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―――パーチェ王国
大陸一の大国で交易の中心地でもある、資源豊かな素晴らしい国。
だが前世ではそんな国聞いたことがない。
そこが今僕が住んでいる国の名前だ。
そんなパーチェ王国の中にある、いくつかの都市の一つ、そこにある図書館で、今本を読んでいる。
「物理や科学が全然進歩してないな……」
あれから毎週、図書館に通って世の中の様々なことを学んでいる訳だが、魔法が便利すぎるのか、物理や科学が疎かになっているように思える。文明のレベルが低い。
科学分野の研究者は、居るには居るが、めぼしい成果もなく、立場は狭いらしい。
傷薬も医療魔法があれば不要だし、風邪薬や強壮剤は本当に効果があるのか? とあまり信用されていないらしい。
魔法が便利すぎるから仕方の無いことなのか?
魔法を使いすぎると酔って魔法が発動出来なくなるらしく、便利とは言い切れない気もする。
身を守る防護魔法なんかもあるらしい、それは是非とも覚えておきたい。
ただ魔物に対抗する為に、鉄のような鉱石はしっかり採掘されており、剣や槍などの武器は作られている。
戦闘面での文明はまあまあ進んでいる。
銃は流石にないが。
―――魔物
この世界には魔物というものがいる。
中には肉食の魔物もおり、人間を襲って食べることから人類の敵として認定されている。
冒険者に護送されている時に、何回か魔物と戦っている様子を見た。見た目は動物のようだったが、目が赤く、好戦的だった。
冒険者はそれに対し、剣や魔法で連携して対処しており、何となくこの世界での戦闘の常識を知れた気がする。
魔法は便利で強力だが、連発するのは難しい。剣士が前で抑えて、魔法使いが後ろから魔法を放つのが定石らしい。
そして、より森の深い所へ行くとより強力な魔物が現れるらしい。
冒険者は強力な魔物を討伐したり、魔物が溢れて森から出てくることがないように間引くのが仕事のようだ。
にしても今までに見た魔物はどれも目が赤かった、目で動物と魔物を見分けてるのだろうか……
冒険者には聞きたい事が沢山ある。ちゃんとお礼をして、良い関係を築こう。向こうもとても優しい子供だと気に入ってくれている。
不老不死の為に実験や試したい事が沢山ある。しかしそれには金、力、そして人との繋がりも大切だ。なるべく表向きは善人を演じなければ。
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「マークス、元気だったか?」
「はい、元気ですよ、父さん」
そして父さん――名前はラースという――が見当たらなかったが、いつの間にか帰ってきていた。
どうやら仕事場が遠くて、住み込みで働いているらしい。月の節目に長い休みを取ってこうして帰ってくるのだ。
仕事内容はどうやら息子相手でも教えられないものらしい。気になるが詮索はよしとこう。
父さんには鍛え上げられた肉体美が備わっており、歴戦の戦士を彷彿とさせる。強そうだ。
多分戦闘面の仕事をしてはいるはず。
あの肉体は魔法なのだろうか……母さんにさりげなく聞いてみたが、自力で訓練して鍛えたらしい。
……知識や魔法だけじゃなく、後々体も鍛えないとな。
幸いにも比較的裕福で、両親の間に軋轢もない。
家庭環境はかなり良いので、良い子にしていればわがままも聞いてくれるはずだ。
非常に利用価値がある。
だが、体がちゃんと育っているような歳ではない。
今無理に鍛えても逆に悪化するのが目に見える。
元気に走れるような状態になるまでは、運動は程々にしておこう。本や魔法に集中だ。
―――八歳になった。
この世界についてもかなり詳しくなり、体も大きくなった。心做しか、頭の回転も早くなったように思える。
今では様々や分野の魔法が使えるようになった。
中でも身を守る防護魔法、怪我を治す医療魔法、魔物から逃げる為の俊敏魔法については、詳しく調べて理解を深めた。
母さんや周りの人には子供なのに遊ばず、本ばかり読んでいるので奇妙な目で見られてるが……悪いことはしていないので問題無いはずだ。
いきなり捨てられるなんてことにはならない。
そして不老不死への手がかりも探していた訳だが、どうやらこの世界では、一人一つ何かしらの能力――「素質」を持っているらしい。
その素質を調べる方法は無く、自力で他者との違いから見つけなければならない。
また、出やすいものもあれば珍しいものもある。
素質は本当に一人一つだけなのか?生まれつきその素質はあるのか?当人の抱いた強い感情に関連する素質なのか? ――と謎も多く、研究者が日々研究を行っているらしい。
ちなみに呼称も付けてくれている。
そして重要なのは、その素質には相性、強弱があり、将来の仕事にも影響するのだ。
本に載せてあった例を幾つか挙げてみよう。
『剣術適正』
名前の通り剣の腕が優れており、剣への負担が軽い斬り方などが分かるようになるという。
しかし当人が剣を持たなかったり、魔術を極めていると意味が無いのだ。
『強壮』
体が強く、丈夫である。病を患いにくく、軽く斬られても怪我を負わず、痛みも感じにくい。
『超強壮』
強壮の上位互換である。
強壮の効果に加えて、自然治癒が速く、毒も効かない。
戦闘には向いてないものの、死んではならないような立場の偉い人……王族なんかにとっては優秀らしい。
『鑑定』
生物や物を意識することによって、意識した対象がなんなのか分かるようになる。
商人にとっては偽物を騙し取られないように出来るので、非常に強力らしい。
素質には無限の可能性があるらしく、不老不死に纏わる素質もあるかもしれない。
なるべく早めに自分の素質も見つけないとな。
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「母さん、ジェイさんに狩りを教わりたいです」
体も成長して、ある程度動かせるようになった。
次は、体を鍛えつつ戦えるようになりたい。魔法を習得しても上手く実践で使えなければ意味が無い。
そしてこの村には、村の周りを探索して近くに動物が居たら捕獲して食料にし、魔物が居たら殺して間引く――狩人がこの村には居るのだ。
狩人がおらず冒険者に依頼する場合も多いが、ジェイの家庭は代々動物や魔物を狩っていたらしい。土地勘にも優れていて、森での狩りでは冒険者に引けを取らない腕だそうだ。
子供の外見ならば相手も油断してくれるし、優しく接してくれることが多い。またこの村では、十歳を超えた子供は畑仕事を手伝うというルールがある。
煩わしい仕事が入る前にやれる事をやっておかねば。狩りが上手くなれば、畑仕事もやらなくて済むかもしれない。狩りの方が余程有意義だ。
「マークス、今度は狩り?」
明らかに考え込むような顔をする。どうしてだ。
本を読みたいと頼んだ時は、優しく微笑んで許可してくれたのに。人に迷惑をかけると思われているのだろうか、子供の好奇心ということで見逃してくれないだろうか。
「……もっと皆と自由に遊んでもいいのよ?」
ああ、そうか。自分以外の子供はみんな昼は元気に遊び回っている。本ばかり読んでて孤立している自分を心配しているのか。
でもそんなことに時間を費やす訳にはいかないんだ。
確かに子供達と遊んでも体力は付くだろう。だが子供に対して魔法が使える訳がない。魔物との戦闘経験も積みたいし、あわよくば魔物の研究なんかもしたい。
ジェイと共に行動し村から離れすぎなければ、まず死ぬとはないはずだ。
「僕は冒険者のように、母さんを自力で守れるようになりたいんです」
こう言えば母さんも、冒険者の戦闘に憧れている男の子として捉えてくれるだろう。増してや、自分の為と言われたら強く否定は出来ないはず。
だが、母さんは未だに考え込んでいる。
…………。
「いいでしょう、ジェイさんにお願いしてみます。
ただし、怪我を負うような無理はしないこと、ジェイさんに迷惑をかけないこと、この二つを必ず守りなさい」
……母さんにここまで強い言葉で迫られるのは初めてだ。やはり狩りは危険があるのだろう。
だがここで引く訳にはいかない。自分の身も守れなければ、不老不死になる前に、簡単に死んでしまう。
「分かりました、ジェイさんの言うことをちゃんと聞きます、お願いします」