第二章 第34話 対【フランソワ王国】軍作戦会議
此処【ドラッツェ帝国】軍の首都に於ける司令本部に有る、大会議室にて最終の対【フランソワ王国】軍作戦会議が執り行われた。
「・・・現在の戦況図は、此の通りです・・・」
此の作戦会議を行う為に準備しておいた超大型パネルと立体プロジェクターに、映される資料と動画そして駒で表現した戦況図は、明確に【ドラッツェ帝国】軍の劣勢を示していた。
だが、一ヶ月半前と違い、撤退方針を定めた【ドラッツェ帝国】軍は、徹底的に被害を抑える形で撤退戦をしているので、民間人の犠牲は極力抑えているのが資料でも見て取れる。
それに対して、【フランソワ王国】軍は想定しているよりも侵攻速度は遅い・・・。
理由はごく単純で、【フランソワ王国】軍の軍人は占領した【ドラッツェ帝国】の街や村々に侵入すると、そのまま略奪行動に入るのが常態化しているからだ。
【ドラッツェ帝国】は財産等を置き去りにしてでも、帝国民達を帝国の首都周辺の難民用に作られた広大な居留地を、俺が提供した大量の人形と膨大な資材を活用する事で用意していて、問題少なく難民となった帝国民達を退避させている。
お陰で、100万人に上る難民となった帝国民達は、不満は有りつつも居住する事に一応納得してくれた。
彼等の置き去りにした財産を、【フランソワ王国】軍の軍人達は大掛かりに上官達も加わり、【フランソワ王国】に運ぶ為の物流ルートまで兵站線と同規模で作り上げていた。
此の資料を見た【ドラッツェ帝国】軍人達は、何かを堪えた表情で資料を眺めているが、それぞれの拳は握られていて、内心に煮え滾る感情を如実に吐露していた・・・。
「・・・さて、皆さんの激情はごもっともですが、逆に言いますと【フランソワ王国】軍の此の愚かな行為は、此方にとっては天佑とも言って良い状況でも有ります」
敢えてフラットな調子で述べる【ソロモン】は、超大型パネルに映る兵站線と物流ルートを指示棒で指し示した。
「見ての通り、【フランソワ王国】軍は此の中間点に存在する大きな兵站集積地に、一旦、全ての兵站と略奪品を集めて大型の馬車や超大型の獣人による、物流を行っています。
効率化と云う面では正しい方法ですが、もし此の兵站集積地を我々に奪われてしまうと、前線に配置している【フランソワ王国】軍は一斉に兵站を断たれてしまい、戦闘を継続する事は不可能になってしまいます。
恐らく【フランソワ王国】軍上層部は、その様な大規模な攻勢を我々が降って湧いた様に、【フランソワ王国】軍の奥深い占領地に行えないと、判断しているのでしょう。
ですが、皆さんに事前に通達してます通り、徹底的な撤退戦をする事で伸び切った敵の兵站線を断つ戦略は、此方の既定路線であり、その為に皆さんの中でも精鋭中の精鋭たる新規部隊には、【星人】の技術で作られたPSや小型ドローン、そして【大型揚陸艦】の訓練を課して来ました。
その訓練も終わり、いよいよ逆撃する為の作戦行動の詰めを皆さんと共に、煮詰めたいと考えます」
その【ソロモン】の言葉を皮切りに、一斉に【ドラッツェ帝国】軍人達は熱意を込めた討論を開始した。
一ヶ月半前にもし討論を行ったとしても、空虚な絵空事の作戦会議だっただろうが、此の一ヶ月半みっちりとPSや小型ドローン、そして【大型揚陸艦】の訓練をこなして来た彼等は、その特性や能力、更には出来る事と出来ない事の判別を完全に理解していた・・・。
非常に有意義な討論が繰り返されて、凡そ3時間後には煮詰める事が出来た作戦案は5つ出来上がり、【フランソワ王国】軍と奴等が使役する獣人軍団の動き次第で、柔軟に作戦案を選択し直して対処する事が取り決められた。
「よーし、此れで大枠の軍事行動指針は決められたし、現在前線で何とか【フランソワ王国】軍を食い止めている【ドラッツェ帝国】軍人達には、秘密裏に此の作戦案を伝えて、此方の軍事行動が始動したら即座に反撃出来る様に準備させよう!」
【ゲルト】元帥の宣言を受けて作戦会議は終了し、直ちに己の部隊に散って行く軍人達を見ながら、俺は【ソロモン】に近付いて指示する。
「【ソロモン】、俺達は当然【ドラッツェ帝国】と【フランソワ王国】の戦いに、【ソロモン】の使い魔が介入する事を望まない。
なので、敵方に付いている【ソロモン】72柱の内36柱の直接関与を止める為に、例のアーティファクトと魔導具を直ちに起動させるのだ!」
「判って居ります。
新生ベネチアン王国に待機させている、此方の36柱には己自身と対局にある敵方の36柱を止める為に、強力極まりないアーティファクト【ダビデの笛】と【ソロモンの指輪】を一時的にですが無効化する、【ダビデの聖約】を使用する準備は整って居ります」
「頼むぞ【ソロモン】!
人の世の戦争に、人ならざるお前の使い魔が介入している現在が、そもそも間違っているから、こんなに【ドラッツェ帝国】が押し込まれる原因となった・・・。
俺達には、此の状態を是正する義務が有るし、二度と此の様な悲惨な戦争を起こさない為にも、【フランソワ王国】を懲らしめなければならない!」
その俺の言葉を受けて、【ソロモン】は「ハッ」と返事をして大会議室を出て行った。
それを見送り、俺は待ってくれていた【ゲルト】元帥と【バルト】大尉と共に、報告を上げる為に【ドラッツェ帝国】皇帝の居る首都に向かうべく専用車両に乗った。