第二章 第26話 【ドラッツェ帝国】首都での皇帝との面談
次に自己紹介したのは、ゴツそうな体格を無理矢理平服に詰め込んだ人物で、武人と云う言葉を体現している様だ。
「吾は、【ドラッツェ帝国】で元帥府を任されている【ゲルト】だ!
常々、我等【ドラッツェ帝国】に苦杯を飲ませて来た、ヴァンと云う名の英雄が活躍している事は聞かされていたが、こんなに若くて吾と互角かそれ以上の偉丈夫とは、驚き行ったぞ!
是非、武勇伝などを非公式な席で聞かせて貰いたい!」
随分と分かり易いタイプの人物らしく、年齢は40代くらいで正に豪放磊落といった風情が読み取れる。
最後の一人が、我々を案内してくれた人物で、大凡は俺も検討はついている。
「先程まで、自己紹介も出来ずに連れ回しまして申し訳無く思います。
改めまして自己紹介させて頂きます。
私は、【ハルトヴィヒ】と申しまして、現在は宰相職にあります」
とかなり簡素な物言いで自己紹介して来た。
(・・・やはりな・・・、かなり遣り手と噂される宰相か・・・)
最初に身分の高そうな服で現れた時から、30代に見えるのにその理知的な風貌に、予め知らされていた噂と合致する顔付きで検討は着いていた。
此の武と知の両輪と言える二人を抱えながら、【ドラッツェ帝国】の皇帝【フリードリヒ五世】は60代の年齢にも関わらず、随分と覇気がなくてまるで打ち拉がれた老人に見える。
(・・・此れは、かなり発破をかける必要があるな・・・)
実際の処、確かに【フランソワ王国】にかなり押し込まれているのは事実だが、別に周りの国家が全て敵では無いし、俺達の新生ベネチアン王国と云う全ての戦闘行為で勝ち続けている存在が有り、今後の展望は上手に外交しながら対応すれば、決して【ドラッツェ帝国】にとって悲観するしか無い訳では無い。
その辺は、恐らく遣り手と噂される宰相や此のゴツい元帥に散々言われていると思うので、別の方向から皇帝を攻めて見る事にした。
「ところで、此の離宮は落ち着いていて、非常に歴史が有る風情で、素晴らしいお庭も悠久の時を感じさせますね」
「お気に召して頂き有り難い。
此処は余の10代前の皇帝である【フリードリヒ一世】が、思索する場所として建造された庭園で、歴代の皇帝達も気に入っていたらしく、余り手を加えずに維持管理に留めていたそうですよ」
「では、あの池の上の東屋もその頃に?」
「其の通りです、何なら案内致しましょうか?」
「それは有り難いですね、【ゲルト】元帥に【ハルトヴィヒ】宰相、皇帝陛下をお連れしても宜しいでしょうか?」
その俺の言葉と、アイコンタクトの意味を理解したらしい二人は、池の付近に自分らが待機している事を条件に、俺と皇帝だけの東屋での会談を許可してくれた。
ゆっくりと石造りの橋を渡り、東屋にて会談の席を準備してくれた皇帝は、使用人が準備してくれた紅茶とお菓子を食べながら、暫くの間俺と雑談して心穏やかに過ごす事で、かなり打ち解けた雰囲気を出し始めた。
「・・・そうですか、【ソフィア】は其の様な事を・・・」
「ええ、ですがその後は、私共が【フランソワ王国】の悪辣な企みを打破した事で、希望を見出された様で、かなり積極的に来賓の方々とも打ち解けて居られましたよ」
「その映像は大使が持って来てくれたメディアで、大型パネルで観させて頂きました。
ヴァン殿、貴方の持つ【星人】としての超技術と、卓越した武人としての能力は、我等にとっても希望そのものだ。
しかし、余は百年に渡る【フランソワ王国】との諍いで、先祖より託された領土の内四分の一も奪われてしまい、更には帝国民達に塗炭の苦しみを強いさせてしまっている。
然も、軍隊の維持の為に帝国民には更に重税を課さなければならないと云う、為政者としては無能と言うしかない男だ。
此の苦境をどうにかしたいのだが、余には打つべき最適解を思いつけず、ただ消耗して行くのみの状況なのだよ。
どうかご教授頂きたい、ヴァン殿には此の苦境を打破できる答えをお持ちだろうか?」
その真摯な言葉を聞いて、此の皇帝が余りにも真面目に国政と対【フランソワ王国】に費やして来た事が、非常に良く判ったが余りにもどん詰まりな状況に陥り、心労で今にも倒れそうな事が理解できた。
ならば、
「・・・即効な薬の様な解決策は、生憎持ち合わせて居りませんが、皇帝陛下の悩みの幾分かは和らげる事が出来る提案は出来ますよ」
「そ、其の様な提案が有るのですか?」
食い気味に聞いて来た皇帝に、俺はゆっくりと教え諭す様に言葉を語る。
「現在、【ドラッツェ帝国】に置かれましては国政は、皇帝親政による専制体制での形ですよね。
ですが、一応はそれを補完する形での宰相を頂点とした議会も存在していますよね?」
「その通りです、そもそも【ドラッツェ帝国】は建国以来、皇帝親政が当たり前の体制を維持して居りまして、今迄その体制を変更しようとした皇帝は居りませんでした・・・」
「確かに【ドラッツェ帝国】、【フランソワ王国】と云う、大陸でも有数の2大巨大国家は、ずっと専制君主体制で国政をこなしていました。
ですが、時代も進み様々な技術の進歩、更には国民の数が建国当時と比べるまでも無く、膨大に膨れ上がった以上時代に合わなくなったのも又、事実であります」
「・・・確かにその通りですね、建国当初と違い領土と帝国民の数はかなり違います・・・」
「となると、政治体制も時代に合わせた形を取るべきでしょう」
その俺の言葉と、其の先の意図を察して皇帝はまるで息を吹き返したかのように、俺の言葉の先を切望する眼差しを向けて来た。