第四話 二人でショッピング
「式さん、これどう思いますか?」
「ああ、いいんじゃないかな」
「じゃあ、こっちは?」
「うん、いいんじゃないかな」
風花の質問に答えながら周囲を見渡していた。
それに気付いた彼女が、不満そうに口をとんがらせる。
「むう、ちゃんと考えてくれてますか?」
「じゃあこれだ、これにしよう」
「決めるのが早すぎます! もっと悩んでください」
「無茶苦茶だ……」
シャツをクリーニングに出したあと、アクセサリーショップで猫のキーホルダーを探している。
車には変装用の帽子と眼鏡をいつも積んでいるので、周囲に風花とはバレていない(と願う)。
とはいえ、段々と不安になってくる。
ゆっくりと見ているところ申し訳ないが、ソワソワが止まらなかった。
誰かに見られてやしないか、誰かに撮影されてはないか、と。
そのとき、風花がちょいちょいと手をこまねく。
身長差があるので少ししゃがみ込むと、彼女が手で囲いを作り、俺の耳元で囁く。
「今泉さん、大丈夫ですよ。意外に人は周りを気にしてないので。逆にキョロキョロしていると怪しいです。店員さんを見てください」
そう言われて店員に視線を向けると、まるで俺が万引きしようかと思っていると勘違いされているようだった。
睨んだり、笑顔になったり、なんだったら手元をガッツリみられている。
「……ハイ。すいません」
これにはさすがに申し訳なくなり、26歳の大人が、14歳にガチの謝罪。
彼女の言う通りだ。普段通り振舞えば問題はない。なんだったら、周りから見たら俺はお兄さんだろう。
……いや、お父さんか?
「よ、よし! 何でもいいぞ! なんだったら一つ、二つ、いや三つでも! 買ってやろう!」
「今泉さん、演技が下手です。それにやりすぎです」
「すいません……」
今一度怒られる俺、ごめんなさい、娘よ。
◇
「ふふふ、可愛い、可愛いですー!」
「袋に入ってるから見えないぞ」
「心の目で見ているのですっ」
風花は、袋に入ったままの猫のキーホルダーを抱き抱えながら、満面の笑みを浮かべている。
結局、以前とほぼ同じの三毛猫になった。
「早く付けたいなあ」
しかし横顔も綺麗だな。
元々は演技力が凄まじいとのことで人気になったが、それにしても顔立ちが整っている。
将来は日本を背負う女優になると言われているが、俺もそう思う。
「あ、」
そのとき、突風が吹いた。
猫のキーホルダーの入った袋が宙に舞い、風花が声を上げて追いかける。
周囲には人が大勢いるが、おそらく目に入っていない。
「風花ッ! 危ないっ!!」
――『ドンッ』
案の定、風花は思い切り人とぶつかってしまい、帽子が吹き飛ぶ。
そして――。
「大丈夫ですか? え……安藤風花!?」
「安藤……? え、まじ? 本物?」
「嘘、ドッキリ!?」
誰かが叫んだ瞬間、周囲が騒めき出す。呼応したかのように、風花を取り囲んでいく。
俺は急いで駆け寄り、手を掴んだ。
「行こう」
強く手を引っ張って、その場をあとにする。
後を追われていないか何度も確認し、急いで車内に入る。
「すみません、今泉さ――」
「怪我はないか!? 手は? 足は!? どこも痛くないか?」
「え? あ、はい。ええと、大丈夫そうです」
「良かった……。本当に良かった……」
ホッと胸を撫でおろす。写真は……さすがに大丈夫だろう。
すぐに離れたし、撮られてはないはず。
しかし、彼女もさすがにびっくりした――。
「手、繋いじゃいましたね♡」
「……はい?」
あれ? そういえば、咄嗟に手を掴んでいた。いや、待てよ。
公衆の面前で……俺めちゃくちゃやばいことした?
ていうか――。
「なんで笑顔なんだ……」
「ふふふ、ネットに出回ったら大変なことになるかなーって思ったら、笑っちゃいました」
「それ、笑うとこじゃない。俺のクビが飛ぶかもしれん」
「そのときは私が式さんを守るので大丈夫です」
一転して真剣な顔で言う。演技か本気か、ほんとわからないんだよなあ……。
「あっ!?」
突然、叫び出す風花。何、何なんだ!?
「猫のキーホルダー! ……忘れてきちゃいました」
「ああ、ほらよ」
ひょいと袋を渡す。当然、ちゃんと拾っておいた。
「わっ、さすが式さん! えへへ、ありがとうございます♪」
「けど、次は追いかけたりしないでくれよ。怪我なんてしたらニュースになっちまう」
「はーい!」
さてさて、お姫様を無事に送り届けるか。
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