第二章 第37話 【ドラッツェ帝国】対【フランソワ王国】②
「第1段階の反撃は、各方面で成功した様です」
【オーディン】に有る司令室内で【ソロモン】が、超大型パネルに示されている戦況図と立体プロジェクターに映し出される、それぞれの方面での【ドラッツェ帝国】軍の反撃戦を動画で説明する。
此の【オーディン】が着底している【ボール要塞Ⅱ】に有る司令部とも、回線で繋いでいるのでリアルタイムでの情報共有がされていて、【ボール要塞Ⅱ】の司令官である【ディートリヒ】中将は戦況図を見ながら感想を【ソロモン】に画面越しに述べて来た。
「作戦案Aの音響爆弾とその後の突撃攻撃で、【フランソワ王国】軍の最前線の兵士を一時的に無力化し、攻城兵器の破壊と獣人部隊の亜空間収納による無力化は問題無く成功した様ですが、正直な処もう少し攻勢の勢いを緩めずに【フランソワ王国】軍へ打撃を与えれば、もしかすると今回の攻勢だけで【フランソワ王国】軍は最前線から後退せざるを得なかったかも知れませんな」
その【ディートリヒ】中将の感想に、【ドラッツェ帝国】軍の幹部数人が賛同する様に頷いている。
それに対して、中継で繋がっている【ドラッツェ帝国】首都にある、軍令部に居る【ゲルト】元帥が答えた。
「【ディートリヒ】の意見は最も至極だが、全員が判っている様に我々が総兵力の劣勢と国力が傾いている状態に有るのを忘れてはならない!
辛うじて現在最前線を保てているのは、徹底的な籠城戦と国土の奥深くに【フランソワ王国】軍を誘い込んでいるお陰で、奴等は広域に軍を展開せざるを得なくなっていて、各軍団の連携が上手く機能して無くて兵站線が伸び切っている事実が有るからだ!
我々は、もっと奴等【フランソワ王国】軍に最前線にへばりつかせて、補給がままならなくなってから、漸く撤退を始めた段階で初めて総力戦を挑む必要があるのだ!
各指揮官の心情は痛い程に察するが、今は将来の為に耐え忍んでくれ!」
「・・・判っておりますし、近い将来の逆撃が有るのも理解して居りますが、どうしても戦術上の好機を逃すのは、軍人として不満を感じてしまいます・・・」
その或る意味で、非常に軍人らしい言葉を吐く【ディートリヒ】中将に、【オーディン】艦長の【ベッケンバウアー】大佐が鷹揚な調子で慰める。
「【ディートリヒ】中将のお言葉は非常に良く判りますが、各基地の司令官や前線指揮官はなけなしの兵力で何とか反撃したのですし、彼等の頑張りに報いる為にも我々の居る此の【ボール要塞Ⅱ】で、補給しに来る【フランソワ王国】軍を徹底的に叩く事で、各前線への圧力を緩和させましょう」
「・・・そうだな・・・、【ベッケンバウアー】大佐の言う通りだ!
此れから此の【ボール要塞Ⅱ】に来襲して来る【フランソワ王国】軍を尽く退ける事で、各戦線は徐々に助かって行くのだから、よりやる気が出てくると云うものだ!」
「その意気ですよ【ディートリヒ】中将。
さあ、もうすぐ【フランソワ王国】本国からの輸送部隊がやって来ますので、護衛軍を蹴散らして補給品を接収しましょう」
「良ーし、PS部隊は予定通りに、輸送部隊の前方に居る護衛軍を襲う為に、幹線道路の両側に伏せよ!」
「小型ドローン部隊は、隠蔽モードの状態で滞空しつつ、周囲の警戒にあたれ!」
【ディートリヒ】中将と【ベッケンバウアー】大佐が、己の指揮下の部隊に指示を出し、【フランソワ王国】本国からの輸送部隊とその護衛軍を迎撃すべく配置させる。
当然その状況は全ての前線と首都の軍令部にも、リアルタイムで中継されていて、皆固唾を呑んで見守る。
しかし、実際に起こった戦況はかなり肩透かしのモノになった。
何と護衛軍は何の警戒もしていない様で、殆どの兵士が鎧や脛当て等を装備して居らず、その様子を小型ドローンの探査から把握したPS部隊は、弾頭を当初の攻撃魔法弾から【スリープ】弾頭に交換し、奴等が無警戒に予定の襲撃地点に到達した段階で、遠距離から奴等の頭上に投射した。
奴等は、ヒューンと音を立てる【スリープ】弾頭が頭上に投射されても、何の警戒心も抱かなかった様で、呑気に【スリープ】弾頭を見上げながら見ていて、そのまま広域散布されたスリープ魔法を諸に喰らい、昏睡状態に呆気なく陥ってしまった。
バタバタと馬上から落馬する兵士や、歩いていた兵士が倒れ伏す様子を見た後続していた輸送部隊は、流石に異常を察して移動を止めて、周囲を警戒し始めた。
しかし、如何に警戒しても武装をしていない輸送部隊では、PS部隊に抵抗する術が存在しない。
あっさりと制圧されてしまい、武装解除に応じた輸送部隊の面々は、そのまま亜空間収納にも応じて、以降は【ドラッツェ帝国】の捕虜収容所に昏睡状態に陥った護衛軍共々送られる事となった。
そんな形で、最初の戦闘はかなりあっさりとした結末を迎えたのであった・・・。