第二章 第20話 ベネチアン城上空の戦い③
段々と【閉鎖フィールド】内の敵勢力は、俺達の容赦無い攻撃の前に削られて行き、飛行魔獣は全て葬り去りとうとう本命と思われる敵のみが残った・・・。
しかし、実際の処本命と思われる敵は、全然積極性が無くて攻撃を此方にして来ようとせず、何やらオドオドと逃げ回っている様にすら見える。
(・・・参ったな・・・、まさかこんなやる気の無い怪物を召喚するとか、想定外過ぎるな・・・。
さて、どの様に対処するかな・・・)
と戸惑いながら全員で様子を窺っていると、何やら突然本命と思われる敵の顔面横にくっついていた、アクセサリーの様な物が大爆発を起こして、本命と思われる敵は顔を抑えて蹲ってしまった。
(何が起こったのだ?!)
正直な処、意味不明過ぎて起こった現象にただ驚いていると、突然【閉鎖フィールド】内の雰囲気が変わり始めた。
本命と思われる敵は、野生動物の熊の様に全身が毛に覆われた、のそのそと動く攻撃性が余り感じられない存在だったのだが、先程、顔面横にくっついていたアクセサリーの様な物が大爆発を起こして、蹲ってからは明らかに動きが変化して、全身を覆っていた毛がまるで触手の様に寄り合わさりながら伸びて行く。
更に毛が触手となって行くと同時に、其の肌は硬質そうな外骨格に変化して行き、明らかに身体も全体が大きくなって行く・・・。
ドンドンと変化と大きさを変化させる本命と思われる敵は、ゆっくりと顔を上げて俺達に向き直った。
今迄は、オドオドとした態度で攻撃性を全く感じなかった表情は、完全に切り替わって憤怒の表情を湛えて俺達を睨めつけている!
(・・・漸く理解できたな・・・、つまりあの顔面横のアクセサリーを爆破する事で、怪物の怒りを促して此方にぶつけるのが計画だった訳だ・・・)
漸く合点が行って、やや苦笑しながら俺達は予定通りに攻撃態勢を取る。
そのやる気を感じたのか、怪物は毛がより合わさって伸びている触手を、勢い良く旋回させて俺達に叩きつけて来た!
しかし、そんな大仰な動きをワザワザ待ってやる必然性は、我々には全く無いので、当然全員で後退しながら遠距離攻撃を怪物に投射し始めた!
流石に体長が130メートルに大きくなり、更には硬質的な外骨格になった怪物は、牽制の遠距離攻撃程度では傷つきもせずに、簡単に跳ね返しながら突進してくる。
「ならば、此れはどうだ?」
そう声を出して攻撃したのは、【魔人ブレスト】の駆る特別製PS【ボルケイン】の外部スピーカーである!
此の【ボルケイン】は、完全に近接格闘に特化した特別製PSで、非常に分かり易い大剣を両手で携えていて、他にも身体各部に近接用の武装が施されている。
【ボルケイン】は外部スピーカーで堂々と【魔人ブレスト】の雄叫びを増幅しながら轟かせて、大上段から怪物に斬りかかる!
その余りにも真っ正直な攻撃を、怪物は寄り合わせた触手で迎え討つ!
ザンッ!
一切迷わずに大上段から斬り落としを仕掛けた【ボルケイン】の大剣は、見事に寄り合わせた触手をぶった斬り、バラバラになった触手は【閉鎖フィールド】の地面に落ちてのたうっている。
そのチャンスを逃すまいと、コマンドリーダーの【ゲイリー】は、遠距離用の兵器でも強力な肩口に搭載しているバズーカ砲の弾頭に、最強格の弾頭である[5クラス魔法]を装填して、一斉に発射させた!
ドゴゴゴゴゴーーーン!!
一斉に放たれた[5クラス魔法]である 【ファイアー・トルネード】や【サンダー・トルネード】、そして【ウインド・トルネード】は、その威力を完全に解放して、怪物の全身を炎で炙り、雷を落とし、風で切り刻んだ!
だが、その怪物の外骨格は其れ等の攻撃に耐えた様で、少なくとも外から見る限りにおいて傷は見いだせない。
ならばっ!
「【魔人ブレスト】よ!
俺達の近接武器で、奴の外骨格に亀裂を生じさせてやろうじゃないか!
行くぞ!」
「雄々!」
その男らしい返事を聞きながら、俺は自分の愛機に斬艦刀を持たせた。
此の斬艦刀とは、愛機の背中に【飛行ユニット】と一緒に背負う形で積載してた物で、強敵用の武装である。
俺と【魔人ブレスト】は、怪物の左右に分かれて己の愛機に共に強大な武器を振りかざす!
怪物はどちらに対して正対するべきか迷った様で、一瞬躊躇したのが判った。
その怪物の注意を引くべく、俺は先程の【魔人ブレスト】と同じく怪物に対して外部スピーカーで大音量の怒号を轟かす!
「オオオオオオオオオオオオーーーーッ!!」
凄まじい怒号を受けて、怪物は否応無く俺の愛機に正対せざる得なくなり、迎え討つつもりなのか牙を剥いて両腕を振りかざした!
それに対して何の躊躇も無く俺は、【飛行ユニット】のブースターを全開にして真正面から突っ込んで行く!
その俺に対して怪物は上から覆いかぶさるように襲いかかって来たが、それを徹底的に低く飛ぶ事で掻い潜った俺の愛機は、怪物の足元から掬い上げる様に斬艦刀を振り上げた!
ガイーーンン!
硬質な音響を響かせて、斬艦刀に耐えた怪物だったが、続け様に襲いかかった【魔人ブレスト】の愛機である【ボルケイン】の大剣による背中側からの貫きには耐えられずに、背中に突き刺さった大剣を抜くべく反り返った。
(勝機!)
そのタイミングを待っていた俺は、自分の愛機の両腕部に装備している、杭打ち機を怪物の腹部に当てて、炸薬を爆発させて怪物の腹部に穴を穿ってやった!