第一章 第93話 大公国首都決戦⑦
巨大な切り株こと【ヤヌコビッチ】は根っこの様なモノを含めると、全長凡そ700メートルに及ぶ植物の切り株と根っこに酷似した姿をしている。
なので動物の様に早く動けるとは思えなかったのだが、ザワザワといった感じで根っこが動き始め、未だに停止させていないので【重力反転攻撃】の高重力が掛かっているというのに、まるで意に介さずに根っこを空中から伸ばして来て、此方の軍団を絡め取ろうとして来た。
「攻撃開始!」
少しも慌てずにアンジーが号令してくれたので、全軍規律良く各々の武器での遠距離攻撃を開始した。
【PS】は肩に取り付けているバズーカ砲で、クラス3の火魔法による遠距離攻撃を主体に攻撃し、戦闘車両と戦闘バイクは【PS】より小ぶりながら、同じバズーカ砲で攻撃し始めた。
そういった口径の大きいバズーカ砲を持たない一般兵や海兵達は、伸びてくる根っこに対し団結して防御魔法を構築して、攻撃している仲間の防御を担当して行った。
案の定、【ヤヌコビッチ】は火系統の魔法には弱い様で、根っこを伸ばせば伸ばす程炎で反撃されて火が切り株本体に燃え移って行った。
(・・・あまり思考能力の無さそうな魔物だな・・・)
正直、前哨戦でオリンピア湾海戦で戦った、【水棲魔物】の方が武器や艦船を操ろうとする知能が有っただけに、【ヤヌコビッチ】が非常に間抜けに見えて来る。
同じ攻撃を繰り返す【ヤヌコビッチ】はとうとう植物の全身に炎が燃え移り、かなりの速度で燃え上がり始めた。
そしてそのまま燃え尽きると思えたが、何と切り株の部分だけが燃え残り、奇妙な球形の形で空中に浮いている。
このままでは我等にとっても手が出せなくて処理に困るので、【大型揚陸艦】に【重力反転攻撃】を止めさせて、表面が黒焦げになった球形の切り株が地表に落ちて来た。
既に根っこの部分は燃え尽きて炭化しているので、ボロボロになったまま高重力に晒されて空中で雲散霧消してしまっていた。
表面が黒焦げになったとは云え球形の切り株が崩れ去らずに残っている事が、ある意味尋常ではないと言える。
「良し、後は此の球根の様な物体を調査して、今回の事態を解明する一助になる様にする。
皆注意しながら対処す・・・」
とアンジーが言い終える前に、突然、黒焦げになった球形の切り株が微振動し始めた!
ブーーーーン
そんな虫の羽音の様な音を立てて、微振動を繰り返す黒焦げになった球形の切り株に、地下空間の有った場所から奇妙な触手の様な物体が、より深い地下から生えだして来て、纏わりつくように覆っていった!
(・・・甘く見すぎたか!)
俺は【ヤヌコビッチ】が放つ、繰り返してきた余りに稚拙な攻撃の為に、相手を侮っていた事に臍を噛む思いで後悔する。
やがて【ヤヌコビッチ】を覆い尽くした触手の様な物体は、良く観察すると光沢こそ放っているが植物の根っこに酷似している事に気付いた。
「まだ、地中に残っていたのか!」
然も今回の根っこは、表面の光沢具合といい伸ばして来る様な動きも見せない。
「・・・全軍攻撃を再開せよ! これ以上は大公国首都を荒らす訳にもいかないので、此の場でとどめを刺す事を優先せよ!」
アンジーの攻撃再開の号令を受けて、我々は全軍で火系統の武装による集中攻撃を仕掛けたのだが、【ヤヌコビッチ】を覆い尽くす根っこの様な触手は、まるで熱に強い金属製であるかの様に火が燃え移るどころか一切変化が無い。
暫くの間、火系統の攻撃を繰り返したが、まるで効果が無い事が判り、【ヤヌコビッチ】の次の行動を見て判断する事となった。
すると、まるで俺達の会話を聞いていたかの様に、【ヤヌコビッチ】は動きを起こす。
何と、【ヤヌコビッチ】の表面を覆い尽くしていた根っこの様な触手は、まるで不定形生物の様にグニャグニャと形を崩し始めて全体の形状を激変させて行った。
(此れは、まさか【MM】なのか?!)
俺は【PS】のサブ・パネルに映る、【ヤヌコビッチ】の外部センシングで得られた詳細データを確認し、現象とそれに酷似した資料との突き合わせで、【MM】の特有現象である形状変化への形成過程を照らし合わせる事で回答を得た。
(・・・やはりそうなのか・・・、だとするとアンジーの乗る守護機士【アテナス】にも使用されていた、過去の【星人】が齎した超技術の一つだ!
とすると、此れは事実上二度目の守護機士【アテナス】と戦った時以来、嘗ての【星人】の生み出した存在との戦いとなるのか!)
俺は、武者震いしながらも、形状を激変させて行く【ヤヌコビッチ】を観察して興奮する自分を抑えられなかった・・・。