第二章 第56話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】㉑
新たに編成された【フランソワ王国】軍は、各地から合流して来た軍勢を糾合し、公称70万で実数は約55万の兵力で此方が拠点としている【ブレエン要塞】まで後1日の距離まで進軍して来た。
此の地域は【フランソワ王国】でも重要な大穀倉地帯なので、予め表層の地面毎切り離して【時間凍結】した上で【亜空間収納】を周囲20キロメートルに渡って行ったので、戦場となると予想される【ブレエン要塞】周辺は、まるで別の地域と入れ替わった様になっている。
此の戦場を整えたと同時に我々【ドラッツェ帝国】軍は、恐らく先陣を切って攻撃して来るだろう【フランソワ王国】が利用している獣人部隊でも、速力重視の狼型や犬型に対抗する為に幾つかの罠を戦場に仕掛けて置く。
我々は【ブレエン要塞】の防御強化を当然、従来よりも更に増させているが、如何に強化していても敵の獣人部隊でも最強と思われる巨象型や巨犀型が城壁に達すると、それ程保たないと想像出来る。
なので予め要塞外に遊撃部隊を配置し、敵の思惑通りに要塞攻撃させない為の邪魔をさせる事にした。
此の遊撃部隊には、圧倒的な速力とそれなりの打撃力が求められるので、やはり俺を始めとしたPS部隊と戦闘バイクそして戦闘車両で構成された機甲部隊が請け負うのが適切なので、援護の小型ドローンと連携して引き受けた。
当然戦闘中の要塞から出撃するのは困難なので、予め1日前の今日からかなり離れた場所で隠蔽シートを使用した埋伏する事にした。
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朝靄が立ち込める【ブレエン要塞】の周辺に、ザッ、ザッ、ザッ、という整然とした軍隊の足音がゆっくりと近付いて来るのが俺の埋伏している場所からも聞こえて来た・・・。
かなり無理矢理の徴集した兵士なのに、此の短時間で整然とした軍隊に仕上げるとは・・・。
恐らく新たに編成された【フランソワ王国】軍の指揮官は、かなりの遣り手の将官だというのが判った。
更には中級指揮官も優れているらしく、殆ど敵軍から咳きも無い様子だ。
【ブレエン要塞】から約3キロメートル程の距離で行進を止めた敵軍は、俺達の想定していた行動の内最もしないだろうと考えて居た行動をし始めた。
奴等は何と慎重に一歩ずつ罠を確認する様に歩み始めて、周囲への警戒も怠らずに進軍して来たのだ。
(・・・此れは・・・、予想外も良い所だな・・・、色々な情報筋から集めていた内容では、今回の会戦で【フランソワ王国】軍の最高指揮官に任じられている男は、【フランソワ王国】軍部でも長年卯建が上がらない事で有名で、ひたすら後方勤務に明け暮れていた人物だと聞いていた・・・。
だが、此れまでの進軍でも予想しているよりも【フランソワ王国】軍は統制が取れているし、規律が整って居る様だ・・・。
もしかすると、此の戦いは非常な難戦となるかも知れないな・・・)
俺は、敵を相当侮っていた事を反省し、埋伏したまま敵軍の情報を小型ドローンからのカメラ情報をモニターで確認し、【ブレエン要塞】と【カーン】大将の率いる軍に最大限の警戒をする様に依頼した。
ゆっくりと進軍して来た【フランソワ王国】軍は、【ブレエン要塞】に近付きながらもその間に攻城兵器の幾つかを組み立てて行く。
【フランソワ王国】軍が用意している攻城兵器は、次に述べる四種類である。
1、【衝車】・・・・・破城槌の一種で「撞車」とも呼ばれ、巨大な突き棒を備えた兵器で城門や城壁をその突き棒で破壊する。
2、【カタパルト】・・・・・城壁を叩き潰す必要上、大きな投射物を飛ばすために機械的なエネルギーを用いた兵器。
木材や獣毛や腱・植物製の綱などの弾力と、てこの原理を利用して、石などを飛ばすものである。
3、【バリスタ 】・・・・・梃子を用いて弦を引き絞り、石や金属の弾、極太の矢(あるいは矢羽のついた槍)、複数の小型の矢、矢弾を弾き出す動力は弓が主だったが、複数の弓を並べたり、捻った動物性繊維の太縄や金属製のばねを用いる。
3、【攻城塔】・・・・・攻撃目標への防壁に接近する際の反撃に対して、攻城側の兵力やはしごを防御するように設計されている。攻城櫓とも呼ばれる。
木造の移動式櫓で、城壁に板を渡して兵士を城内に乗り込ませ、また最上階に配置した射手により城壁上の敵を制圧するのが目的である。
此れ等を、【フランソワ王国】軍は相当数用意していて、敵の指揮官の用意周到さと本気で【ブレエン要塞】を奪還しようとしている意気込みが感じられた。
(・・・此れは相当な激戦を覚悟する必要があるな・・・)
更に敵兵一人一人が、弓矢や手投げ槍そしてボウガン等の何らかの遠距離武器を携行していて、此の軍勢の強さが垣間見えて来る。
どうやら我々は、【フランソワ王国】を追い詰めた事で、本来なら出てこなかった名将を、戦場に引きずり出してしまった事に漸く気付くのであった・・・。