第二章 第23話 【ドラッツェ帝国】との同盟
二時間もの膝詰めの密談が、【ドラッツェ帝国】の代表と行われ、かなり突っ込んだ同盟関係の規約が双方から提案された。
実際の処、【ドラッツェ帝国】としては各前線を全て突破され、国土の四分の一が瞬く間に侵攻されている上に、現在は此の状況を引っくり返す手段が無いと言うのが、余りにも情勢が悪過ぎる。
然も、敵である【フランソワ王国】は【ドラッツェ帝国】と戦いながら、周辺各国に圧力を掛けてドンドンと属国化に拍車を掛けていた。
それはつまり、【フランソワ王国】は片手で【ドラッツェ帝国】を殴りつつ、左手で他国を小突いている様に諸外国には受け止められていたので、明らかに【フランソワ王国】は国力に余裕が有って、行動していると思われていた・・・。
だが此処数年は、必ずしも順調に周辺各国の属国化は上手く行っているとは言い難い。
そう、我々アンジーを中心とした勢力との対立から、【フランソワ王国】の目論見は殆んどが達成出来ず、寧ろ完全に失敗していると言って良いだろう。
特に、アンジーの故郷たる【オリュンピアス公国】に於ける失敗は、影響が余りにも大きくて、【オリュンピアス公国】に隣接する小国の属国化は、現在滞っているのが現状である。
更に、【オリンピア大公国】に至っては実質上、我々アンジーを中心とした勢力の国家である新生ベネチアン王国に生まれ変わり、国力に至っては【オリュンピアス公国】の疎開民を全て受け入れる事で、国民の数だけでも【フランソワ王国】の四分の一に達していて、インフラ整備と様々な超技術を齎す俺が積極的に国家運営に参画している事実は、見かけ上の国力とは桁の違う地力を新生ベネチアン王国に与えていた。
今回の結婚式は、式そのものはそれ程重大では無くて、現在の新生ベネチアン王国がどれ程の実力を備えているかの、周辺各国へのお披露目が主で有ったと言って良い!
そして、ものの見事に結婚式を妨害しようとして来た、【フランソワ王国】国王【シャルレ・フランク三世】の妨害工作は目論見が尽く粉砕されてしまい。
然も、その様子を一から十まで全て、周辺各国の上層部や民間人にも晒す結果となった・・・。
つまり、今後も【フランソワ王国】国王【シャルレ・フランク三世】の思い通りにならなければ、此の問答無用の嫌がらせは続くと云う事と、それに対抗する事が新生ベネチアン王国と組めば可能だと示してしまった。
【ドラッツェ帝国】側が、希望を見出すのも当然出し、周辺各国側が新生ベネチアン王国側に靡きかねない状況でもあった。
【ドラッツェ帝国】は、同盟するに当たり新生ベネチアン王国の軍事力、つまり俺の持つ超技術のいくつかの開示と提供を求めて来て、代わりに今後の友邦関係を推し進めた上の貿易や様々な交流を提示した。
確かにある意味追い詰められている【ドラッツェ帝国】は、将来の条件を示す以外の有力な提示は出せないだろうと、此方側は予測していたので、特に失望も無い。
正直な処、【フランソワ王国】に二正面作戦を強いさせる段階で、【ドラッツェ帝国】は十分に新生ベネチアン王国としては有り難い存在だ。
なので、特に提示された案で揉める事も無く、同盟締結は進められたが、逆に此方が勧める形となった協力案が余りにも【ドラッツェ帝国】にとって、魅力的だったので戸惑わせていた。
その協力案とは、大まかに言うと、
一つ、PS20機と小型ドローン30機の貸与、及びその指導官の派遣。
二つ、大型揚陸艦の【ドラッツェ帝国】上空への滞空許可と、【フランソワ王国】軍への攻撃許可。
三つ、新生ベネチアン王国軍と【ドラッツェ帝国】軍による、軍事作戦行動への許可。
此の三点である。
他にも細かい条件や幾つかの将来的な貿易での関税条項や、物品への査察の取り決め等の事項は存在したが、後は官僚同士の折衝でしか無いので、ほぼ此の三点が此方から提示した同盟への協力案である。
当初は大使と書記官は戸惑っていたが、やがて此方の底意に気付いたらしく、双方にメリットが有る事に納得してくれて、アッサリと同盟の仮調印を済ませる事が出来た。
それに比べると、【ソフィア皇女】は我々の協力案に非常に感銘を受けたらしく、涙を滲ませながらアンジーの手を取りむせび泣きながら感謝してくれた。
此の様にして、翌日には全世界に向かって我々新生ベネチアン王国と【ドラッツェ帝国】は、今後大切な互いの窮状を助け合う軍事同盟関係と成ることを発表した。
それはつまり、事実上の【フランソワ王国】への新生ベネチアン王国による宣戦布告であり、今後の世界状況がさらなる混迷を深める事態となった事を示すものとなった・・・。