第二章 第45話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】⑩
二つの軍勢に分かれた【フランソワ王国】軍に対し、籠城戦で凌いで来た最前線から追撃して来た【ドラッツェ帝国】軍は、大きな包囲網をそのまま維持し【フランソワ王国】軍を誰一人逃さない様に、元の国境線に存在する【閉鎖フィールド】にゆっくりと追い詰めて行った。
それとは別に俺達は要塞から出撃して、二つの軍勢に分かれた【フランソワ王国】軍の内、少ない方から攻撃する事にした。
【フランソワ王国】軍は二つの軍勢に分かれる事にした時に、ワザと30万の軍勢を10万と20万に編成し、少ない人数の軍勢が足止めする形で俺の居る精鋭部隊に対し、殿を務めるつもりらしく明らかにゆっくりと此方を警戒しながら行軍していて、人数の多い軍勢はかなりの速度で元の国境線に爆進して行く・・・。
最終的な敵の部隊編成を確認するべく、小型ドローンをかなり至近距離まで【フランソワ王国】軍に近付けて、それぞれの編成内容と指揮官の配備状況を確認した。
すると想定していた状況とは違い、殿軍の方に撤退する【フランソワ王国】軍の指揮官である【カーン】大将が居て、此方と抗戦する為の指揮官をしている事が判明した。
(・・・まさかとは思ったが、敵の最高指揮官が殿軍を率いているとはな・・・。
敵とはいえ、此の【カーン】大将と云う漢は全くと言って良い程、略奪行為や【ドラッツェ帝国】国民への虐待行為に手を染めていないし、旗下の将兵も指揮官に倣ってそういった行為をしていない。
然も、【カーン】大将が率いる軍隊は、その統率力と指揮能力によって敵としては侮れないものがある・・・。
・・・此れは梃子摺る事になりそうだな・・・)
予想していた中でも一番不味い状況になったので、俺達は幾つかの作戦案を放棄して最低限の戦果だけでも得るべく行動する事を決めた。
最悪な場合は、撤退して行く【フランソワ王国】軍のその殆どを、本国に帰還させてしまうかも知れない・・・。
しかし、それもまた仕方無いだろう・・・、このままの体制で【ドラッツェ帝国】軍が無理をして攻撃しても、【フランソワ王国】軍からの逆撃を喰らい被害が馬鹿にならないものになったら、目も当てられない事になってしまう。
その可能性がかなり高いので、最前線に居る俺と【バルト】大尉は、それぞれの愛機のモニター越しに首都の元帥府で戦況を見ている、【ゲルト】元帥に俺と連名で上申する事にした。
その後暫くの間、元帥府では喧々諤々の遣り取りが行われたらしく、情報伝達官の幕僚から俺達に対し、かなり残念そうな雰囲気で、俺達の上申書通りの内容で許可が出たが、追記として「状況が許す限りは【フランソワ王国】軍を叩け!」との文言が加えられていた。
(まあ、そうだろうな・・・)
此の100年にも渡る長い戦乱で、【ドラッツェ帝国】は【フランソワ王国】の理不尽な攻撃に晒され続けていて、筆舌に尽くし難い被害を長年負っている。
出来るなら、【フランソワ王国】軍を叩けるだけ叩きたいと願っているのだろう。
だが、此処で無理をしてしまえば、現在の【ドラッツェ帝国】軍有利の状況が元も子もなくなってしまい、【ドラッツェ帝国】軍は二度と立てなくなるかも知れないのだ。
それが最前線の現場で良く判っている【バルト】大尉は、腹の中は煮えくり返っているだろうが、一切表情に出さず黙々と旗下の将兵に新たなる命令の下でフォーメーションを組み直している。
そして準備の整った我々は、PSと戦闘車両と戦闘バイクの機甲部隊の内、9割の約100機で速力重視の編成で出撃し、後から歩兵主体の軍が防御主体の万全の体制で出撃する。
整備不良とパイロットの怪我で出撃出来ない機体1割を要塞内の格納庫に残し、持てる兵力の全てを繰り出す我々は、正に乾坤一擲の勝負を挑む形となる。
相手も殿軍は、いつなりと攻撃して来いと言わんばかりに、フォーメーションは偃月の陣形を取っていて、明らかに中央の大将自らが囮になって両翼を自由自在に動かし攻撃させる形だ。
やはり敵将の【カーン】大将は侮れない。
なので俺と【バルト】大尉は、予め殿軍の中央に居る【カーン】大将をワザと無視して、両翼に対して攻撃するべく、今迄迎撃軍としてローテーションしていた編成で2つの部隊に分かれると、両翼の殿軍に向けて遠距離攻撃を仕掛けた。
しかし、それを想定していたらしい両翼の殿軍は、魔導具やアーティファクトを駆使した防御体制を敷いていて、殆どの遠距離攻撃は無効化されてしまう。
思わず絶賛したくなる程の見事な部隊運用に、俺と【バルト】大尉は愛機のコックピットで唸ってしまったが、奴等の意図する我々の部隊に対しての遅延行動を促す戦術に乗ってやる訳にも行かないので、両翼の殿軍と戦いながらも己達の得意分野である速力で以って、翻弄する様に右に左にと部隊を動かし続けて、両翼の殿軍部隊に休めるタイミングを掴ませない様に努力する。
そんな涙ぐましい努力を俺達は続けて居たのだが、小型ドローンの情報収集で【フランソワ王国】軍の人数の多い軍勢の方が、元国境線に達した事が判った。
(さて、奴等はどの様にして【閉鎖フィールド】を突破するのかな?)
その進捗状況によっては、俺達の軍事対応も考えなければならない、なので常に情報リンクシステムを頭の片隅で把握して置く。