第二章 第6話 【オリュンピアス公国】捕虜解放作戦⑥
【フランソワ王国】の首都方面から接近して来る、空を飛ぶ高速物体は相当数存在するようで、かなりの大きさの塊となって此方にやって来る。
凡そ10分後に、此の閉鎖空間で遮断している山脈に到達すると、センサーによって判明している。
空軍が操作する小型ドローンは全機で50機しかないが、閉鎖空間を解きさえすれば、【大型揚陸艦】が装備している滞空武装を使用出来る様になるので、其れ等を使用すれば逃走するだけなら、特に問題無く逃げれるだろう。
それから5分後には、あらゆる山脈の地下に【ソロモン】が所蔵していた、魔導具にアーティファクトそして蔵書や様々な資料も、【大型揚陸艦】に全て移譲させる事が出来たので、直ちに展開していた閉鎖空間を解き、【大型揚陸艦】は臨戦態勢に入る事が出来た。
その直後、敵性の空を飛ぶ高速物体の正体が鮮明にセンサーで判別出来て、接近しているのは巨大な蝙蝠の群れとハーピーの群れ、そしてベンヌという光る鳥の群れ、更には蝗の大群である。
何とも雑多な集団であり、然も空を飛ぶスピードがマチマチなので、塊がそれぞれで別れているのは作戦上の集団では無くて、自然にそうなってしまわざるを得なかった様だ。
ならば、対処は簡単だ。
此方は【大型揚陸艦】を中心とした防御網を構築しているので、射程距離の長い武装で応戦して行き、程の良い所でバリアーを展開しつつ、状況を見て撤退すれば良い。
基本方針を皆に告げて、俺は【大型揚陸艦】の司令室から戦況を見る事にした。
俺が予想した通り、先ず接近して来たのはベンヌという光る鳥の群れで、次にハーピーと巨大な蝙蝠の群れで、最後に蝗の大群と云う順番で迫って来る。
さて、一切手を抜く必要の無い相手なので、俺は空軍の連中に命令した。
「全員、傾聴せよ!
敵軍の陣容を見るに、只の魔獣と虫の群れであると確認出来た。
こんな奴等から撤退するなど、仮にも空軍の名を冠する貴君達にとっても、非常に不名誉であると俺は考え直した!
諸君! 命令を変更する。
小型ドローンと【大型揚陸艦】の武装で以って奴等を殲滅し、我等がどの様な武力を所有するか、【フランソワ王国】に思い知らせてやれ!」
「「「了解しました!!」」」
その非常に気合いの籠もった返事を聞き、俺は司令室から適宜にそれぞれの攻撃範囲を指示しつつ、敵の動きを注視した。
思った通り、敵が随時指揮していないらしい魔獣と虫の群れは、ただ此方に向かって押し寄せるだけなので、先ずは【大型揚陸艦】に装備されている大型ブラスターが火を吹いた!
シュゴーーー!
火薬等を使用していない光線による攻撃は、何とも間抜けに聞こえる射出音だったが、生じた結果は半端なものでは無く、ベンヌという光る鳥の群れの中央に大穴を開けると、そのまま薙ぎ払われたブラスターの光線は、見事にハーピーと巨大な蝙蝠の群れをも切り裂いた!
続け様に小型ドローンが、勢いを殺されてたたらを踏んだ敵の魔獣達に向かって、整然と一直線に隊列を組んで突進し、そのまま周囲に向けてレーザー砲を乱射しまくった!
当然、魔力を使用しない光学兵器の照射は、簡単に魔獣達の身体を灼きながら射抜き、次々と落下させて行った。
恐らく今迄の敵達と同様に、魔法攻撃や魔法防御等の強化措置は魔獣達に施されていたのだろうが、未だに【フランソワ王国】側は科学技術への対抗措置は編み出されていないらしい。
此の差が有る限りは、一定のアドバンテージを我々は【フランソワ王国】に対し、保持し続けられるだろう・・・。
暫くの間、一直線に隊列を組んで小型ドローン達は、魔獣達の群れの中に踊り込んで傷口を抉る様に攻撃し続けたが、数が明らかに減ってしまった魔獣達に見切りを着けて、漸く接近して来た蝗の大群に向かって迎撃すべく、隊列を鶴翼の陣に組みなおして包囲殲滅戦を画す。
小型ドローンに見切りをつけられた魔獣達は、【大型揚陸艦】の小型パルスレーザー砲の獲物として、散々に撃ちまくられてしまい完全に殲滅する事に成功した。
落下した魔獣の躯を亜空間に収納して、小型ドローンが迎撃しに向かった蝗の大群も、ほぼ全滅させた事を俺は司令室で確認し、残存した蝗をサンプルとして亜空間に収納し、完全勝利した事を確認した上で【大型揚陸艦】を隠蔽モードに移行させ、圧倒的な高度での航行を行いつつベネチアンへの帰還を行う。
策定していた作戦行動を全てやり終えた我々は、改めて【ソロモン】側の者達と作戦成功を祝い合った。
【大型揚陸艦】の食堂に設けられた宴会場で、行われたささやかなパーティーでは、【ソロモン】の使い魔達から熱烈な感謝の言葉を受けて、其の都度乾杯を酒を勧められたので、俺は飲み過ぎたのを自覚して小休憩の為に隣接している小部屋に向かった・・・。
暫く其処で酔いを覚ましていると、その小部屋の扉のドアノブがカチャリと音を立てて回され、【魔人ブレスト】がゆっくりと入室して来た。
「酔いは覚めたかな?」
そう言いながら、片手に持った酔い醒ましの為らしい温かいお茶を俺に勧めながら、【魔人ブレスト】自身ももう片方に持っていた温かいお茶を飲み始めた。
「・・・此れは有り難いな・・・」
そう言って俺は受け取ったお茶に口を付けて、ゆっくりと口に含むと、何とも爽やかな香りが口の中に広がった。
「此れは?! 素晴らしく酔い醒ましに向いた茶葉だな、俺はこんなに香りがさっぱりとしたお茶は飲んだ事が無い!」
思わず口から飛び出した感想に、【魔人ブレスト】はしてやったりといたずら小僧の様な表情を作ると、解説してくれた。
「此の茶葉はな、遥か東の国で栽培されている香醇と云う茶葉で、あちらの王や位の高い者しか口に出来ない代物らしいぞ」
「それは、相当な価値物だろうに、俺の酔い醒ましに使ってしまって良かったのか?」
「大丈夫だよ、【ソロモン】自身が許可してくれているから、問題ないぜ」
「・・・そうか、ならば良いのだがな・・・」
そう俺が答えて、二人共暫くの間、無言でゆっくりと香醇と云う茶葉で煎れたお茶の、爽やかな香りを楽しみながら、ゆったりとした此の時間を過ごす・・・。
やがて、お茶を飲み干したタイミングで、【魔人ブレスト】が俺に頭を下げて来た。
「・・・ヴァンよ・・・、改めて感謝を述べる、本当に有り難う・・・」
まさか、【魔人ブレスト】に頭を下げられるとは思わず、やや戸惑いながら俺は返事をした。
「驚いたな、お前が此の様に感謝して来るとは、もしかして【ソロモン】を救い出した件か?」
「その通りだ! ヴァンには聞いて貰いたい話しが有るのだよ!」
そう言うと、【魔人ブレスト】は長い話しを俺に語り出した・・・。