾を掲げ、俺達機甲部隊の側面攻撃をその巨大な盾で防ぎきった。
(・・・やはり対策していたか・・・、此れは完全に大昔の攻城戦をする事になったな・・・)
苦虫を噛み潰した様な表情を自分自身浮かべている事を自覚し、やるせない気分に陥りながら、俺は効果が見込めない側面攻撃を諦めて、機甲部隊を直ぐ様撤退させて、遥か後方に迂回している味方の【カーン】大将率いる軍勢と合流すべく、進路を変えて彼等と連絡を取り合い、合流地点に向かったのである・・・。
◆◆◆◆◆◆
当初の予定合流地点からかなり離れた地点で合流し、小型ドローンを20機で周辺を警戒させながら、天幕を設けて【カーン】大将達と俺達は今後の方針を話し合うべく会議を始めた。
「・・・それでは、私共の軍勢が戦場に赴いても手の出しようが無いという事ですか・・・?」
そう【カーン】大将が呻くように聞いてきたので、俺は答える。
「嗚呼、奴等が魔法攻撃を抵抗してしまうアーティファクトを、広域展開している以上は、最も攻撃力の高い魔法での攻撃は全て抵抗されるし、俺達の使用する物理攻撃は巨大な獣人部隊が持つ盾で防がれるし、超技術の粒子砲も盾に施された魔鋼での偏光技術で無効化された。
事実上、戦場に赴いても攻撃する手段が存在しないので、打つ手が無い!」
其処まで話すと、俺は眼の前に置かれた冷たいお茶を一気に飲み干して、お代わりを天幕付きの従者にお願いして一息ついた。
その後は、幾つもの当初練られていた作戦案を【カーン】大将とその幕僚達と見直し、【ブレエン要塞】の将官達や新生ベネチアン王国軍の将官達とも話し合う・・・。
すると、新生ベネチアン王国軍の末席にいた若者が挙手した。
何かの意見が有るのだろうと期待して、俺が指名するとややはにかみながらも若者は意見の前に前提を述べ始める。
「先程からの作戦案の変更点でもネックになっているのは、結局は此の地下道を使用する兵站線は崩せないと云うことですよね」
そう此の若者が言う通り、俺達が問題のネックとしている点は、把握して居なかった地下道が兵站線として首都と前線を繋いでいる事実である。
此の地下道の存在を、元【フランソワ王国】軍所属の【カーン】大将とその幕僚達は把握していなかった。
どうも、【フランソワ王国】でもほんの一部の上層部しか此の地下道の存在を、一切知らされていなかったので、表面上は地上の只の幹線道路しか今迄兵站線として利用して来なかったので、当初作成した作戦案でも兵站線を崩す事は、それ程難事業とは想定していなかった・・・。
だが、地下50メートルもの深さで掘られている地下道は、入口と出口以外が存在せず更にはその深さもあって難攻不落の様相を呈していて、簡単に攻略出来そうも無い。
「ならば、兵站線の攻略を考慮の対象から一旦外し、別の対象を攻略対象としましょう!」
どうやら、俺達が考えていた視点とは別の方向の視点から、戦略を構築させようと考えたらしい若者を注視して、彼の提案を俺は待つ事にした。