第二章 第57話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】㉒
【フランソワ王国】軍が着々と攻城兵器を準備しながら、ゆっくりと【ブレエン要塞】に接近して来ている時に、此方の味方である【カーン】大将率いる軍勢が、【フランソワ王国】軍の後背に向かうべく大きく迂回して行軍している。
その行軍中に【カーン】大将から、相手の最高指揮官と思われる人物についての説明を受けた。
「・・・此の映像から判断するに、恐らくはリッシュモンでしょう、本名は【アルテュール・ド・リッシュモン】と言い、余りにも【フランソワ王国】国王である【シャルレ・フランク三世】に対し、正論での抗議を数々述べて来て、国王から忌み嫌われてしまい、左遷させられて田舎の兵站管理官まで官位を下げていた人物です。
しかし、貴族であるにも関わらず、兵士の心を理解して常に兵士達の代弁者としての態度を崩さない男で、非常に兵士達からの人気が高い男でした。
百年戦争における彼の戦歴は、非常に手堅い堅実な戦術を駆使する安定感があり、奇抜な戦術や相手の裏をかく様な戦術は使用しません。
故に彼の戦術は正攻法そのものなのですが、その堅牢さは常識外のレベルであり、非常に兵士の損耗率が低いので、彼の軍に所属したがる兵士が多かった思い出があります」
そんな男が、最高指揮官に大抜擢されて、約55万もの大兵力で攻めて来ているのだ・・・。
「・・・成る程・・・、良く理解できた有り難う【カーン】大将。
しかし、そんな男が率いて居るとなると、此方としては幾つかの作戦案を捨てなければならなくなったな・・・。
とてもでは無いが、少しちょっかいを掛けた所で、絶対に揺るが無いだろうし、小細工を仕掛けても簡単に跳ね返してしまうだろう・・・。
本当に厄介な事になったな、余りしたくは無かったが敵軍の兵站線にひたすら攻撃を仕掛けて、長期戦での勝利を挑むしか無いかも知れないな・・・」
「そうですね、軽々しい戦術ではリッシュモンは揺るがないでしょうから、側面からの搦め手に戦術を練り直す必要があると思われます」
そんな会話をしてから、俺は【ドラッツェ帝国】の上層部に、敵の最高指揮官が非常に厄介な男である事を伝えて、長期戦に入る可能性を認識させた。
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◇◇◇【アルテュール・ド・リッシュモン】視点◇◇◇
俺が突然【フランソワ王国】の首都に呼び出され、王城に出頭を命じられたのは今から3ヶ月前だったろうか・・・?
首都に着くと着の身着のままで軍令部に出頭させられて、突然現在の職務である兵站管理官の官位を取り上げられた。
訝しんでいる俺を尻目に、軍令部の幕僚達が、
「直ちに此れに着替えてから、王城に出頭して国王からの辞令を受ける様に!」
と命令して来たので、否も応もなく用意されていた大将の儀礼装に着替えさせられて王城に連れて行かれた。
そしてあれよあれよという間に、玉座の間まで連れ出されてしまい、【フランソワ王国】国王【シャルレ・フランク三世】の御前に出されてしまい、いきなり大将の辞令を受けさせられてしまい、そのまま新しく編成された軍勢の最高指揮官まで受領する事になった。
廷臣達が居並ぶ玉座の間では問答も出来ず、只々受け入れるしか無かったが、その後に国王の私室に呼び出された俺は、内幕を知らされる羽目となった。
「・・・つまり、【ドラッツェ帝国】軍は例の【ブレエン要塞】まで進軍して来ていて、然もその要塞を拠点にして更に防御を固めていると・・・」
「・・・その通りだ・・・、本来なら此の様な進軍は前線に配備してあった国軍が、当然要撃するなり迎撃して粉砕しなければならないのでが、現在、国軍とは一切連絡がつかずどうなっているかも判明していない。
よって、新たに【フランソワ王国】国内と各属国に配備して置いた兵力を糾合して、【ブレエン要塞】を占拠している【ドラッツェ帝国】軍を粉砕し、国境線を回復させなければならない!
その迎撃軍の最高指揮官を軍令部に選出する様に申し渡した処、貴官を推す意見が大多数だったのだ。
【リッシュモン大将】! 貴官には【ブレエン要塞】攻略と国境線回復の命令を下す!
新たに徴集した予備役兵や各属国に配備して置いた兵力を糾合して、然るべき訓練を施した後に進軍して貰いたい!」
そう部屋に居る軍令部の幕僚に命令を下されて、色々と状況を鑑みて可能かどうかの推察を脳内でシミュレートした後に、俺は幾つかの申し入れを行った。
「・・・先ずは、私の旧部下達を各地方から呼び戻し、改めて私の部下に配属させて欲しい。
そして、当然要塞攻略なので、首都の軍倉庫等に眠っている攻城兵器を、全て整備した上で私の管轄下に置いて頂きたい。
更には、兵士達をなるべく損耗したくないので、武装及び飛び道具の類を整えたいので、後に要求する事になる経費に関しては無条件で応じて貰いたい!」
其れ等の要求を申請した処、此の場に居た財務官僚と思われる人物が、渋い顔をしながら口を挟もうとして来た。
だが、その機先を制して何と【シャルレ・フランク三世】国王が、俺に向かって話し掛けて来た。
「その要求を全て叶えれば、余の命令する軍事行動を全て完遂出来るというのだな? 【リッシュモン大将】よ」
「勿論で御座います陛下!」
即答した俺に満足したのか、【シャルレ・フランク三世】は頷きながらねめ回す様に俺を上から下まで見て、側に控える官僚達を部屋から追い出し、俺に近付いて来て耳元で囁いた。
「呉れ呉れも頑張るのだぞ、もし敗れて首都までの道が無防備状態になると、貴官達の家族にまで厄災が降り注ぐ事になる、その事を常に気に留めて置け」
そう呟くと【シャルレ・フランク三世】は、そのまま部屋を退出して行ったのだが、俺は何故かは判らないが国王が側に来た時の異臭と、自身の身体から湧き上がる悍ましさに戦慄してしまい、暫くの間そのままの位置で棒立ちしてしまっていた・・・。