第二章 第49話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】⑭
「・・・お互いに衝撃だっただろうが、此の事実を突きつけられた以上は、私としては完全に己の主君たる【フランソワ王国】の国王である【シャルレ・フランク三世】に対して、万全の信頼を寄せる事は出来ない・・・」
そう言って【フランソワ王国】軍の指揮官である【カーン】大将は、己の同僚達に向かって現在の素直な心情を吐露した。
同僚である将官達も、苦い表情を崩さずにそのまま黙り込む・・・。
先程見せられた映像も然ることながら、自分自身が人事不省に陥る羽目になった先の戦闘で、突然出現した正体不明の怪物への生物としての根源的恐怖!
あんな悍ましい怪物を、己の所属する【フランソワ王国】の国王である【シャルレ・フランク三世】が、【クライスト教団】という謎の組織から供与されていて、それが偶然かも知れないが自分達の軍勢に向けて牙を向けて来たのだ・・・。
その時の映像も資料には添付されていて、どうやら一万人に及ぶ軍人が空間毎こ削ぎ取られる様に喰われたのである。
その時自分自身も近くの戦場で戦っていて、ヴァン殿が適切な対応を取ってくれなければ、恐らく数分と掛からずに喰われたのだろう・・・。
直接その怪物を【カーン】大将自身は視認していないが、あの悍ましい気配とそれに伴い己の中で湧き上がった凄まじい戦慄は、今も尚身体の奥底に確実に刻み込まれている。
とてもでは無いが、あんなモノを容赦無く他国に使用する己の国王に、【カーン】大将のみならず【フランソワ王国】の将官達も、違和感どころか恐怖を伴った拒否感を抱いていた。
そしてそれから2時間掛けて、此れからの自分達の選択を話し合った。
【ドラッツェ帝国】は、現在我々が率いていた兵士全員を捕虜にして居らず、特殊な方法で抑留しているらしいが、此処であくまでも【フランソワ王国】軍として敵対する事を表明すると、忽ち捕虜として捕虜収容所に収容されてしまい、捕虜交換か戦後にしか解放されない事となってしまう。
あの国王が、捕虜交換の交渉を【ドラッツェ帝国】との間でする訳も無いし、例え【フランソワ王国】が勝ったとしてもあの怪物の真実を知る我々が、平穏無事に本国に帰還出来るとは到底思えない。
どう楽観視しても、我々と兵士達は国王の手により闇に葬られるのが落ちであろう・・・。
とすると、選択出来る選択肢は自ずと一つしか無い様だ。
そう結論づけた我々は、相談室を出て再び会議室に向かった。
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【カーン】大将とその同僚たる将官達が、吹っ切れた顔をして会議室に戻ったので、俺達と【ドラッツェ帝国】上層部は頷き合うと、今後の方針を再度話し合う事になった。
今回はさっきの会議と違い、積極的に【フランソワ王国】側の【カーン】大将と将官達が、此方の考えに同調してくれたので、ドンドン今後の方針の概略が決められて行った。
先ずは大略として、表向きは【フランソワ王国】軍が【ドラッツェ帝国】軍と協力している事は秘密にして、ある程度の橋頭堡を【フランソワ王国】の国土に築いたら、其処を拠点として新生フランソワ国といった感じの国名を名乗らせて、新たな国家を誕生させてから、その国軍として【カーン】大将と将官達が現在指揮している【フランソワ王国】軍を充当させる。
その拠点の守備を彼等に任せて、【ドラッツェ帝国】軍と俺達新生ベネチアン王国軍は、【フランソワ王国】の国土の中心地たる首都を目指して行軍する。
その際には、恐らく【聖教】を隠れ蓑にした【クライスト教団】との凄惨な戦闘が繰り広げられる事になるだろう・・・。
しかし、此奴等を放置する訳には絶対に有ってはならないのは、この会議室に居る全ての者にとっての共通認識である。
とてもでは無いが、人を人とも思わない連中の操る、怪物達をこれ以上増やさない為にも、此処で禍根を断つ必要があるのだ!
要塞と要塞付近で休養と補給を行った計10万の【ドラッツェ帝国】軍は、此の後順次元の国境線を目指して行軍し、【マジノ線】の防御線を復旧させてから、【フランソワ王国】の元国境線でも最大の要塞である【ブレエン要塞】を目指す事になる。
此の【ブレエン要塞】は、広大な平地が続く穀倉地帯にポツンと存在していて、簡単に陥落出来そうだが、実際は地下に広がる鍾乳洞を利用した膨大な地下倉庫を保持していて、場合によっては何年でも籠城出来る程の規模を誇る大要塞らしい。
此の事実は、俺が【探査ブイ】や【ランドジグ】を駆使しても把握出来なかった事実で、【フランソワ王国】側の【カーン】大将と将官達が味方になってくれたお陰で判った事だ。
其処までを第一段階として進める事を確認し、それからは状況の推移と他国の同行を鑑みながら、臨機応変に対処する事となった。