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第二章 第52話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】⑰

 【ブレエン要塞】の至近に数多くの天幕を張り、俺達は見張り番を立てて就寝して行った。


 当然だが此れはもし【フランソワ王国】軍が、何らかの魔法技術等で空間と距離を無視した攻撃、或いは何らかのテロリズムを仕掛けて来る事を警戒しての擬態である。


 それとは別に何時も通りに、物理的なセキュリティと空間技術による安全措置は俺の出来る限り行っている。


 そんな状態を続けていたが夜半になっても、中々【フランソワ王国】の側は仕掛けて来ない・・・。


 翌日になり、丑三つ刻を越えた辺りで今夜は来ないかも知れないと、判断仕掛けたタイミングで、いきなり読経の様な声が1キロメートル程の距離から上がった。


 その事実に浅く眠っていた俺は、飛び起きながら驚愕していた。


 (バッ、馬鹿な?! 空間の揺らぎどころか魔法反応すら無かったのに、こんな至近距離まで詰められているとは?!)


 背筋を凍らせる様な戦慄を覚えながら、[ヘルメス]に命じて浅い眠りに入っていた【ドラッツェ帝国】軍の兵士達を、覚醒状態にする様にナノマシーンを通じて促すと、次々と兵士達は目を覚まして臨戦態勢に移った。


 だが、そんな【ドラッツェ帝国】軍を見ても、読経の様な声は少しも止まずに、妙なイントネーションで歌が歌い続けられる。


 夜闇に目が慣れてきた事もあって、体内のナノマシーンで視力を増幅した俺の目には、奇妙な読経の様な歌を歌い続ける集団が、場所を移動もせずに居るのを発見した。


 其奴等は、どうやら【聖教】の信者らしき服装をしていた。


 然も全員が奇妙な十字架クルスを右手に持ち、自身の前方に掲げている。


 (何だ、此の違和感は?)


 そう疑問に思いながら、此の集団を観察していると、違和感の正体が判明した。


 本来、十字架クルスというものは、上が短く下が長くてその下側を手に握って掲げるのだが、此の集団の連中は全員が全員逆に手に握っていて、奇妙に上が長い十字架クルスとなっているのだ。


 此の集団に対して、我々【ドラッツェ帝国】軍はゆっくりと装備を整えつつ、隊列を組んで警戒をして行く。


 ただ、あくまでも此の奇妙な集団は【フランソワ王国】軍には見えないし、此方に明確に敵対する様な行動を仕掛けて来ないので、どう対処して良いか判断が着かなくて、若干戸惑ったまま傍観するしか無い。


 そうやってどの様な対応をするべきか思案していると、やがて読経の様な歌の内容が盛り上がる様にオクターブを上げると、彼等は突然十字架クルスを自分の胸に突き刺した!


 (何だと?!)


 突然の突飛すぎる行動に、俺を始め【ドラッツェ帝国】軍の全員が戸惑ったまま立ち竦んでいると、突如地面に青白く輝く幾何学模様の代物が浮かび上がる!


 《こ、此れは、まさか逆十字架アンチクルスによる召喚術?!》


 天幕に設置して置いた通信機から、呻く様に聞こえて来たのは【ソロモン】の焦り混じりの、驚嘆を伴った声である。


 俺はそのに青白く輝く幾何学模様を見ながら、通信機を取りに戻り、通信機を通して【ソロモン】と会話する。


 「【ソロモン】! 逆十字架アンチクルスによる召喚術とは何だ?」


 《ヴァン様! 眼の前に現れたモノは、【召喚魔法陣】の一種で生贄を使用する禁術です!

 本来召喚術とは、魔獣や魔物等のこの世に存在するモノを召喚するのですが、生贄を使用する禁術の場合は現世に基本は存在しない、異界や次元を越えた存在を召喚する為に使用されます!》


 「という事は、奴等は【旧支配者】の眷属を呼ぶつもりなのか?」


 《いえ、こんな急ごしらえの【召喚魔法陣】と、逆十字架アンチクルスによる召喚術では、精々【旧支配者】の眷属でも下級の存在しか呼べないでしょう。

 恐らくは嫌がらせが目的ではないでしょうか》


 「・・・ふ~む、確かにこんな事を毎晩繰り返されては堪らないな・・・。

 かと言って、放置する訳にも行かないから、取り押さえるとしよう・・・」


 そう言って、俺達は十字架クルスを自分の胸に突き刺し、悶絶している信者達を収容する為に、彼等に近付こうとしたが、その瞬間、【召喚魔法陣】から何かの大きな塊が大量に湧き出して来た!


 其れ等は、暫くの間は大きな塊のままで蠢いていたのだが、やがてバラけ始めて一つ一つが大体人間大の大きさで分裂し始めた。


 どうやら其れ等の人間大のモノは此の世界に存在する獣に似た存在らしく、そして塊毎に幾つかの種類が存在する様で、一つの種類は四足歩行の猿に酷似していて、又、一つの種類は鰭が足の様な巨大な魚類に見えたり、更に一つの種類は二足歩行の大きな鳥の様に見えた。


 其れ等は当初、纏まりもなく動いていたのだが、例の信者集団の中に居た司祭風の男が奇妙な笛を吹き始めると、突如として此方に向き直り強烈な殺気を放ち始めた!


 (・・・どうやら、倒すしか無さそうだな・・・)


 【ドラッツェ帝国】軍は、此の強烈な殺気を放つて来る大量の存在に対して、軍上層部の命令が発せられたので陣形を取り始めた。


 その陣形の名は、【衡軛こうやくの陣】。


 段違いにした二列縦隊で遠距離攻撃である攻撃魔法や、魔法弾を使用した魔法銃の攻撃で敵の動きを拘束し、敵を包囲殲滅することを目的とした陣形である。


 此の強力な迎撃陣形を取る我々に、敵は無秩序な雪崩の如く押し寄せて来る!


 そう、今から始まる戦闘こそが、百年戦争における【フランソワ王国】の国土で行われた初めての戦闘となったのである・・・。

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― 新着の感想 ―
[一言] またも出ました「衡軛の陣」魚鱗の陣のように敵を包みこむように前列を布陣し、後列は前列とずらすように防衛のための布陣を作る陣形とありました。それに、新たな召喚術も、こうしたのがいつもながら流石…
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