第二章 第25話 【ドラッツェ帝国】首都での交渉
5日間の空の旅を終えて、【ドラッツェ帝国】首都に有る軍港に海側から、普通の艦船の様に入港した。
何故なら、未だに此処までの超大型艦船が空を飛ばれると、何も知らない一般民衆が恐れる可能性が高いと判断し、【ドラッツェ帝国】の首脳部に事前に確認し許可を得た上で軍港に横付けする事となった。
だが、普通の艦船と比べても15倍以上の大きさを誇る【大型揚陸艦】は、港を利用する商人や漁師そして海軍の軍人に相当驚かれていて、ある程度の距離は近づけない処置を海軍の軍人達が自主的に行ってくれた。
そして入港した俺達は、大使と書記官を迎えに来た帝宮から来た部隊に預け、【大型揚陸艦】の中に海軍の査察官を迎えて色々と滞在する為の査察と注意事項を教えて貰った。
まあ、5日前に【ドラッツェ帝国】との軍事同盟の仮調印を終えたと、予め各媒体で宣伝していた事もあり、海軍の査察官はかなり好意的な対応をしてくれて、乗組員の上陸も海軍関係者を伴えば可能としてくれた。
俺と直属の部下であるPSパイロット達が、率先して上陸し海軍の司令部に表敬訪問して、問題無い程度の情報交換を行う。
海軍の軍人達から得た内容は、やはり【ドラッツェ帝国】の海軍も、以前のベネチアン海軍と同じく魔法による遠距離攻撃と魔法防御を主体としていて、動力は風帆と沢山の櫂で得ていて【アース】に於ける中世のレベルであった。
だが、新しく動力を与えて見た新生ベネチアンの海軍も、【サハギン】にやられ放題にやられていたので、船体が根本的に木造のままでは今後の【フランソワ王国】との対戦では不安が残る。
なので、【ドラッツェ帝国】の海軍の軍人達と、実際に【オリンピア大公国】の首都での港湾での海戦を動画で一緒に観て、今後の対策を考えて欲しいと伝える。
やはり、実際の海戦を動画で観せられて、【サハギン】の脅威を把握した【ドラッツェ帝国】の海軍の軍人達は、一気に危機感が増して来たらしく、かなり真剣に熱を帯びて議論を始めたので、最終的には将軍や提督クラスの上層部も参加して来たので、【大型揚陸艦】に場所を移してかなり突っ込んだ討論を行ってしまった。
入港した日から海軍との間ではかなり親密な仲になれたので、非常に良い形で海軍とは協力関係を築けそうだ。
其の日は結局、帝宮からの呼び出しも無かったので、仲良くなった海軍の軍人達を【大型揚陸艦】内で、一緒に酒を酌み交わして【フランソワ王国】に対しての悪口や愚痴などを言い合い、大いに盛り上がった。
翌日になり、秘密裏に会合を持ちたいとの帝宮からの要請を受けて、俺と【ソロモン】そして幾人かの官僚を伴って、帝宮から派遣された馬車に同乗して向かう事になった。
どうやら昨日帝宮に向かった大使と書記官は、かなり大仰に俺の事を話したらしく、送迎にやって来た護衛の部隊はかんり荘厳に着飾っていて、何処が秘密裏の会合なのだろうかと感想を持ってしまった、
帝宮の裏口に当たる門から、帝宮では無くて離宮と思われる場所に案内された俺達は、かなり奥まった庭に面した部屋に通された。
暫くして、かなり身分の高そうな人物が我々の前に現れて、俺の前に来ると深々と頭を下げて来た。
俺としては、自分自身が【星人】と云う存在なので、儀礼に疎い事を予め申告した上で、フラットな形での面談をして頂きたいと申し出た処、身分の高そうな人物は「了解致しました」との返答を返し、離宮の中のセキュリティが高そうな一角に俺達を案内する。
俺達をどうやら控えの間らしき部屋に留まらせ、案内して来た身分の高そうな人物は、恐らく国家の首脳部が居る部屋に入って行き、交渉前の事前打ち合わせをしている様だ。
時間にして、10分間程の間控えの間で待っていると、係官の様な者が部屋から出てきて、部屋の扉を開けて俺達を迎え入れた。
やはり、かなり気を使った様で、内装は立派な部屋だが上座も下座もない形で、対面形式のソファーが置かれただけの部屋は、正に秘密の会合の間であると行った雰囲気だ。
其の部屋に居たのは、先程の案内してくれた身分の高そうな人物と、ゴツそうな体格を無理矢理平服に詰め込んだ人物、そして他の二人に比べれば若干豪華そうな服だが、それ程威圧する様に豪華では無い服装をした60代の人物の3人だけが存在した。
俺達は、特に自己紹介もせずに彼等から促されてソファーに座り、対面に彼等が座るのを見ながら、彼等が自己紹介してくれるのを待つ。
中央に座る俺の対面に座った60代の人物が、先ずは口を開いた。
「此の様な遠方まで御足労を頂いた客人に対して、礼を失する形での秘密会談に快く応じてくれた【ヴァン・ヴォルフィード】殿に先ずは謝罪したい!」
そう言って俺に頭を少し下げた60代の人物は、直ぐに頭を上げると悠然とした態度に変わり、言葉を続けた。
「改めて自己紹介させて頂く。
余は、【ドラッツェ帝国】の皇帝【フリードリヒ五世】である、以後お見知り置きを」
そう言葉を連ねた60代の人物は、特に偉そうな態度も取らずに、自己紹介して見せたのであった・・・。