第二章 第35話 軍事作戦開始
【ドラッツェ帝国】の国土でも、やや南寄りの穀倉地帯でも最大の平野に、まるで場違いな程の巨大な倉庫が軒を連ねる【バイエル】と呼ばれる都市に常駐している、【フランソワ王国】軍の輸送部隊の護衛部隊は、漸く本日の略奪品搬送を終えた輸送部隊を確認し、任務完了の報告を上層部付きの係官に告げた・・・。
その護衛部隊に属する一人の兵士は、同僚に向かって声を掛けた。
「今日も大量の略奪品が本国に送られたな、俺達も凱旋して本国に帰ったらお溢れに預かれるのかな?」
「うーん、どうかな~、きっと中抜きで軍のお偉いさん方が、良い物をガメてから国に略奪品を上納して、其処から売れない物品等を俺達に下げ渡すだろうから、あまり期待しない方が良いんじゃないかな」
「それでも給料に色は付くだろうから、飲み代は増えるだろうしこのまま勝って帰還したら、村の英雄になれるだろうさ!」
「違えねえな! 俺も凱旋して街に帰ったら、目を着けていた酒場の店員に声を掛けて見るぜ!」
「それも良いな! 俺は両親の為にも古びてきた家を改装して、嫁さんでも貰うかな」
そんな呑気な会話をしている彼等は、何故か夕焼けで赤く染まった空が、いきなり暗くなってしまった事に訝しんで空を見上げた。
「何だ?」
誰かが声を上げるのを聞いた気がしたが、その直後に此の護衛部隊員達は全員意識を刈り取られ、昏睡状態に陥ってしまい、目覚めるのは何と全てに決着の着いた頃になる・・・。
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「広域散布型の【スリープ】は満遍なく散布され、問題無く一大兵站集積地である【バイエル】に居住する生物は全て昏睡状態に陥りました!」
「良し予定通りだ! 直ちに【オーディン】の【亜空間収納】で【バイエル】全てを空間毎収納せよ!」
「了解! 【亜空間収納】! 範囲【バイエル】区域!」
次の瞬間、【バイエル】地方にある【フランソワ王国】軍の兵站集積場は、中心から半径5キロメートルに渡って空間毎切り取られる様に【亜空間収納】された。
此れまでの新生ベネチアン王国にとって非常に貢献してくれた【大型揚陸艦】は、改装の後に正式に【ドラッツェ帝国】に譲渡され、艦名も彼等の神話における主神の名である【オーディン】に変更されている。
【オーディン】には、新生ベネチアン王国で使用していた時と同様に、あまり強力な武装は施していないが改装するにあたって、防御面と小型ドローンの母艦としての機能を充実させていて、例え小型ドローンが大破に近い状態になろうとも、自動で回収して補給品などからの供給を受ければ、数日で治してしまう程になっている。
【ドラッツェ帝国】は、此の世界に於いて圧倒的な制空権を、此の【オーディン】と小型ドローン40機によって得た事になるのである。
兵站集積場は、中心から半径5キロメートルに渡って空間毎切り取られ、【オーディン】に予め【亜空間収納】していた【ボール要塞Ⅱ】をその跡地に設置した。
此の【ボール要塞Ⅱ】とは、その昔【ドラッツェ帝国】へ度々襲来して来た北方異民族である【ノルド民族】が、船に乗って襲来して来るのに対して、魔導砲やカタパルト等で要撃していた北方の護りであった。
しかし、【ノルド民族】との恒久的な和解が図られてから、長い年月が経っていたので誰も駐屯する事も無くなり、凡そ数百年間使用される事も無かった。
だが、此の無駄に堅牢で数々の武装を持つ要塞は、改修された後に、今次の大戦に於いて重要な役割が割り振られた。
つまり、いきなり【フランソワ王国】軍の兵站集積地の有った【バイエル】と呼ばれる地域は、【フランソワ王国】の重要な拠点で有ったというのに、【フランソワ王国】軍を下支えするどころか物資を供給する兵站の拠点から最前線への兵站線を断つ存在となり、【フランソワ王国】軍が後方に撤退する場合に容赦の無い砲撃戦を加える凄まじいばかりの攻撃型要塞と化したのだ。
更に、その上空には【ボール要塞Ⅱ】の広場に着底して母艦機能を遺憾無く発揮している【オーディン】から、小型ドローンが次々に飛び立ち常に交代交代で滞空し続けるので、【バイエル】と呼ばれる地域制空権を完全に得ている上に、周囲全ての広域探査も行えている。
そして何と言っても【ボール要塞Ⅱ】には、【ドラッツェ帝国】の一個師団3万人と、遊撃戦力であるPS20機が配備されている。
【ボール要塞Ⅱ】が【バイエル】に設置され、【ドラッツェ帝国】軍が展開した此の時点で、【フランソワ王国】軍は本国と完全に分断されたのであった・・・。