第二章 第40話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】⑤
結局、第一方面軍の大会議室で出た結論は、纏まった形で各方面軍を糾合し、敵の要塞に強力な一撃を与えつつ、本国への撤退を図ると云う事になった。
各方面軍の司令官とその幕僚達は、急いで各方面軍を最前線から撤退させて、会議で決まった地点への集合を目指す為に、各軍に帰還して行った。
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此の地に設置された【ボール要塞Ⅱ】への偵察と攻城戦は、既に30回を越える回数となり、如何に【ドラッツェ帝国】軍の精鋭達でも、歩兵にはそれなりの被害が有り、怪我だけなら何とかなるが、数人の軍人の命が散って行った・・・。
「・・・やはり、無傷での勝利が有り得ないのは判っていたが、少しづつではあるが兵力の減衰は思っているよりも、ボディーブローの様に効いて来そうだな・・・」
「・・・確かに・・・、こんなに大損害を被りつつも向かって来るとは、【フランソワ王国】軍の闘争心を舐めていましたね・・・」
その俺と【ソロモン】の会話に、同席していた【ボール要塞Ⅱ】の司令官である【ディートリヒ】中将が会話に加わって来た。
「いえ、恐らくは闘争心と言うよりも、恐怖心では無いでしょうか?」
「と言うと?」
「明らかに【フランソワ王国】軍の戦い方は、我等の居る【ボール要塞Ⅱ】を迂回して、元の国境線である【マジノ線】を偵察してから変わり、まるで《窮鼠猫を噛む》が如く追い詰められたネズミが、進退極まってネコである我々に襲いかかっている様にも見えます」
「・・・ふ~む、かと言って【閉鎖フィールド】による連絡途絶を、【フランソワ王国】軍と【フランソワ王国】本国との間にして置かないと、少数で何とか遣り繰りをしている我々は、【フランソワ王国】本国と侵攻軍による大掛かりの包囲殲滅戦を挑まれると、現在の状況では次第にジリ貧になってしまう、未だに【ドラッツェ帝国】軍の最前線で籠城戦を戦い続けた兵士達の回復は完全には行われていない。
後一週間は、補給と医療に掛かるから、それまでは何とか各個撃破して行きたいのだがな・・・」
そう【ディートリヒ】中将と会話して、その隣に居る【オーディン】艦長の【ベッケンバウアー】大佐に俺は目を向けた。
その俺の視線を受けて、【ベッケンバウアー】大佐は手元に用意していた資料の一部を読み始めた。
「厳密に言いますと、比較的此の要塞から近い防衛戦では、既に補給と医療は完了していますが、最も遠い防衛戦の北方区域防衛戦では後3週間しないと、補給と医療は完了しません」
「だが実際の処、北方区域防衛戦の兵士には、このまま最前線を維持してくれれば良いな、ここから北方区域は800キロメートルの距離に有るので、想定していた作戦案にも彼等の軍隊には無理をせず、区域の安全の保持を第一とする様に指示していたしな」
「同様の事が南方区域防衛戦にも言えて、700キロメートルの距離と付近に存在する魔窟を内包する山塊への警戒を厳にして、補給と医療が終了しても其れ等の任務に就いて貰う事になっています」
「・・・もっと人形や車両が提供出来れば良いのだが、正直な処、新生ベネチアン王国でも【フランソワ王国】への牽制の為に、旧【オリュンピアス公国】に軍勢を派遣したので、本国の守備は一部の上層部以外は全て人形に依存しているから、全然新生ベネチアン王国も余裕が無いんだよ・・・」
「判っております、新生ベネチアン王国が持てる全ての力を傾けて、我等【ドラッツェ帝国】に協力してくれているかは。
当然我等も、【フランソワ王国】軍を国土から追い払った後は、新生ベネチアン王国が旧【オリュンピアス公国】を取り戻す為のお手伝いをさせて頂きます!」
「有り難う、其のためにも今は此の要塞戦を戦い抜こう!」
俺がそう返事して、眼の前のテーブルに置かれたそれぞれの飲み物に口を付けて一服終えると、警戒音が要塞の中に鳴り響き、スピーカーから警戒内容が放送された。
「警戒警報! 警戒警報! 【フランソワ王国】本国方面から、例の【閉鎖フィールド】を魔導具で突破したゴーレム軍が侵攻して参りました!
直ちに部署に戻り、迎撃戦に移って下さい!」
その警報内容を聞き、【オーディン】内のプリーフィングルームを全員後にして、己の部署に向かう。
「さて、補給は全て終わっているか?」
「問題無く終了しましたが、改修中の【飛行ユニット】は装備しておりません!」
「まあ、仕方が無い。
大体、【飛行ユニット】の構造上の欠陥が判明したのは一昨日の事だし、まだ解決方法は検討段階だからな」
「その為、他の陸戦型PSと同様に、ローラーダッシュで行軍お願いします」
「了解だ!」
そう返事しながら、俺は【ドラッツェ帝国】のローテーションの番であるパイロット達10名と共に、要塞から専用のPSである【八咫烏】初号機を、ローラーダッシュで出撃させた。