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 ある日リンに時間がある時に、二人きりで大事が話がしたいと頼まれた。


 なんだ? あれから狩りにも参加させて二人で順調に腕を磨いている。よく一緒に行動しているので、彼女の考え方もある程度は理解しているつもりだ。というか手駒にする訳だから理解しなくちゃいけない。


 だが心当たりがない。

 彼女は村人には避けられていたが、今更それを気にするような人ではないはず。奴隷にする魔法を調べる為に首輪を弄っていたが嫌だったのか? 軽い不満があれば文句を言っていいと伝えていたはずだ。


 無いとは願いたいが、優しくされて勘違いし、奴隷から解放しろだなんて言い出したら……

 命令で身動き一つ取れないようにし、暴力で心を屈服させるしかない。今更手放すのも惜しいのだ。




 その日の夕暮れ、狩りの終わりにジェイにお願いして、村と森の境目辺りで二人きりにしてもらった。

 ここならば誰も近づいて来ないだろうし、仮に来ても直ぐに分かる。


 乾いた土の上で、夜に備えて火を焚く。

 リンとは向き合うような形で座り、首輪の魔法で攻撃は出来ないはずだが、念の為少し距離を取っておく。


「さて、話とは何だろうか」


 真剣な表情でリンの一挙一動を見逃さないように見つめる。


「前は言えなかった、過去のことについて話そうと思います―――」








 あれからリンは過去にあった出来事…忌み子の奴隷となった一部始終を話してくれた。何を言い出すかと警戒していたが、杞憂に終わった。

 そんなリンは今、目の前でスヤスヤと安らかな顔で眠っている。寝顔を見ながら先程のリンの話を脳内で再生する。




 どうやら昔は、忌み子ではなかったらしい。

 この国――パーチェ王国ではない隣国に住んでおり、僕と同じような村での生活をしていた。両親にも愛されており、どこにでもいるような村娘だった。

 だがパーチェ王国とは違い、圧政…高額な税金を徴収されており、貧しい暮らしを強いられていた。


 ある日、圧政に耐えきれなくなり、村の皆でパーチェ王国に亡命する事にした。

 しかし魔物の間引きを冒険者に任せていたせいで、魔物に対する見積もりが甘かったのか、村人が数十人で団結すれば深い森も抜けれると思ったらしい。当然魔物の習性も知らない素人が集まっただけの烏合の衆、勇敢に立ち向かった力ある者は次々と殺され、徐々に生存者は減って行き、飢えて行った。


 そして不幸にも、深い森を夜の中細々と歩いていた所、ヴァンパイアに遭遇してしまった。




 ―――ヴァンパイア


 ヴァンパイアとは知性のある特殊な魔物だ。鋭い牙や爪が武器で、眷属を生み出したりなんかもできる。

 日光には弱く、日中では満足に動くことも叶わない。

 だが暗いところや夜になると一転して非常に強力になってしまう。


 村人は一斉にバラバラに逃げ惑う、憔悴した精神状態で強力な魔物が現れたら冷静になど居られるはずがない。

 リン達もヴァンパイアに襲われ、目の前で母親が殺されたのだとか。


 精神的ショックが大きかったのか、リンの記憶はそこで途切れている。



 

 ここまではまぁ悲劇的な少女の物語で済ませられるだろう、だが問題は意識を取り戻した後だ。


 森の中で気絶している所をパーチェ王国の冒険者に拾われ、冒険者を管理する施設――冒険者ギルドに預けられる。


 目覚めると、心配そうにこちらを見ていた人が、明らかに引いた顔をする。自分の目が赤くなっていたのだ。


 両親の消息も掴めない力のない忌み子、すぐに奴隷行きにされ、多くの人から無視され、悪意をぶつけられるようになった。僕に買い取られるまでずっと。

 どうして忌み子になったのかも分からず。



 うーむ……彼女が錯乱状態に陥っていた可能性もある、この記憶が正しいのかは何とも言えないが……

 そもそもなんで目の前で親が殺されたのにお前は生きているんだって話だ。夜が明けそうになってヴァンパイアが撤退した?


 だがもし仮に記憶がある程度正しければ、赤い目なのは生まれつきなだけでなく、なにか条件を満たせば後天的にもなるということか?


 これに関しては確証がないから考えすぎるのも良くないだろう。

 それより重要なのは、彼女にとって一番重要であろうエピソードを、自分に語ってくれたことだ。最初は話してくれなかったことを考えると、心を開いてくれたと捉えてもいい。


 何故話そうと思ったのか聞いてみたが、どうやら僕に隠し事をする等で不信感を抱かれ、捨てられることを恐れたらしい。時々警戒されているのを察していたのかな。

 リンはしっかり勉強してこなかったので知識が足りないだけで、馬鹿ではない。

 彼女なりに考えて居たのだろう。

 その結果が、僕に見捨てられないように過去の事も打ち明けて、僕の言うことならどんな事でも従うか……


 想像以上だ。人間はより強い幸せを感じれば感じるほど、不幸も心に強く響くようにになる。

 生まれた時から忌み子だったのではなく、普通の子として幸せに生活していた記憶があるからこそ、ここまで懐いてくれたのかもしれない。

 いや、ここまで来ると最早依存だ。


 今のリンは理想の手駒だ。忌み子なので他の人に関わることも滅多にないだろう。優しくされたり、説得したりして、依存状態を崩そうとする人が居たら容赦はしないぞ。


 後々他の奴隷を買うつもりではあるから首輪の研究は続けるが、何事にも協力的になってくれるとみて問題ないだろう。


 明日リンが起きたら、不老不死を目指していることを教えようか。いい助手になってくれるさ。


 不老不死にほんの僅かだが、一歩近づけたような手応えがある。


 あぁ、これからが楽しみだ。

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