表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/106

5

 あれから大変だった。


 商人は困ったような顔をして、本当にいいのかと何度も聞かれ、親に相談しようなんて言い出した。許可しないに決まってる。

 理由も正直に言えるわけがない、人体実験をしたいからです、なんて言った日には村から追放されるかもしれない。

 かと言って良い言い訳も思いつかない。話し相手や労働力が欲しいならば、普通の奴隷を買えば良いだけの話だ。


 最終的には好奇心をアピールし続けて、商人が熱意に負けたのか、売り払いたかったのか、折れてくれた。


 当の忌み子にはこのやり取りが聞こえてるはずだが、全く反応しない。いや、少し震えているか?

 その様子を横目で見ながら商人と契約を結んで、僕が主人として、首輪の魔法を発動してくれた。

 人を傷つけたり、命を奪うような命令は制限されているが、それ以外は言うことを聞いてくれる。

 なるべく心を開いて自分から動いて欲しいが、無理だったら命令して無理やり動かせれば大丈夫だろう。


 全身傷だらけの赤目の忌み子を家に連れて帰ると、案の定母さんに物凄い顔で詰め寄られた。


「マークス! これは何!」


 相談せず勝手に奴隷を買ったこと……それも忌み子を。

 数時間に渡って説教された、聞き流したが。


 だが結局買ってしまい、契約も結んでしまった。僕も買ったからには大切にしたい。

 母さんは思わず頭を抱え込む。


 食料は狩りである程度賄えるし、小さいから同じベッドで眠れるだろう。家に迷惑をかけない、忌み子がなるべく死なないようにする、次はないからね……母さんに様々な制約を付けられたが、恐らく問題は無いはずだ。



――――――――――――――――――――



 さて、一悶着あったが無事奴隷を手に入れることが出来た。

 だが、髪もバサバサで全身傷だらけな人と同じ空間にいるのは流石に辛い、今こそ魔法の勉強の成果を出す時だろう。


 ふむ、問題なく発動出来たな。医療魔法を使えば、みるみるうちに傷が治ってしまった。

 水魔法で水をかけてやれば清潔感が戻ってくる。どうやら女の子だったようだ。


「色々魔法を使ってみたけど大丈夫? えーと……名前はなんて言うのかな?」


 忌み子は僕よりも少し小さい、屈んで顔の高さが同じになるようにして話しかける。

 僕は他の人とは違って、優しく接してくれる存在だと思ってもらわねば、心を開いてはくれないだろう。

 前世でそんなメンタルケアのような経験をしたことは無いので、あくまで想像の範疇だが。


 実験する際にはどこが痛いのか、違和感はあるのか等の情報を集める際には、被検体当人に報告してもらうのが一番楽なのだ。コミュニケーションは重要である。


 だが反応がない。


「大丈夫かい? 名前はなんて言うの? 言えないなら勝手に付けちゃうよ?」


 今度は肩を揺さぶりながら話しかけてみる。

 すると、ずっと俯いて無反応だった忌み子が恐る恐る顔をあげ、赤い瞳がこちらを見つめる。


 このドロドロとした赤い濁り、本当にモンスターみたいだな……

 勿論口には出さないが、そう感じさせるほどの何かを目から感じる。


「ぁ…」


 忌み子は微かに声をあげて自分自身の体を見る、綺麗になっているはずだ。

 見守っていると、嬉しかったのだろうか。忌み子が泣き出した。

 優しく頭を撫でてやる。


「ありがとう……ぐすっ…ございます……」


 掠れた小さな声だがなんとか僕には聞き取れた。まだ完全に心を開いた訳では無いが効果は大きかったのだろう。良かった、コミュニケーションはちゃんと取れる。これからも一緒に行動すれば、上手くいくはずだ。




 あれから一緒に本を読んで勉強したり、剣の素振りをしたりしている。徐々に僕に対しては、普通に話せるようになってきている。良い傾向だ。


 忌み子だからなのかは分からないが非常に身体能力が高い。魔法も使えるし、将来僕より強くなるかもしれない。

 何かの恩を感じているのか、言うこともちゃんと聞いてくれる。ジェイと狩りに行っている間も、律儀に一人で運動している。村人から冷ややかな視線がぶつけられるのによく頑張るなあ。


 忌み子によく見られるという獰猛さが心配で、首輪の魔法についても調べているが、今のところ逆らおうという気概は感じられないし、獰猛さも見られない。


 ちなみに彼女の名前を聞いたが、どうやら過去の事は思い出したくないらしい……気になるが深く詮索するのもあれなので、シンプルに凛々しいからリンと名付けた。


 今のところリンには二つの使い道がある。


 一つ目は医療魔法や薬の、協力的な実験台になってもらい、データを集める事だ。奴隷らしい使い道だ。

 二つ目はこのまま鍛えつつ、懐柔して、強力な手駒にすることだ。命令に制限はあるが抜け道を探したり、首輪の魔法を解明して解除したり……護衛には出来るから無理にする必要も無いが。


 買った時はどっちにするか迷っていたが、今隣で健気に剣を振るう彼女を見ていると後者の方が向いているように思う。


 どっちもやればいいじゃないかって?

 それも考えたが恐らく、傷つけて医療魔法を掛けまくったり、効果がハッキリしない薬を飲ませていたら身体には悪影響を及ぼすだろう。筋肉が上手く付いてくれなかったり、どっちつかずになるのが一番避けたい。


 忌み子を買ったことで僕も村ではより孤立するようになった。

 ジェイはまた変なことしてるのか、と受け入れてくれたが、母さんとの関係は少し悪く――あまり話さないようになった。


 リンはその事を気にしているようだが、この村にはジェイと両親の存在以外には魅力的なものはない。正直他がどうなろうとどうでもいい。


 村人が忌み嫌うことでリンが孤立すると、より僕に縋るはずだ。今の状況を利用させて貰おう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ