第二章 幕間 ある市井の少女の暮らしの変化③
係員の人が取り出して見せたカードは、黒光りしていてとても高級そうで、何の材料で出来ているか想像出来ない代物だったの。
「此のカードはね、ベネチアン住民や此れからやって来る全ての人々に配られる物なの。
アンジェリカ様とヴァン様の目指す国家の根幹に結びつく代物で、ヴァン様と云う【星人】としても過去に降臨された方々よりも、明らかに優れている超技術の一端を示すカードなのよ!」
そうまるで自慢するような態度で私に説明してくれる係員の人は、半ば陶酔状態でいる様で視線が私を向かずにあらぬ方向を見ている。
そんな係員の人を見て、自分の事で俯いていた私もやや呆れながら、カードの説明を細かく聞かせて貰ったわ。
そしてそのカードの全容を知る事で、係員の人が自慢気に話していた事と凄まじいまでの、アンジェリカ様とヴァン様への係員の人の忠誠心の高さも理解できたの・・・。
(・・・此れは説明された通り、とんでもない代物だわ・・・!)
私は渡された自分のカードを改めて見直して、震える思いで付随していたマニュアルに沿って操作してみる。
此の個人認証カードは、例えば病院に行かずとも常に私の身体の状態を、カード表面に浮かぶ小型パネルに表示されるし、もし深刻な病気や怪我を負った場合は直ちに病院に私の状態を通知し、最寄りの病院から救急車と呼ばれる治療用のスタッフを乗せた車が来てくれるらしい。
それだけでもおとぎ話しにしか聞こえないのに、他にも大きな機能として【クレジット】というお金と同様に使用出来る物がストックされているんだって!
此ればっかりは信じられなくて、後日此の係員の人と一緒に初めて入った服屋で、その【クレジット】と云う物で買い物出来たので、漸く信じる事が出来たの。
だけど【クレジット】と云う物で買い物出来た事も驚いたけど、私のカードにストックされていた【クレジット】額にも驚かされたの!
何とストックされていた【クレジット】額は3万クレジット[凡そ300万円]!
私と母親がいくら頑張っても、簡単には稼げそうに無い金額なの!
何かの間違いじゃ無いのか? と何度も係員の人に聞いたんだけど、係員の人はにこやかに笑って間違いじゃないわよと答えてくれて、私以外の元スラム街住人にも既に同じカードが配られていて、全員が3万クレジット[凡そ300万円]ずつ供与されていると教えてくれたの。
なんてアンジェリカ様とヴァン様は太っ腹で、懐の深いお二人だろうと、目眩がする程のショックを受けたんだけど、更に驚くべき事を私に係員の人は教えてくれたわ。
前のベネチアンでの常識では普通にお金を稼ぐ手段は、様々な職種で求められる能力を示して働いて、雇い主から賃金で稼ぐしか無かったんだけど、何と【クレジット】では【学校】なる学びの場に毎日通い、勉学に打ち込むだけでも私一人の一日の食い扶持分は十分に稼げるし、勉学の進捗具合やテストなどで良い成績を示すと、奨励金として【クレジット】が頂けるんだって!
という事は、私は子供でしか無いので、望まぬ限られた職種で働かなくても、学びながら【クレジット】を稼げるんだ!
私は係員の人にお願いして、一刻も早く【学校】なる学びの場に毎日通い、勉学に打ち込む事で【クレジット】を稼ぎたいとお願いしたら、今現在はテストケースとしてベネチアン城の敷地内にある、大きな集会場を使用して【学校】がスタートしているだけだから、難しいと言われてしまったの。
だけど私は諦めきれず、係員の人にお願いしてベネチアン城に新設された、投書受付窓口のポストなる物に、思いの丈をぶちまける勢いで書いた投書を投函したの。
幾日か経ち、私も段々と高層住居の様々な機能を理解して、廊下の角にある【エレベーター】なる自動で昇降する箱や、部屋の中にある【乾燥機】という洗濯物を乾かす魔導具の使い方が判り、便利に使っていたわ。
私が、丁度お昼ごはんを終えて休憩しているタイミングに、ドアからチャイムが鳴り何時もの私の担当である係員の人が、慌てながらインターホンなるドア越しに会話が出来る魔導具を使い、私に告げてきたの。
「ネネさん、やりましたよ!
貴方の【学校】への入学が許可されました!
但し、ちょっと特殊な方法で入学する事になりますので、今から私と一緒に準備して、ベネチアン城に向かいますよ!」
その勢いに狐につままれた様な顔をして呆然としている私を置き去りにして、係員の人は慣れた様子で持参して来たすごく仕立ての良い服を取り出すと、立ったままの私に着せて来て、帽子や靴その他アクセサリーや何かの記章を服に付けて行ったの。
「・・・良し!
思った通りの寸法だったわ!
さあ、一階層に専用の車が用意しているから、私と一緒にそれでベネチアン城に向かいましょう!」
何だか、とんでもない事が起こっているのは、何となく判ったんだけど、取り敢えず急がないといけない事も察して、車内で詳細を教えて貰う事にして、私は係員の人と【エレベーター】に向かったの。