第二章 第39話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】④
「此の魔法弾と言われる物は、どの様に投擲するのだ?」
「恐らく此の棒状のステッキらしき魔導具を使用するのだろう、見てみろ丁度此の先端部分には穴も開いていて、サイズが合うではないか」
「此のナイフに使用している魔法処置は何だ? 此処まで切れ味鋭い魔導具は【フランソワ王国】軍では支給していない! まるでアーティファクトレベルだ!」
「此の盾を持って見ろ! 殆ど重さを感じないし透明に出来ているので、盾で身体を護りながら相手を見る事が出来るぞ!」
「此れが、資料に有った服か! 信じられない程の伸縮性と強度だ!
装着時には簡単に着れるが、いざ棒で胴体を殴っても着ている者には撫でている程度にしか感じない!」
「此のバトンの様な短い棒の魔導具は何だ?
ん? 持って見て魔力を通すと表面に雷を発するぞ!」
実際に試して見た各方面軍の司令官とその幕僚達は、喧々諤々とした議論に終始する者と驚きながらもその戦闘における有用性に戦慄を感じたらしく、押し黙りながらずっとテーブルに並べられた魔導具類をいじくり続ける者に分かれている。
その様子を暫く眺めていた第一方面軍指揮官【カーン】大将は、資料に詳細に書かれた内容を語り始めた。
「・・・後の資料に書かれている通り、此れ等の武装や魔導具を回収する為に、一人の【ドラッツェ帝国】軍の兵士を十人以上の【フランソワ王国】軍兵士で包囲する必要があった・・・」
その言葉に此の場にいる全ての軍人達が戦慄した様に、身を震わせて資料の確認作業に入った。
そして【カーン】大将が読んでくれた資料を見直す。
「・・・まさか・・・、その十人以上には二匹の獣人が加わっていた?!」
「・・・包囲戦を行った十人以上の内、重傷者は7人でその際に【ドラッツェ帝国】軍の兵士を殺さずに捕らえようとしたが、情報漏洩を恐れたのか自裁してしまい、武装や魔導具の概要を尋問する事が出来なかったとは・・・」
「・・武装や魔導具を【ドラッツェ帝国】軍の兵士から回収する包囲戦に移れるまでに、凄惨な被害を受けているな、何と3万人を越える兵士が帰還しなかった様だが、此の亜空間に収納された様だというのはどういう意味だ?!
そもそも我々の知っている亜空間ポケットはそんなに収納出来ないし、生きている人間は収納出来ないから、亜空間に収納出来たという事は全員死亡しているという事か・・・」
「それもそうだが、此の空中からの魔法攻撃を行っているものが、正体不明とはどういう事だ?
これだけの被害を与えて来る存在だから、魔法攻撃をする際には見えたりしてたんじゃないのか?」
そんな感想を述べ合って、改めて【ドラッツェ帝国】軍が既存の軍隊とは全然違う事を知ってしまった彼等は、従来の対処法では【ドラッツェ帝国】軍に対抗出来ない事を再認識した。
「・・・どうやら・・・、従来の【ドラッツェ帝国】軍とは違う存在が、本国と我等の連絡線の要に有った兵站集積場の跡地に巨大な要塞を築き上げて、圧倒的な数を誇る我々に対して少数精鋭での迎撃戦を行っている事が理解出来たと思う。
今回、第一方面軍の敷地に集まって貰ったのは、方【フランソワ王国】軍として侵攻戦を戦っている我々の方針変更を話し合いしたい為だ・・・」
「待って下さい! 我々に方針変更を命令出来るのは、あくまでも【フランソワ王国】国王であらせられる【シャルレ・フランク三世】陛下以外居られませんぞ!」
「確かに地上からの連絡線は断たれているかも知れませんが、狼煙と従来の魔法伝達技術を併用した新型の連絡手段は取れないのですか?」
「多少迂回しても、新たに兵站線を構築出来ないのですか?」
その応答と質問に【カーン】大将は、一括した内容の答えを返した。
「・・・其れ等は同じ答えで返そう。
君等が質問した内容は全て第二方面軍と第十一方面軍、そして本国の増援軍が行動して確認している。
当然、我々には侵攻軍の方針変更をする権利は存在しないし、様々な連絡手段を試して本国との意思疎通を図った。
だが、その全ては水泡に帰し、本国の増援軍が来ていた事が判ったのも、至近距離で偶々挟撃出来たタイミングで視認出来たからだ。
然も視認できていたのに、本国の増援軍とは合流出来ず、情報交換も出来なかった。
更に、迂回ルートでの兵站線と連絡ルートを構築する為の手段を模索して見たのだが、何故か数十キロメートル離れた地点から元の国境線だった【マジノ線】に到達してみても、奇妙なフィールドが本国と此方側を断絶していて新型の連絡手段を試しても、本国との連絡は取れなかったので偵察部隊は此方に帰還するしか無かったのだよ・・・」
「・・・すると我等は、現在は本国と完全に断絶しており、本国からの連絡手段が無い以上、我等は独自に決断して行動を決めるしか無い。
そして既に平坦線は本国と完全に途絶しているので、各方面軍の物資が尽きるタイムリミットは保って一ヶ月と想定出来ます・・・」
その何処かの方面軍の司令官の呟きに、大会議室に集まった面々は重い空気に包まれて、押し黙ってしまうのだった・・・。