第二章 第5話 【オリュンピアス公国】捕虜解放作戦⑤
【魔人ブレスト】達と合流し、【ソロモン】が封印されたクリスタルの有る部屋に踏み込むと、部屋の脇には拘束された駐留部隊が集められていて、部屋の中央部分にクリスタルが安置されていた。
クリスタルを詳細に観察すると、様々な装置が周囲を覆っている上に、色々な色彩のケーブルが装置から伸びていて、そのケーブルの先には大型パネルと小型パネルが設置されていた。
([ヘルメス]、今からデバイスを接続するから、解除してくれ)
[了解です、暫くお待ち下さい。
どの世代の【星人】の遺産か確認した上で、対処致します]
そう[ヘルメス]が応じて、きっかり3分後にクリスタルの周囲を覆っていた様々な装置が、自ら自動で動き出してクリスタルから剥がれて行った・・・。
やがてぼんやりとクリスタルは光り始めて、ゆっくりと透明性を増して行った。
そのクリスタルに封印されて来た人間の姿が、透明性を増して行った事で俺にも判別出来る様になった。
顕わになったその姿は、数百年、或いは千年以上、生きて来た人間とは思えない程の若さを持つ、年齢で云えば俺と同世代と思われる程の美麗な男の姿だった・・・。
(【ソロモン】とは、まさか不老を成し遂げた上に、自由自在に年齢を操れるレベルに達した偉人であったのか!)
そう心の中で感嘆しながら俺は、此の世界に於ける歴史的な偉人との出会いに、感動しながら見つめていると、何やら脳裏に声が届いて来た。
『・・・初めてのご拝謁を念話と云う形で賜り、誠に申し訳御座いません、《我が主》よ・・・』
そう語りかけて来たのが、目の前のクリスタルの中に封じられている【ソロモン】だと、判っていながら俺は敢えて問う事にした。
「・・・今、俺に対して語りかけて来たのは、目の前のクリスタルの中に封じられている【ソロモン】殿で間違い無いかな・・・?」
『ーーーその通りです、《我が主》よ。
今現在、私はクリスタルの中に封じられているので、身動き一つ出来ません。
なので、些か初対面であるのに失礼を承知で、ご挨拶させて頂きましたーーー』
「・・・先程から気になっていたのだが、俺の事を《我が主》と呼んでいるが、俺は【ソロモン】殿から《我が主》と呼ばれる謂れに覚えが何も無いので、出来ればその所以を教えてくれないかな・・・?」
そう【ソロモン】に俺が尋ねると、【ソロモン】は念話で答えてくれた。
『その通りです、《我が主》よ。
実は、此れまでは私は《我が主》と出会ってもいないですし、交流等は一切御座いませんでした。
しかし、私は戯れに《我が主》などと呼ばせて頂いている訳では無く、此れからは確かに《我が主》の忠実な配下とさせて頂きます。
此の事を、私は遥か昔の約700年前に星詠みを得意とする使い魔達と共に、断片的な【アカシックレコード】を拾い上げる事で、将来の事実として詠み解きました』
「ふ~む、不可思議な話しだが取り敢えずその話しは何れ解明するとして、現状は時間が限られているので、【ソロモン】殿にはクリスタルからの封印解除は後で行うとして、此の状態のまま【大型揚陸艦】に積載されてもらう、宜しいかな?」
『問題御座いません、どうぞ今後は私の使い魔達をご自由にお使い下さい、それと【魔人ブレスト】よ!』
「あいよ、【ソロモン】様!」
どうやら念話が聞こえていたらしい【魔人ブレスト】が、軽い感じで返事を【ソロモン】に返すと、なんだか苦笑した雰囲気の【ソロモン】が命じた。
『お前の《我が主》と勝負したいと願う心持ちは判るが、今はその欲望を一旦封じて、《我が主》に協力して人々を救う事に尽力せよ!
お前の働き如何では、《我が主》に私がお願いして、お前との本気での試合をして頂ける様に願い出てやる!
それまではお前に与えた様々な能力を駆使して、《我が主》の為に働くのだ! 精一杯頑張れよ!』
そう言って【ソロモン】が念話を終えると、【魔人ブレスト】が俺に向き直り、親指を立てて『お互い頑張ろう』と念話をして来たので、俺も同様に親指を立てて『了解だ』と念話で返してやった。
それからは、予定通りに作戦行動を遂行して、駐留部隊の残存勢力を駆逐しつつ、山脈の地下にある捕虜収容所を急襲して、捕虜を全員解放してそのまま【大型揚陸艦】に収容した。
此の段階で作戦の80%は成功したのだが、やはり俺が懸念していた通りに、【大型揚陸艦】のセンサーが此の山脈に向けて、【フランソワ王国】の首都方面から接近して来る空を飛ぶ高速物体を感知した!
(やはり来たか!)
懸念が当たった事に嬉しさを一つも感じず、俺は準備させていた空軍の小型ドローンを順次発進させた。
恐らくは、此の世界に於いて初の人間同士での戦争で、空中での戦闘が開始されようとしていた。