第二章 第30話 新規部隊の特訓② (精鋭達との連戦試合)
二人は同時に俺を攻撃する為に、アイコンタクトをして俺に近付き攻撃しようとしたのだろうが、そのアイコンタクトをした瞬間に、俺は右側から攻撃しようとして来た奴に一歩踏み込んで、間合いを外しながらそのまま【崩拳】を叩き込む!
ズドンッ
【崩拳】を叩き込まれた男が、尻もちを着いた様に沈み込み、反対から攻撃しようとして来た男が、間合いを外されて蹈鞴を踏んだ瞬間、俺はその懐に飛び込んで男の腕を抱え込み、【一本背負い】でクッションの効いた吸収版に放り投げてやった。
尻もちを着いて座っている男もぶん投げて、吸収版に放り投げると、程々に身体が暖まったので、俺は更に煽り上げた!
「良し、身体も程良く温まったから、礼もクソも無い!
ドンドン俺に向かって来い! 全てぶん投げてやる!」
と言い終わった瞬間、彼等もウズウズして仕方無かったのだろう、遠慮会釈無く全員で突進して来た!
その先頭の奴に向かって、今度は手加減無しに正面蹴りを放ち、巻き込まれた奴等が薙ぎ倒されて行き、別の方向から突進して来た男には無造作な力任せのラリアットをぶちかます!
又も薙ぎ倒されて行く男達も、直ぐに立ち直ると全員で頷き合って、一斉にタックルをカマして来た。
「良いぞ、良い選択だ!」
そう喋りながらも、五人の男に組み付かれた俺は、殆んど身動きを封じられながらも、辛うじて自由の効く両足で【震脚】を行いつつ、練っていた気を一気に爆発させて【全発剄】を解き放った!
ズンッ!
凄まじい程の威力を持つ全方向への【発剄】は、組み付いた五人の男どころか周囲10メートルに渡って、衝撃波の様に解き放たれて、凡そ20人がその場でぶっ倒れた。
それに耐えきったのは僅か4人で、彼等は用心深く魔力での身体能力向上を掛けた上で、防御面も強化して来た。
「そうだ、一人に対して集団で挑む事への忌避感、或いは遠慮をしていたのだろうが、そんなモノは全て戦場では無用のモノでしか無い!
諸君らが、今俺に対して抱いている感覚こそが、今後の戦場で必要なモノだ!
さあ、全力で挑んで来い!」
そう言ってやり、彼等の闘志に期待すると、
「「オオオオオーー!!」」
と熱気を帯びた雄叫びを叫びながら、4人は四方から俺に向かってそれぞれの得手を思われる攻撃を行って来た!
だが、やはりまだまだ俺に届く程の攻撃では無かった・・・。
その全ての攻撃を手足全てで捌きながら、俺は力の方向をずらしながらそれぞれの攻撃の力点を裏から後押ししてやり、俺自身はトンボ返りするように跳躍し現場から空中に逃れる。
当然残された力の方向をずらされた男達は、上手く足運びが出来ずに4人共絡み合う様にお互いの身体同士をぶつけ合い、彼等はそのまま絡み合いつつ試合場の場外に転び出てしまった。
そうやって、殆どの【ドラッツェ帝国】軍の精鋭を叩きのめして、残った二人に声を掛けた。
「では、どちらから来られますか?
【ゲルト】元帥に【バルト】大尉?」
そう、残っているのは始めから試合場に登壇せずに、離れた場所から俺と彼等の闘いをつぶさに観察していた此の二人だけである。
「それでは、前座として吾と対戦して貰おうか!」
やはり、年齢からも【バルト】大尉よりも自由が効かないし、力のみで俺と張り合いたいと言っていた【ゲルト】元帥が、先ずは俺と対戦する様だ。
「ヴァン殿、素早い動きは吾には辛いので、組み討ちから初めて貰いたい!」
「宜しいでしょう、それでは互いに手を合わせての力比べから始めましょうか?」
「忝ない!」
その言葉通りに、俺と【ゲルト】元帥は両手同士の、右手は相手の左手、左手は相手の右手で指を絡めた力比べから戦闘開始となった。
「ムウッ」
「グムッ」
短い吐息と共に、双方が相手を力のみで押し倒そうと、純粋な意味での筋力の勝負を仕掛けた!
正直な処俺は相当【ゲルト】元帥を舐めていた様で、いきなりの常識を遥かに越えた筋力による圧力を加えられて、蹈鞴を踏む形でその圧倒的な力に耐える事になった。
(・・・此れは、【ゲルト】元帥を舐めすぎていたな・・・)
俺は、反省しながら自分の身体を駆け巡る、力の根源たる気を再度練り上げる為の、呼吸法を始動させた。
【小周天の法】・・・それは俺の故郷である【アース】に於いて、仙道或いは玄道と呼ばれる人間が人間の限界を、己の身体の内から己を見直し技術として越える呼吸を用いた法である。
事前にストレッチしながら一度始動させていたので、スムーズに「導引」が行われて「内気功」が練り上がる。
身体の中心線に存在する7つのチャクラを循環する事で、螺旋力を呼び起こした「内気功」は、身体の隅々の血肉に眠る力を活性化させて、人間の限界点を簡単に引き上げた!
その瞬間、焔の様に身体全体から吹き出した気を感じた【ゲルト】元帥は、顔を引き攣らせながら己の最大限の力で押し切ろうと、両手にさらなる力を込めて来た!
しかし、【小周天の法】を始動させた俺に対しては、如何に力を込めようと無駄である。
結局【ゲルト】元帥は、己の限界ギリギリまで力を出したのに、耐えきった俺に負けを認めて、晴れ晴れとした顔で試合場から降りて行った。
という訳で、いよいよ最後に残った【バルト】大尉との対戦で、一連の試合は締めくくりを迎えようとしていた。