第二章 幕間 ある市井の少女の暮らしの変化④
ベネチアン城・・・、以前のスラム住人だった身の上では、来れる筈の無い対局の建物でしかない場所なのに、前の投書を投函しに来た時や、カードの使用方法で疑問に思い係員の人と一緒に伺った事で、結構長い間滞在した事もあって、何だか来なれた場所になってしまっていたわ・・・。
係員の人に案内されたのは、ベネチアン城の正門では無くて裏門から入る通用口を通り、女性ばかりの居る区画でも奥まった所に有る場所だったわ。
其処から更に専属らしい女性の近衛兵が案内してくれて、ある応接室に向かったの。
応接室には、私と同年代と思われる女の子が二人座っていて、然もその相貌は非常に良く似ているので恐らくは双子だろうと直ぐに判ったわ。
一緒に入室した係員の人に促されて、私は自分の名前である『ネネ』を名乗り、現在の境遇を簡単に説明したの。
そうしたらお二人は、以前私が投函した投書を私に見せて来て、尋ねて来られたわ。
「ネネさん、貴方の投書を見せて貰い、非常に貴方が【学校】に興味を持ち、勉学と向上心に富んだ人物だと感じる事が出来ましたわ。
今も此の投書通りに、熱意を持って【学校】に通いたいですか?」
双子の一人のやや活発そうな方が私に尋ねて来たので、間髪入れず私は頷くと同時に元気良く答えたの。
「勿論です! 私の様な貧民に有り得ない程の過分な支援と、信じられない程素晴らしい技術でベネチアンを改変して行く公共事業!
更には物流と食料流通の激的な変化と、インフラ整備の拡充を見て興味を抱かない者が居るでしょうか?
私は此の変化を齎してくれた、【アンジェリカ・オリュンピアス】様と【ヴァン・ヴォルフィード】様に恩返しする為にも、勉学を重ねて病気となっている母親を救いつつ、良い職に就職して頑張りたいのです!」
一気に此処まで発言してしまい、もしかしてとても失礼だったかも知れないと、今更ながらに赤面してしまったけど、聞いてくれた二人は何だか機嫌良く頷き合ってくれて係員の人に向き直って言葉を発したわ。
「元スラム街担当係員351号。
中々面白い人物を連れて来てくれたわね。
貴方の人材を見抜く能力は中々のものだわ。
私達からも、貴方が志望する新設の部署である【人材育成センター】への転属を、口添えしておきます。
きっと良い形で報われるでしょう」
「大変感謝致します公女殿下!
お二方に天の恩寵が賜られることを願いますわ!」
今此の係員の人はとんでもない事を宣ったわ!
(【公女殿下】?!)
え?! そんなあまりにも私と身分の差が有る人に対して、私は先程、凄く厚かましい願いを口にしてしまったわ、もしかして折角頂いたお部屋やカードも取り上げられちゃうんじゃないの?
そもそもなんでそんな天上人が、私の様な貧民に向き合ってるのかしら?
そんな基礎的な疑問を私が感じている間に、公女殿下のお二人から労われて係員の人は応接室から退室して行き、代わりに公女殿下のお二人は女官を呼び込んでお茶とお菓子を要求し、暫くしてから様々な飲み物とお菓子類がワゴンで運ばれて来たの。
其れ等をテーブルに女官たちが並べている間に、公女殿下のお二人が私に自己紹介されたわ。
最初に私に声を掛けてくれた活発そうな御方が【リンナ・オリュンピアス】公女殿下で、落ち着いた雰囲気の御方が【リンネ・オリュンピアス】公女殿下で、御二人は此処ベネチアンの現在事実上の支配者である【アンジェリカ・オリュンピアス】様の妹君であらせられて、今回の【学校】の入学を志望する人の選定にも関わっておられるそうで、既に何人ものお二人の眼鏡に適う人物が【学校】に入学できる事になっているんだって。
どうしても気になってしまい、私は【学校】に入学できるんですか? と聞いてみたら、想定通りだったらしく、「大丈夫よ!」と御二人から御墨付を貰えたので、漸く安心できて腰砕けでその場でへたり込んじゃった。
女官の人達が起き上がらせてくれたので、御二人の対面にあるソファーに座らせられて、お茶とお菓子を勧められるままに手を付けて行き、其処からは良く覚えてないけど結構長い間同席してしまったらしいわ。
漸く落ち着けられたのは、退室してから女性の近衛兵に連れて行かされた、【学校】の女性寮に入室してからなの。
何だか、夢見心地のまま入学手続きを終えたらしく、着せられていた服が学校の制服だったらしく、他の運動着や作業着等が寮の個室には用意されていて、私は明日から【学校】に此の寮から通うことになったわ。