第二章 第8話 【オリュンピアス公国】捕虜解放作戦⑧
【魔人ブレスト】はいよいよ過去に起こった、信じ難い事実を語る・・・。
「・・・そう・・・、奴は古代イスラフェルが圧倒的な兵力で以って、【クライスト教】の当時の総本山である【パルス】を取り囲み、【クライスト教】に対し城下の盟を誓わせようと交渉していた時に、前触れ無く突然降臨したのだ!」
そのまるで見てきた様な話しぶりに、俺は敢えて指摘せずに黙って聞く。
「・・・奴は、【クライスト教】の当時の総本山である【パルス】の遥か上空に、突然開いた漆黒の大穴からまるで放り出される様に、落下して来た・・・。
然も落下したのは、【パルス】に有る最大の集会場で、当然其処には非難していた【クライスト教】の信徒や教徒が数多く存在していた。
そんな所に落下した奴は、当然、数多くの信徒や教徒を踏み潰してしまったのだが、奴はまるで意に介さずにそのまま動き始めて、当初は球体だったのだがやがて二足歩行の身体を現した。
二足歩行と言ったが奴の下半身は、まるで蛸の足を撚り合わせて無理矢理二足にした様な感じで、上半身は巨大な海棲生物を無理矢理人間形態に近づけた感じだった・・・。
そして奴は、【クライスト教】の当時の総本山である【パルス】を取り囲む、古代イスラフェルの軍隊に向かって攻撃を仕掛けて来たのだ!
その攻撃は、蛸の足に酷似した触手を大量に身体のあらゆる箇所から伸ばすと、それを無茶苦茶に振り回す事で人間の軍隊を薙ぎ倒して行くモノだった。
然も奴は、当初は50メートル程でしか無い体長を、踏み潰した信徒や教徒、そして薙ぎ倒した古代イスラフェルの軍隊の死体をその身体に取り込む事で、凡そ300メートルほどに巨大化して行った。
粗方の人間を取り込み終わると、奴は進撃を開始して、古代イスラフェルの国土に向けて歩き始めたのだ。
その進路上に有る村や街、果ては軍隊までも、奴は尽く喰らい尽くして行きながら、ドンドンとその体長を増して行った。
古代イスラフェルの首都にまで迫った頃には、その全長は1キロメートル程の大きさに膨れ上がり、歩く為にその蛸の様な足を振り下ろす度に、周囲には地震が起こり、とてもでは無いが対抗する事は不可能に思われた」
其処まで一気に話し、【魔人ブレスト】はやや辛そうな顔を俺に向け、俺も何となくその心情を察して敢えて言葉を掛けないでいると、暫くして続きの話しを【魔人ブレスト】は語り始めた。
「奴に、古代イスラフェルの首都にまで迫られる前に、【ソロモン】とその仲間達は予め国民を首都から疎開させて、奴の進路上には一切国民が居ない様にしたのだが、結果としては此の措置は殆んどが無駄になってしまった・・・。
何故なら奴は、古代イスラフェルの首都に辿り着くと、その巨大な身体を急激に縮小化して行き、最終的にメルトダウンしたのだ!
その余りにも膨大な質量を、一気に収縮した凄まじい質量をエネルギーに変換する事で、その内包する圧倒的なパワーは古代イスラフェルどころか周囲の国家を巻き込み、大陸同士の結節点で有ったその地域を全て消し飛ばしてしまったのだ・・・。
此れが、古代イスラフェルとその周辺が無くなってしまった真実だ・・・」
語り終えた【魔人ブレスト】は、伏せ気味だった顔を上げて、集中して聞いていた俺と見つめ合った。
「・・・少し質問したいのだが、答えられる範囲で教えて欲しい・・・」
「構わないぞヴァンよ、出来る限り答えよう」
「有り難い、それでは一点、幾つかの此の世界では一般的では無い、専門用語や科学的知見が語られていたが、それはどうやって得られたのだ?」
「【ソロモン】から聞いていると思うが、我々は完全では無いが【アカシックレコード】を切れ切れに読めるので、かなり後になって色々な事実を知り得たのだ。
実際の処、メルトダウンされた当時は何が起こっているのか、サッパリ判らずに只々右往左往していただけだったよ」
「それでは二点目、お前はまるで千年近く前の出来事を体験していたかの様に語っていたが、実際に体験した事なのか?」
「・・・それは半分正解で、半分不正解だな。
俺が【魔人】である事は以前の戦いで述べたと思うが、俺が【ソロモン】によって【魔人】に調整されたのは、凡そ今から500年前の事であり、【魔人】に調整される前までの俺は【ソロモン】の助手だったのだよ。
俺は【魔人】に調整されるにあたって、【ソロモン】が救い得なかった古代イスラフェルの民達の記憶や、思念を集約したあるアーティファクトのデータをコピーして、俺の頭脳にインプットして有るのだよ。
つまり、古代イスラフェルの民達の無念の想いと、奴への有り余る程の憎悪を、俺は受け継いでいるのだよ・・・」
そう言いながら、【魔人ブレスト】は寂しげに自分の胸を指さしている。