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最初の数話は説明多めです。

 ……僕は今、異世界にいる。


 森に囲まれた村、村の中には木や石で出来た家が十数軒ある、その中でも一、二を争うくらい大きな一軒家。

 その中の一室で本を読んで、ようやく確信する。




「……分からないことが多すぎる」


 声変わりのしていない子供のような高い声で呟く僕。

 頭を小さな手で抱える。


 僕はマークス、3歳。

 過去に死んだが、恐らく生まれ変わった。輪廻転生というやつだろうか。

 前世の記憶もほとんどない。

 いや、前居た世界の文明は覚えているのだ。

 パソコンや車、宇宙に人が行くなんて事も知っている。

 だが人間関係の記憶が何もない。両親や友達、居たのは分かるのに、どんな人だったか、どんな顔だったか、全く思い出せない。


 自分自身のことについても曖昧だ。唯一確かなのは、高校生辺りで記憶が途切れていること。恐らくそこで死んだのだろう。



 ―――だがしかし、ナニカに呑まれる記憶だけは鮮明に残っていた。


 あの地獄を思い出して思わず体が震えてしまう。

 あんな思いはもう二度と御免だ。

 もう二度と。


「マークス?大丈夫?」


 後ろから声をかけられる。

 柔らかい手で背中をさすられる。


 思わず振り返ると、そこには心配そうな目でこちらを見つめる女性が居た。

 

 この人はマーシャ、自分の母親だ。


 ……正直前世の記憶もあって母親という実感は薄い。

 どこか他人のように感じる一面が自分にはある。

 まぁそのうち慣れるだろう……


「大丈夫ですよ、母さん」


「何かあったら直ぐに言うのよ、病気って言うのはすごく怖いのよ」


 母さんは体が弱いらしく、病気や怪我にとても気を使っている。


 母さんが熱心に教えてくれた甲斐があって、最近ようやくこの世界の言語を理解することができるようになった。

 体は三歳児なのであまり動かせないのはいいんだが、前世の記憶のせいでどうしても喋り方は大人っぽくなってしまう。


 母親は最初は訝しんでたが難しい本も読んでいたので、その影響を受けたのだろうと一人で納得している。




 どうして自分が生まれ変わったのか? 何故前世の記憶があるのか? 興味は尽きないが、どれも分かっていない。


 この世界は四季があり、一年十二ヶ月だ。一日二十四時間である。前世との共通点も確かにある。

 初めは同じ世界で生まれ変わったのだと思った。

 だが、言語も見たことのないものだったし、母親がよく読んでいた御伽噺には、魔法や魔物何てものがあった。

 御伽噺だからまぁ……と思っていたが、難しそうな魔法に関する論文を読んで、知ってしまった。


 この世界は魔法が実在する。

 炎、水、光などを生み出すことが出来、それらの基礎を組み合わせたり弄ることで、熱湯を生み出したり、木を任意の大きさに切ったりと幅広く応用が効くらしい。

 更には道具に魔法を込めることで「魔法具」という任意のタイミングで込めた魔法が放出出来る、なんてものある。

 この世界はファンタジーだ。てことは……



 ―――ここは異世界だ。魔法が存在する。



 どうする、俺。魔法なんてもの全く分からないぞ。

 二度目の生を得たということは、死もいずれは得るのでは?

 あんな地獄をもう一度味わうのか?

 嫌だ! どうして生まれ変わってしまったんだ。

 この世界では女神を信仰しているらしい、呪ってやりたい。


 いや。

 まだ諦めちゃいけない。

 前の世界では不老不死何てものがなかったが、この世界には魔法がある。医療魔法何てものもある。


 あんな地獄を味わうことのない道があるのではないか?

 叶うのではないか? 不老不死が。

 前世の記憶と魔法を上手く組み合わせれば、やれることは多いはずだ。

 思わぬ可能性を見つけて体が震える、歓喜で。


「ふふふ…」


 あんな思いをするくらいなら、何だってやってやる。

 決めたぞ!!! 第二の人生を、不老不死を実現するために使おうじゃないか!!! 






 さて、やりたいことを見つけたとはいえ、この世界について知らなさすぎる、増してや三歳児の体。

 この体の状態で調べたいことは沢山ある。だが恐らく魔法の影響で前の世界とは常識が異なるだろう。


 ……とにかく情報が足りないな。

 情報の重要性は高校生レベルでも流石に分かる。

 何事も情報を集めて、それを基に計画を立てなければ、破綻したり、何をやっているのか分からなくなる。

 下手なことをして死ぬ訳にはいかないのだ。


 まずは情報を集める為にも、沢山本を読みたい。


 ということで図書館に行きたいと親にお願いした。



――――――――――――――――――――



「うっぷ…」


「ちょっと……マークス、吐きそうになったら言うのよ?」


「吐きそうになったらちゃんと止まりますからね、無理はしないでくださいよ」


 吐きそうだ、この馬車、揺れが酷い。

 どうやら住んでいる村は田舎らしく、図書館のあるような都市に行くには、森を抜けなきゃ行けないらしい。

 森を無理やり切り開いて道を敷いてるものだから足場が悪い、子供には酷だ。


 商人が田舎に住む人々に、商品を売って回っているらしく、うちの村にも一週間に一度来るのだ。

 本を読みたがる僕を見て、母さんが商人に都市に連れていってくれるように頼み込んでくれた。


 森には魔物が出るため、馬車の周りでは戦える人――冒険者が護衛をやっているらしい。現状無力な僕にとっては有難いことだ。というか魔物ってなんだ。


 一先ず酔わないように目を閉じて、僕を優しく抱え込む母さんにもたれる。

 なんとか吐き気に耐えていると眠ったと思ったのか、母さんと商人が雑談を始めた。



「本読みたいって言うから連れてきたけど早かったかしら……」


「こんな若さで本を読みたいだなんて、賢いねぇ」


「そうですね……わざわざ私たちを乗せてくださり、ありがとうございます」


「いえいえ、お気になさらず」


「お代はどうします? ある程度のお金は持ってきてるんですが……」


「大丈夫ですよ、これからも商品を買ってくだされば。私としては商品が売れるのが一番嬉しいですからね」


 二人の会話に耳を傾けながら考える。

 不老不死という目標では曖昧だ、図書館での知識で、ある程度の計画を立てなければ……荒唐無稽な夢で終わってしまう。

 この世界で不老不死が確立してなかったら、まずは長寿から目指してみようかな。

 悪路に入ったのか馬車がより揺れる。馬車がこんなに揺れるのは物理学が進んでいないからだろうか。

 流石にこの揺れは厳しい。


「母さん……吐きそうです……」


「え!? マークス!?」



――――――――――――――――――――



 何とか都市に着いた、どうやらうちはお金に余裕があるらしく週に一日、図書館に行けるようになった。

 

 そして今、母さんに手を引っ張られながら街道を歩いている。

 やはり都市と言われるだけあって僕らの村とは大違いだ。

 道は広く、きちんと整備されているし、両端には街灯が並んでいる。貴族や商人も住んでいるのか、金属で装飾された豪邸も点在している。

 ここら辺を治める領主がきっと優秀なのだろう、店も繁盛しており、街道を歩く人々の顔も明るい。


 図書館には国の歴史や魔法など様々な分野の本が沢山あった。

 本を貸し出したりは出来ないらしいので、一日ここで読みまくるしかないそうだ。

 将来自由に動くためにも、知識も蓄えつつ、身を守るだけの力を身につけなければ。


 力が無いせいで親に頼りきりなのは余りにも不安すぎる。

 まずは自分自身に必要な最低限の知識や力を身につけよう。

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