第二章 第4話 【オリュンピアス公国】捕虜解放作戦④
俺達の潜入と同時に蜂起してくれた、内部から駐留部隊と交戦してくれている、【ソロモン】の配下達が頑張っているのだろう。
此方には、一向に駐留部隊が迎撃行動に動く様子が無いまま、予定の進入路の半分を踏破して、【ソロモン】の封印されているクリスタルの或る部屋まで、後少しの距離まで到達した。
流石に其処まで来ると駐留部隊も此方に気付き、俺達に向けて迎撃フォーメーションを敷いて、短杖を俺達に向けて翳して来て、短杖の先端からまるで光るドラゴンの様な雷撃魔法が迸り出て、俺達に殺到して来た!
「させるか!」
此れは想定していたので、避雷針としての魔導具を前方に投射して、雷撃魔法を俺達から逸らすことに成功して、次の魔法攻撃に移る前に接近した俺達は、各々の武器で駐留部隊凡そ30人に襲いかかった!
駐留部隊はやはり、最重要拠点を護る為に選別された精鋭らしく、あまり慌てずに統一された武器を手に取り、応戦して来た。
俺は潜入部隊の面々が交戦に突入すると、状況を見ながら適切な対応を取るべく、全体を見て援護したり、【アガレス】に指示して防御魔法を適宜に展開させた。
当然その全体指揮をしている俺は、敵からしてみれば明らかに狙うべき第一目標なので、俺に向かい攻撃魔法や物理攻撃であるボウガンやスリングショットが集中する。
だがそれは、俺としては非常に有り難い話しなので、敢えて防御魔法を自分には展開させず、攻撃魔法や物理攻撃を全て捌く事にした。
例えば攻撃魔法ならば、手の平に固定させている【小型亜空間フィールド】で全て吸い取ってしまい、物理攻撃ならば手の甲と足技でもって、射出した本人に向けて跳ね返してやった。
敵は俺に攻撃を集中させればさせる程、接近して来た潜入部隊への対処が遅れてしまい、完全に懐に入り込まれてから漸く対処し始めたが、初手を潜入部隊に取られていたので、明らかに最初から劣勢の勝負になった。
すると当然ながら、俺はフリーハンドになるので、敵が迎撃フォーメーションを敷いている、非常に狭い真横に【縮地】で滑り込むと、横に並んだ敵兵の土手っ腹に向けて、練って置いた【徹し(とおし)】を渾身の力で放つ!
その無形のエネルギー波は、一切魔力を介在していないので、敵が着込んでいる魔導具の鎧では、対抗出来ずに一直線にエネルギー波を通してしまい、並んでいた敵兵はそのまま棒が倒れる様に薙ぎ倒されてしまい、完全に迎撃フォーメーションは崩れ去った。
此の段階で実質勝負は着いて、此の後は事後処理の様に次々と敵兵を倒して無力化すると、後ろ手に手錠で拘束して、【亜空間監禁】で敵兵を亜空間に閉じ込めて行った。
その処理が終わると、閉じていた部屋が轟音を上げて拉げながら開いた。
「・・・漸く倒せたぜ、思ったより頑丈だったな」
そんなあまり緊張感を感じられない、やや間延びした感想を述べながら、見知った顔が拉げた扉から顔を出して来た。
【魔人ブレスト】そう嘯きながら、【オリュンピアス公国】解放戦の最終段階で、俺が此の世界に来て初めて勝てないかも知れないと思い知らされた男が、再度俺の目の前に現れたのだ!
「おっ、やはりお前が最前線で乗り込んで来てたんだな、ヴァンよ!」
「お前こそ、魔力を一切使用せずに格闘戦のみで、強化アイアンゴーレムを倒したのだな!」
そう、【魔人ブレスト】が扉を拉げさせながら倒した対象は、明らかに金属製でどう見ても此の世界の常識に当て嵌まらない技術の産物であるゴーレムだった・・・。
此の強化アイアンゴーレムの存在は予め俺も知っていて、恐らく今回の潜入作戦に於いて一番の障害とされていた。
そもそも此の強化アイアンゴーレムは、【ソロモン】が生まれた古代イスラフェルから持ち出した、古代イスラフェルのガーディアンに相当し、此の研究所でも同様にガーディアンとして【ソロモン】達を護って居たのだが、例の【フランソワ王国】の裏切りにより所有権が【フランソワ王国】に移譲されていたのだ。
当然此の強力過ぎる兵器を、【フランソワ王国】は【ソロモン】を封印したクリスタルの部屋に於ける最終ガーディアンとして配置していて、当初の作戦では此奴は全員合流した上で倒すことにしていた。
しかしどうやら【魔人ブレスト】が、あの凄まじい格闘能力で単独で壊してしまったらしい。
【魔人ブレスト】は、まるで俺以外の人間は居ないかの様に、俺だけを相手に話し掛けてくる。
「ヴァンよ! 図らずもお前とは戦う相手では無くて、共闘する味方となってしまったが、敵と成った【ソロモン】の使い魔の中には、全く俺が勝てない程の強者も存在する。
彼等にしても【ソロモン】とは敵対したくは無かろうが、【ソロモンの指輪】で強制された彼等は恐らく全力で我々に攻撃して来るだろう。
気合いを入れろよ!」
「嗚呼、当然その覚悟は決めている!
【魔人ブレスト】! お前には大いに期待している!」
そう返してやると、【魔人ブレスト】はニヤリと笑いながら俺とハイタッチして、右腕同士を絡ませて同時に声を上げた。
「「オウッ!」」