第二章 第38話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】③
「どうなっている? 一向に補給品が届かないではないか!」
此処、【フランソワ王国】軍第八方面軍の司令室の主人である、ブルム少将は憤りの余り司令室に有るマホガニー製のテーブルに拳を叩きつけて、その余りの硬さで拳を痛めてしまい、呻き声を上げて蹲る。
その姿を敢えて視界に入って居ない振りをしながら、報告を上げた係官は続きの報告を読み上げる。
「・・・此の不可解な定期便の輸送が行われない事態を憂慮し、兵站線を遡る形で偵察部隊を派遣した処、【バイエル】の兵站集積場に至る幹線道路が途絶している事が判明し、迂回する形で【バイエル】の兵站集積場に向かおうとした処、引き返してきた他の方面軍の偵察部隊に遭遇し、情報交換をした処、何と【バイエル】の兵站集積場は現在に於いて存在しておらず、その有った場所には【ドラッツェ帝国】軍の軍旗がはためく、巨大な要塞が存在しているそうです・・・」
「・・・何を言っているのだ? 一体何時の間に【バイエル】の兵站集積場が無くなり、同じ場所に【ドラッツェ帝国】軍の要塞が出来上がると言うのだ?
大体、【バイエル】の兵站集積場は、我々の居る最前線から遥か後方に存在するのだし、そもそも我々の軍勢を迂回して要塞を構築出来る程の大部隊を、今の【ドラッツェ帝国】軍が派遣できる筈が無いではないか!」
「・・・もしかすると、先日の【ドラッツェ帝国】軍による各戦線への全面奇襲は、此れを隠蔽する目的だったのでは・・・?」
「だとしても、それ程の規模の軍勢が我々の前線を突破したなど、聞いておらんぞ!」
「大体、それ程の要塞を建設する期間も資材も、どう考えても捻出出来る筈が無いのは明白なのだぞ、どういうカラクリなのだ!」
その様な言い合いが己の幕僚達から上がったが、ブルム少将は拳の痛みからまともに聞いていなかったらしく、退室しながら幕僚達に指示した。
「お前達は、此の馬鹿げた報告を上げて来た他の方面軍に詰問状を送れ!
それに補給輸送を怠った連中に、罰を与えておけよ!
ワシは、拳を治すべく医療部隊に行ってから、そのまま直帰する!」
そう宣言すると、己の女性秘書と共に司令室から出て行った。
その軍務をまともに行わず、仕事を部下に丸投げする態度に、舌打ちした幕僚達だが命令された任務を無視する訳にもいかず、指示通り他の方面軍への詰問状を作成し、補給輸送を司る軍人に対し尋問を行った。
かと言って、その様な事をしていても補給が滞っている現状が変更される訳も無く、当然軍における補給状況は日に日に悪化して行く・・・。
◆◆◆◆◆◆
それから1週間後、第一方面軍に設けられた大会議室に、各方面軍の司令官が招集された緊急臨時会議が行われた。
「・・・先ず、此のイメージ図を見て欲しい・・・」
【フランソワ王国】軍第一方面軍指揮官【カーン】大将は、そう言うと各方面軍の司令官とその幕僚に資料を配らせて、最初の10枚のイメージ図を見るように促した。
其処には、かなり巨大な要塞が街道筋が交わる、交易線のど真ん中に堂々と鎮座していて、周囲には破却された幾つもの攻城兵器が転がっていて、幾度もの【フランソワ王国】軍による攻城戦を繰り返されたが、その尽くを退けた事を証明していた。
他のイメージ図は、空から照射される魔法攻撃で吹っ飛ばされる軍人達や、中型のゴーレムが走り回り強力な獣人部隊を正に蹂躙する様に蹴散らしている物など、【フランソワ王国】軍が手も足も出ずに倒されて行くイメージ図で埋め尽くされている。
「・・・ご覧頂けただろうか・・・?
此れは、現在の【バイエル】の兵站集積場に存在する巨大な要塞に対して、本国からの増援と此方の第二方面軍と第十一方面軍による攻城戦の結果である・・・」
静まり返る大会議室に、淡々とした【カーン】大将の声が響き渡った。
「・・・続く資料には、その時に得た相手の武器や武装の情報、そして我が軍の被害の状況が載っている・・・」
イメージ図10枚に続く、報告書形式の資料には従来の【ドラッツェ帝国】軍とは一線を画す、武器や武装の類がイラストと共に書かれていて、その能力も大凡の概略と試験してみた内容が書かれていた。
その資料を見た、或る方面軍の幕僚の一人が手を上げた。
その幕僚に言葉を発する許可を【カーン】大将は与え、幕僚は【カーン】大将に資料の内容を質問形式で聞いてきた。
「発言許可有り難う御座います!
此の資料に書かれている、魔法弾とは従来の壺やクリスタルに封入した魔法と違い、金属の弾丸に封入されているとの事ですが、現物は此処に無いのですか?
そして要塞から迎撃に出撃して来た【ドラッツェ帝国】軍の兵士が着ていた服は、奇妙な素材で出来ていて形状を変えると書かれていますが、どの様な服なのでしょうか?
此の二点の詳しい説明を求めます」
その最もな質問に、【カーン】大将は頷いて側に控えていた兵士に、隣室に用意していたらしい資料に書かれていた武器と武装の実物を持ってこさせた。
当然の様に、各方面軍の司令官とその幕僚達は、テーブルに並べられた其れ等の武器や武装を手に取って調べるべく、ワラワラと集まってきて実際に手に取り色々と調べ始めた。