王女と緑色の液体
その緑色の液体は、コップになみなみと注がれ、奇妙に世界を反射させていた。それは透明感のある、美しい緑に世界を染め、水面がゆらゆらすると、世界もゆらゆらと涼しそうに揺れていた。
王女はそのコップを一目見るなり目を輝かせ、その顔は微笑で彩られた。すっと上ってきた血が透き通った頬に赤味をさした。
「これがいいわ」と王女が言った。
こうして、その透き通った緑色の液体が入ったコップは、王女の部屋に飾られることとなった。
それからというもの、王女は寝ても覚めても、その緑色の液体が入ったコップをのぞきこみ、にこにこと笑顔を浮かべていた。
王女付きの侍女は、かわいい王女様の楽しげな微笑を確認し、ほっと安心した。王女は、兄が魔物に襲われグズグズに融けてしまったという恐ろしい事件以来、人前で笑顔を見せることなどほとんどなかったからだ。
ある日、侍女が、どうしてそんなにこのコップを気に入っているのか、と王女に尋ねた。王女があまりにもそのコップに夢中になっていたからだ。
王女は質問した侍女の方をちらりと見ることもせず、コップの中でゆらゆらと揺れている美しい緑にじっと視線を注いだまま、ぴくりとも動かなかった。
王女はしばらくの間そうしていたのだが、ようやくその紅潮した顔を上げると、にっこりとして言った。
「だって、この緑色にゆれる世界を見ていると、だんだん心が溶けていって、私の身体もそのままスライムになっちゃいそうな気がするんですもの」