表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/42

第二十七話 好きって、どんな好き?

 好きとはなんだろうか。

 思い返して見ると、最後に誰かを好きだったのはもう随分と前の話だ。


 あの頃は、相手の一挙一動が愛おしくて、毎日が楽しかった気がする。


 そして「――男性として式さんが好きです」という、風花の言葉を考えていた。


 ……そのままの意味なのだろうか。


 いや、そうだよな。


「好き、か……」

「あら、今泉くん、好きな人でも出来たの?」

「いえ、僕じゃなくて風――いや、え!? 小松原さん!?」


 早朝すぎる早朝、オフィスの机で唸っていた俺は、背後から来た上司の物音に一切気づかなかった。

 慌てて弁解するが、挙動不審さは誤魔化しきれなかったのだろう。明らかに眉を潜める。


「おはよう、今日そんな早くから仕事あった?」


 風花に伝えられた言葉が心に引っかかりすぎて早起きしてしまったんですとは言えず、「残っていた仕事が」と答えた。

 てか、さっきの独り言、聞こえてないよな……?


「それで、誰から好きって言われたの?」

「え、いや、え!?」

「好き、か。いつもはいないはずの部下、ため息をつく部下。これって役満じゃない? 太鼓の超人ならフルコンボよ」

「小松原さんの口からゲームの話の例えが出るとは思わなかったっす」

「あら、こう見えて結構ゲーマーよ。ほら」


 意外すぎる答えに驚きつつも、見せつけてきたスマホには俺が昔やっていたゲームのハイスコアが表示されていた。


「おみそれしました」

「ふふふ、で、恋の悩みのお相手は? もしかして芸能人じゃないわよね?」

「え、な、なにいってるんですかー! そんなわけないじゃ――」

「それはありえないからね」


 その瞬間、小松原さんは表情をがらりと超えた。


「ど、どうしたんですか」

「前に所属していた会社であったのよ、芸能人と出来てしまったマネージャーがね」

「それってどうなったんですか?」

「あれはもう……思い出すだけでも最悪だわ」

「最悪というのは……」

「まずは週刊誌の告発のせいでバレたんだけれど、そのせいでCM撮影にドラマ、映画も降板、当然のように違約金も。それで会社は潰れた。もちろん、従業員も解雇よ。退職金も出なかったわ」

「そんな……」


 想像したくもない、聞くのも怖い話だった。


「まあ、あなたは安藤風花ちゃんの担当だからそんなことないのはわかってるわ。で、誰なのよ? 告白されたの?」

「えへ、えへへ、えへへー」

「あれ、今泉くん? どこ行くの?」

「はっはははー、ちょっと外回りにいってきまーす」

「あなた営業だったのは前の話よ、今泉くん?」


 俺はもう何も考えられなかった。頭がおかしくなりそうだ。

 まずい、まずいぞ、会社が潰れちゃうよおおおおおおおおお。


 ◇


 強引に外に出た俺だったが、カフェやなんやかんやで時間を潰していると、風花の迎えの時間がやってくる。

 とはいえ、今日はなんだか気まずい。


「まあでも――」


 過剰に反応しすぎなような気もしてきた。

 彼女はまだ中学生だ。普通に考えて、好意的だということを伝えたかっただけだろう。


 母親に甘えるように、マネージャーに甘えたくなった、ただそれだけのことだ。


 俺の考えすぎかもしれない。


「おはようございます! 式さん、今日も恰好いいですね! 昨日の返事は考えてくれましたか? 私と、お付き合いしませんか?」


 開口一番、風花はそんな俺の気持ちをわかっているのか、はっきりと意思を伝えてきた。

 まごうことなき告白である。


「お、おはよう、え、えーと、シートベルトをお願いします!」


「はい、シートベルト装着しました! それで、どうなんですか? こういう返事って、どのくらい待てばいいんですか?」


 可愛く首を傾げながらも、あどけない表情で俺の顔を覗き込む。

 誤解を恐れず、いや恐れないといけないが、風花はありえないほど可愛い。

 

 いくら年齢差があっても、ここまでハッキリ好意を示されると俺だってドキドキする。

 だが、ハッキリと言わねばならない。


「ええと……その、ちょっともう一度だけ聞きたいんだけど」

「はい!」

「悪気はないからね、誤解がないようにしたくて」

「はい!」

「好きって、色んな種類があると思うんだ。母親とか、友達とか、風花は美鈴ちゃんが好きだよね。だから、それと同じってことかな?」

「違います、異性として男性として好きです!」


 屈託のない笑み。ファンミーティングを終えてからの彼女は、なんだか無敵感がある。


「……もしかして、迷惑ですか?」


 それから風花は悲し気に俯いた。今にも泣き出しそうな顔だ。

 いや、目を擦っている。目に涙が浮かんでいる――。


「あ、いや、そうじゃなって……でも、嬉しいよ。そう言われたのは」


 色々と複雑な気持ちはある。小松原さんに言われた事を考えているからだ。

 とはいえ、嬉しくないわけがない。


「えへへ、だったら両想いですかね?」

「え? あれ? ……涙は?」

「行きますよ、式さん! 今日はインタビュー撮影です!」

「は、はい」


 まさかの演技。

 今日はなんだか振り回されそうな気がする。



 けど……最後にはハッキリ伝えよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ