第二章 第3話 【オリュンピアス公国】捕虜解放作戦③
払暁の中、俺と【オリアス】そして潜入部隊とサポート部隊等を乗せた【大型揚陸艦】は、隠蔽モードのままで【フランソワ王国】の遥か上空から降下しつつ、【ソロモン】の研究所がある山脈に近付いて行く・・・。
タイムスケジュールはなるべくなら【フランソワ王国】が気付く前に終わらせたいので、かなりタイトではあるが12時間で全てを終わらせて撤収させたいと思っている。
【ソロモン】の研究所がある山脈には、当然ながら空からの出入り口は存在しないので、あくまでも地上からの物資の搬入経路を辿って潜入するしか方法が無い。
予め先に帰還している【ビフロンス】が、仲間の使い魔達と共に物資の搬入経路を抑えたタイミングで、【大型揚陸艦】は【ソロモン】の研究所がある山脈の空域を占拠し、終了したら直ちに閉鎖空間を領域展開する。
そして、我々潜入部隊が物資の搬入口に到着したら、【ビフロンス】とその仲間の使い魔達が、内部から蜂起して、中に居る【フランソワ王国】の部隊を挟み打ちにして拘束しつつ、【オリュンピアス公国】捕虜を解放すると云うのが、今回の作戦の骨子である。
当然全てが上手く運ぶとは限らないので、幾つもの次善策と分岐プランを設けているが、なるべくなら当初の作戦通りに物事が運んで貰いたいものだ。
そう願いながら、【ビフロンス】達からの連絡を【オリアス】と共に待っていると、預けて置いた通信機から連絡が入った。
『・・・此方、【ビフロンス】!
たった今、物資の搬入口を抑えました!
作戦を遂行して下さい!』
「了解した、此れより順次作戦行動に入る!」
『それでは、其の都度連絡をお願いします!』
「了解した!」
短い受け答えの後、【降下艇】で着陸した俺を含む潜入部隊は、直ちに物資の搬入口に向けて走り、到達すると【ビフロンス】の仲間と思われる男女10人と合流し、物資の搬入口を完全に確保した。
「【ビフロンス】殿のお仲間ですな?」
「左様、私は今回の作戦のリーダーにして、ソロモン72柱が1柱にして2階梯【アガレス】公爵と申します、お見知り置き戴きたい」
そう答えてくれた老人は、何とも理知的な風貌をした老人で、表面上はとても荒事に向いた人物には見えないが、俺にはその眼の奥に揺蕩う神秘的な力の源泉が見えていて、とてもでは無いが侮るべからずとの思いが身体の奥底から湧き出てくる。
その様子を知ってか知らずか、【アガレス】は作戦通りに我々と共に駐留する【フランソワ王国】の部隊を、挟み打ちすべく通路を案内してくれた。
「ところで、駐留する【フランソワ王国】の部隊はどの程度の実力なんだ?」
そう俺が聞くと、【アガレス】が答えてくれた。
「そうですな・・・、人数は凡そ150人程なので決して多くは無いのですが、かなりの問題点が有りましてな・・・、全ての軍人が我等から奪った魔導具やアーティファクトで武装している上に、魔法では傷付かない防具を纏っております。
我等使い魔の攻撃は、どうしても魔力を伴う魔法と判断されますので、あまりお役に立てないと思われます。
ですが、防御魔法は使用出来ますので、防御面はお任せ下さい」
「・・・やはりそうなるか・・・、予め想定していたので、その対策を施した武器と魔法防御装備をしているので、更に防御魔法の支援を受けられるのであれば、攻撃のみに専念出来ますよ、本当に有り難い!」
俺はそう答えて、後ろを付いてくる潜入部隊に頷くと、彼等も頷き返して改めて各々の持つ得物を握り直している。
暫くの間警戒しながら走って行くと、突然かなり前方に有る扉が閉じられて、いきなり横の壁から奇妙な球状の突起が現れた。
「何だ?!」
そんな戸惑いの声を誰かが上げると、突然、奇妙な球状の突起から強力な魔法攻撃が繰り出された!
ゴウッ!
こんな地下通路では禁じ手として、非難の対象に指定されている炎のクラス3魔法が、此方に殺到して来た!
「キャンセル!」
俺の隣で走っていた【アガレス】が落ち着いた声を上げると、殺到して来ていた炎のクラス3魔法は、まるで巻き戻す様に奇妙な球状の突起に吸い込まれて行き、横壁に奇妙な球状の突起は格納されて行った。
「驚かせて申し訳無い。
あれは、元々我々が仕込んでいた自動防御魔導具なのだが、どうやら駐留部隊が命令系統を書き換えている上に、攻撃魔法の内容も麻痺魔法から火魔法にしている様だ。
今から念話で、内部で戦っている仲間にスイッチを切らせて、全ての自動防御魔導具をシャットダウンさせる」
そう回答してくれる【アガレス】の言葉の端々に、俺の生まれ故郷のライブラリーに出てくる幾つもの専門用語が含まれている事に気付き、俺は【ソロモン】とその配下の者達がかなりのレベルで、科学技術を理解している事実に感銘を覚え、いよいよ会いたい気持ちが募ってきた。