第二章 第1話 【オリュンピアス公国】捕虜解放作戦①
今回の全体会合で、大まかな新生ベネチアン国としてのスタンスと行動が決まった。
先ずは現在【フランソワ王国】が侵攻している【ドラッツェ帝国】に対して、友好的に行動して【ドラッツェ帝国】が我々にどの様な態度をとるのかを見て、同盟や共闘を考えて行くということになった。
それとは別に、【フランソワ王国】が事実上占拠している領土内の山脈の地下にある、【ソロモン】の封印されたクリスタルが存在する研究所を解放するべく、潜入部隊による特別軍事行動を開始する事が決定した。
此の特別軍事行動が迅速に決まった背景は、【オリアス】と【ビフロンス】が明かしてくれたある重要な情報の所為であった。
その情報とは、【ソロモン】の研究所がある山脈の地下には、捕虜の収容所が存在していて其処には、アンジーが率いていた軍隊に所属していた傷病兵達が含まれていると言うのだ!
つまり、以前【オリュンピアス公国】を解放して、彼等アンジーの元部下を招集しようとした時に、取り残されていた元兵士の証言通りに、【フランソワ王国】が事実上占拠している領土内の山脈の地下に、連行されて行ったと云う事の裏付けが取れた事になる・・・。
ただその情報には続きが有り、捕虜収容所の管轄は【フランソワ王国】が握っていて、現在【ソロモン】側はその捕虜達の治療と能力のレベルアップに辛うじて携われていると云う内容だった。
既にアンジーの軍隊が崩壊させられてから、2年近い年月が時間が経っていて、彼等はありとあらゆる実験に晒されている者も存在し、人間としての外見は保っているが精神面が獣に近い者も居るそうだ。
此の情報を聞いて、アンジーを始めとした【オリュンピアス公国】の出身者達は、一も二も無く彼等を救い出すために行動すべきだと主張して来たので、他の面々もその主張を最もだと判断して、最優先事項に規定して特別軍事作戦が立案された。
先ず山脈全体に張り巡らされている警戒網を完全に遮断するために、過去2回我等が行った都市に対しての閉鎖措置を実施する事とした。
それは過去に於いて2回【オリュンピアス公国】の首都と【オリンピア大公国】の首都に行った方法で、閉鎖空間を地表のある区域に行う事で一切の外部との連絡どころか接触手段を断つ事を意味する。
今回は過去2回と比べると、遥かに広大な地域を範囲に指定する為に、恒久的な閉鎖空間は構築出来ないが、短時間であれば母艦の【天鳥船】からのエネルギー支援を受けた、【大型揚陸艦】だけで賄えそうなので、隠密作戦を主とした軍事行動を作戦に盛り込んだ。
更にタイミングを合わせる様に、山脈の地下内部からも【ソロモン】側の使い魔達が【フランソワ王国】に対して蜂起する事が決まった。
此れでグンと作戦成功率が上がったので、参加する部隊を選別して如何に潜入部隊による特別軍事行動を成功させるかの具体案を、新進の幕僚達が頑張って練り込んで行く。
(・・・思えば、アンジー達と出会ってから、もう2年も経っているのか・・・。
俺も、此の世界に馴染んで来て、アンジー達と殆んど変わらない程の当事者意識が芽生えているからか、【オリュンピアス公国】の元兵士が捕虜になっていると聞くと、憤りを感じてしまったな・・・)
しみじみと俺は感傷を抱きつつ、新進の幕僚達と共に様々な資料を見ながら、意見を出し合って作戦を煮詰めて行く・・・。
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◇◇◇【アンジェリカ・オリュンピアス】視点◇◇◇
何と、私の元配下の軍人達が捕虜として収容所に捕らわれていて、治療は受けたがその後は様々な実験等を受けさせられているらしいわ。
そもそもあの状況で生き延びられるか怪しかったのに、生きている事が判っただけで嬉しく思う一方で、彼等の窮状に思い至らなかった私自身を殴打したい心持ちになったのだが、何とまるで実験動物の様に様々な実験を受けさせられていると云うの・・・。
嗚呼、なんて私は非道い上司だったのだろうかしら・・・。
此の可能性は、以前に【オリュンピアス公国】を解放した時に、ある程度情報は得ていたにも関わらず、目の前に居る大勢の公国民をベネチアンで保護するのに手一杯で、彼等を後回しにしてしまったのだから・・・。
こうなれば、一刻も早く彼等を救い出してから、改めて彼等に詫て謝らなければならないわ。
そう思いながら、私はベネチアンの外縁部に造成された、【オリュンピアス公国】からの疎開民の為のコミュニティ組織である、公国自治組織【オリュンピアスの集まり】に正式に出向いたの。
そして出迎えてくれた所長や職員に命じて、直ちに私の元で軍人をしていた者達のご家族とご遺族に、もしかすると彼等が【フランソワ王国】の捕虜として生きているかも知れない事実を通達して、もし無事に帰還した際には心良く出迎えて欲しい事を伝えて欲しい事を願う声明を出して貰ったわ。
所長や職員も始めは驚いていたが、直ぐに動いてくれて明日には名簿を作成し、ベネチアン城に報告を上げる事を確約してくれたの。