第二章 第48話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】⑬
それから3日後、回復した【フランソワ王国】軍の指揮官である【カーン】大将とその同僚達を会議に出席させるにあたり、投降した敵兵とは扱わずに参考人といった扱いで会議に参加して貰う事になった。
【カーン】大将とその同僚達は治療の為に入っていた医療器具のコクーンから出て、医師の問診を受けて落ち着いたと思われたタイミングで、要塞司令官と【オーディン】の艦長という此の場にいる【ドラッツェ帝国】軍の上層部と面談して貰った。
その際にも【カーン】大将とその同僚達には、あくまでも収容した【フランソワ王国】軍は捕虜では無く、状況が特殊だった為に臨時的に収容しただけで、捕虜では無いと説明して貰った。
何故此の様な形にしたかと言うと、事前に【ドラッツェ帝国】皇帝と【ゲルト】元帥そして宰相と相談し、【カーン】大将との間に良好な関係を築き、将来は現在の【フランソワ王国】の支配体制を崩壊させた後に、【カーン】大将等が【フランソワ王国】の軍部を統括して、二度と他国を脅かさない国家に生まれ変わらせる必要が有る事を考慮したのだ。
取り敢えず敗軍として収容された訳では無い事に安心した彼等は、幾つかの条件を提示して来て会議への参加を了承した。
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「それでは、今後の方針を決める為にも、【フランソワ王国】軍の指揮官である【カーン】大将及び将官の方々に、参考人として参画して頂き、会議を始めたいと思います」
此の【ドラッツェ帝国】宰相の宣言を皮切りに、事前に渡して置いた資料の内容への質問が【フランソワ王国】側から相次いだ。
「質問させて頂くが、此処に書かれている【クライスト教団】とはどういう存在なのだ?」
「【聖教】を隠れ蓑にした秘密の存在との事だが、こんな存在は【フランソワ王国】内で見聞きした事は一回も無い!」
「そもそも、【聖教】の司祭等は神に対しての信仰を説いているが、【旧支配者】とは何者なのだ?」
「確かに【フランソワ王国】は【聖教】を国教にしているが、他国でも信者が多かれ少なかれ【聖教】を国教にしている国は有るので、【フランソワ王国】が特別では無いぞ!」
「【ドラッツェ帝国】は、我々を騙すつもりなのか?」
そういった質問が有る事は予め判っていたので、俺は【ソロモン】に指示して例の動画を会議室の大型パネルに流して貰った。
その堂々と【フランソワ王国】国王である【シャルレ・フランク三世】が、【クライスト教団】から提供された怪物を新生ベネチアン王国の首都に送り込んで来た動画を見て、【フランソワ王国】軍の指揮官である【カーン】大将及び将官の方々は、顔を青褪めさせて深刻な表情で俯き始めた。
やはり、彼等には此の様な事実は一切公開されておらず、恐らく【フランソワ王国】国王である【シャルレ・フランク三世】とその取り巻き以外は、【聖教】を隠れ蓑にした【クライスト教団】との密接な関係など知らされていなかったのだろう・・・。
「・・・此の様な無法な行為を我らの国王陛下が行っていた事を、我々は此の映像で初めて知る事が出来ました・・・。
ヴァン殿、貴方の国と貴方の婚姻を阻害する行為を、我らの国王陛下が行っていた事を謝罪致します!」
そう言って【カーン】大将は、深々と頭を下げて謝罪して来た。
続いて他の将官の方々も、顔を紅潮させて頭を下げる。
それに対して俺は、
「いや、貴方がたが謝罪する事では無い!
謝罪すべきは【フランソワ王国】国王である【シャルレ・フランク三世】であり、それを幇助している【聖教】を隠れ蓑にした【クライスト教団】だ!」
そう答えた俺に【カーン】大将は、
「・・・それでも、此の映像ではどう見ても周りに居る無辜の民が、被害に会おうと構わない意図が透けて見えますし、とても一国の代表たる人物が選択すべき行いでは無いのは一目瞭然です・・・」
実にその実直な人柄が判る返答を受けて、俺はモニター越しではあるが【ドラッツェ帝国】皇帝と【ゲルト】元帥そして宰相と目を交わし、己の選択が間違えていない事を確信する。
「ならば、我等が現在目指している将来の【ドラッツェ帝国】と【フランソワ王国】の関係では、【シャルレ・フランク三世】は国王の立場であっては困るという目的に賛同して頂けますか?」
そう【ドラッツェ帝国】宰相の言葉に、【カーン】大将は苦い表情を浮かべながら黙り込む。
「・・・宰相よ・・・、そう簡単に今迄推戴していた国王を切り捨てられる臣に、彼等の様な軍人としての誇りに満ちた武人達が見えるか?
もう少し彼等が考える時間を与えるべきだろうよ」
彼等の苦渋を見て取った【ドラッツェ帝国】皇帝の言葉に、宰相のみならず会議に参加している全ての人々が頭を下げて、その判断に敬意を示した。
【カーン】大将と将官達も、【ドラッツェ帝国】皇帝の言葉に救われたらしく、苦い表情は変わらないが深々と頭を下げて、そのまま退出を願い出て来たので、彼等の心情を察した【ドラッツェ帝国】側は承諾して、係官に彼等がお互いに相談出来る部屋に案内させた。