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あれからリンは良き協力者として、簡単な医療魔法の実験体になってもらいつつ、狩りや訓練で身体を鍛えている。
人を殺すかもしれないと言ったが平気だそうだ、この世界では病気とかで簡単に死ぬから、少し死生観がズレているのかもしれない。リンが特別なだけかもしれないが。
商人の護衛として村に来る冒険者は、村について商売をしている間は暇そうにしている。その間に僕たちと戦闘訓練を積んでもらうようにお願いした。
そしてどうやら魔物の耳など指定された部位を討伐証明として、冒険者ギルドが買い取ってくれるシステムがあるそうだ。
お金は国から出ている。なるほどそうやって経済が回っているわけか。
ジェイも狩りで回収していて、前々から商人と取引をして討伐証明を渡して換金して貰っていたらしい。
ジェイとの取り分けは半々だが着実にお金は懐に入るようになってきた。商人も仲介手数料が増えて喜んでいる。
――知識や強さを追い求め続け、十歳になった。
僕も当然成長したが、リンの成長には目を見張るものがある。
買った時はあんなに小さかったリンも僕と肩を並べられるくらい大きくなった。容姿も整って見える、赤目じゃなかったり前世だったらモテてただろうな。
魔法はまだまだ僕の方が使いこなせるが、魔法を縛ったらリンには勝てないだろう。
子供の成長力は恐ろしいな。ジェイが相手ならばどちらか欠けていても勝てるだろう。冒険者には二人がかりでないと叶わないが、逆に言えば二人がかりならば勝てる可能性が出てきたのだ。
そしてリンの素質もわかった。索敵系だ。
周りにいる人や魔物の位置が掴めるのだ。範囲は半径五十メートルほどだろうか、かなり広い。
最初から無意識的にはあったのだが、他の人にもあると思っていたらしい。本を読んで初めて自覚したようだ。
当然、リンには誰にも言わないよう命じてある。
戦闘系では無いのが惜しいが、暗殺対策、隠密行動の際に役立つと考えればいいだろう。どんな素質だろうと上手く活かしてやればいいのだ。
十歳になると、子供は畑仕事など村の一員として働かなくてはならない。そんなことをするのはご勘弁願いたい。
他の親たちは我が子を忌み子と一緒に働かせたくないと思っているはずだ。狩人になると言えば、人手は減るが渋々了承してくれるだろう。
正直、狩人としてのジェイは知識も全部頂いたので用済みなのだが、時々母さんがジェイに僕の様子を聞いている節がある。ジェイには、僕がちゃんといい子にしていることを母さんに伝えてもらおう。
ジェイの推薦もあって、無事に狩人になれた。
リンは狩人として認められてはいないが、同行はしていいそうだ。畑仕事に来て欲しくないし、狩りの時にあわよくば死んで欲しい、とでも思っていそうだ。
さて、ようやく土台が整ってきた。
本を読んでこの世界の常識、知識についても分かってきた。
魔法についても勉強し、狩りや運動で身体を鍛えることでそこらの大人には負けない強さを手に入れた。
商人に魔物の討伐証明を売ることで金も手に入るようになった。
そろそろ本格的に人間や動物、魔物を使って実験を始めたいが、まだ足りないものがある。
場所だ。
村の中でやる訳には行かない。では森は? 洞穴や狭い洞窟はあったが、外から簡単に見えてしまう。下手に隠そうとしてもジェイが気づくだろう。
ジェイを殺すか? いや、森に行く人は僕、リン、ジェイの三人しかいない。ジェイが居なくなれば真っ先に僕らが疑われるだろう。都市やその周辺、通り道にも良さそうな所は無かった。あっても誰かが気づくリスクがある。
ここは更に行動範囲を広げるしかない。森をより深い所まで行くのだ。リンの索敵を使えばリスクは抑えられる。
ジェイは自力で行くのは難しいだろうし、新種の動物や魔物と出会えるかもしれない。地形は不明だが、最悪魔法で良い地形を作ってしまえばいい。
当然ジェイの存在は厄介だが、殺すのと説得したり隠し通すのとでは、難易度が全然違う。
説得か隠密か、答えが出なかったらリンと相談してみようかな。どっちにするか決まったら即行動に移そう。