第二章 第27話 【ドラッツェ帝国】首都での未来への話し合い
皇帝が乗り気になって来たのを確認し、俺はいよいよ腹案を述べる事にした。
「先ずは、現在存在する宰相を頂点とした議会に国政の権限を移譲します」
「そうすると、皇帝の権限が失われて、帝国の国体が維持できなくなりませんか?」
「いえ、なりません! 何故なら議会が決めた国政案を皇帝が承認する事で、皇帝が最終的に決定する事にするのです!」
「それでは、現在とそれ程変わらないのでは?」
「そんな事は有りません! 議会が決めた国政案を正当な理由無く、皇帝は拒否できない事に致します!」
「・・・つまり、余は意見を指し挟む事が出来ず、あくまでも承認する存在と化す訳か・・・」
「そうです、つまり権限を議会に与え、皇帝は権威を持つ事で、権限と権威の分割を行うのです」
「・・・確かに余の判断の不味さで、此の状態なのだから議会を運営する人々が有能ならば、今よりも失敗する確率は格段に減るな・・・」
「そして、【フランソワ王国】を国内から撤退させた段階で、【憲法】を策定致します」
「【憲法】とは?」
「【憲法】とは、国家の定める国法を明文化するもので、此の【憲法】を全ての帝国民そして皇帝も従う法律と明記します」
「ほう、つまり【憲法】の前には帝国民と皇帝は同じく、法律を遵守する同じ存在だと?」
「そうです、そして国の権力を立法権・行政権・司法権の三つに分ける仕組み、此れを三権分立と申すのですが、此れ等にも有能な人材を配置する事で国体を盤石なものにし、国の権力が一つの機関に集中すると濫用される恐れがある為、三つの権力が互いに抑制し、均衡を保つことによって権力の濫用を防ぎ、帝国民の権利と自由を保障しようとする考え方です」
「何と新しい考え方でしょう! つまり帝国民に国土と国体に対し権利と自由を意識させ、責任感を自覚させて税金の活用方法を真剣に考えて、自分達が選ぶ有能な人物に委託したいと思わせるのです」
「その通り、その選抜方法も【憲法】の中に盛り込んで、選挙基準も帝国民自身の手で策定させます」
「すると、帝国民でも税金を支払う事は義務だが、同時に有能な人物を選んで国政に参加させる権利を有するという事になるのですね?」
「そう、そしてその全てを皇帝が全て承認する事で、決められた物事に権威を与えるのです」
「おお!」
「此の新しい国の体制を、【立憲君主制】と申します」
「【立憲君主制】! 何とも響きの良い、新鮮さと重厚さを持つ新しい国の体制だと感じられます!」
「一人に権力と権威が集中すると、必ず権益を得ようと賄賂や横流し等が横行し国は淀んでいきます。
しかし、此の【立憲君主制】ならば権力の集中を短期間に限定する事で、不法な権益を得ようと目論む者は淘汰されてしまうので、一部の者達が腐敗して行く事を防げるのです」
「何という制度でしょう、余は此の【立憲君主制】に移行する為の土台作りをして行けば良いのですね!」
「そうです、その行為こそが今一度、帝国民に祖国への忠誠と自負心を蘇らせる契機となるでしょう」
「何だかワクワクして参りました、ですが先ずは【フランソワ王国】を【ドラッツェ帝国】の国土から追い出さなければ、画餅となってしまう」
「それを成す為にこそ、私は新生ベネチアン王国と【ドラッツェ帝国】との、強固な軍事同盟を正式に結ぶ為の調印をしに参りました」
すると【ドラッツェ帝国】皇帝【フリードリヒ五世】は、ゆっくりと俺に歩み寄り、ガシッとばかりに俺の両手を掴んで、顔を興奮で紅潮させながら申し出て来た。
「当然ですし、説明された内容を実現させる為にも、余は此の軍事同盟を組む事に完全に同意します!
それどころか、【フランソワ王国】を追い出した後も、恒久的な同盟関係を構築したいと願います!」
「我が国の代表たる【アンジェリカ・オリュンピアス】陛下も、故郷である【オリュンピアス公国】を【フランソワ王国】から奪還し、元【オリンピア大公国】と併合し次第、新たなる国家として存立する事に成った段階で、【立憲君主制】への移行と国名の変更を高らかに世界へ発信するつもりです」
「成る程、その時に改めて【ドラッツェ帝国】はヴァン殿と【アンジェリカ・オリュンピアス】陛下と協議し、より良い形での同盟を結ぶ事にすれば良いのですな」
「そうですね、その為にも此れから始まる対【フランソワ王国】への反撃を推し進めましょう」
「了解しますぞ、漸く余にも目指すべき未来像と、其処に至るまでの道筋が見えて来ました。
その明るい未来に向かう為にも、最大限の努力をする事をお誓いします!」
そして我々二人は、両手での固い握手を再度しながら、東屋を出て元の部屋に戻り、部下達を交えた軍事同盟の細かい練り直しに着手した。