ギャルゲの幼馴染にはフラれたのに、リアルの幼馴染は俺に告白してきた
すみません、誤字や脱字が多く何度か編集しております。
一組の男女が夜の公園でブランコを漕いでいた。
住宅地から離れている公園には、街の明かりもはいってこない。
雲一つない空には真ん丸な月と無数の星達が輝いている。
男と女は幼馴染同士。この公園で二人は出会った。
二人きりの公園で思い出話に花を咲かせていた時、女はおもむろにブランコから立ち上がる。
そして、何かを決意したかのように女は男をじっと見つめた。
『シュウくん、あのね……』
月明かりに照らされた彼女の顔は赤く染まっていた。
彼女の決意を表すかのように拳はギュッと握りしめられている。
間違いない、これは……。
告白イベントだ!
今を俺がプレイしているのは『School Memories ~初恋の思い出~』というギャルゲーだ。
なんとも痛々しいタイトルだが、有名絵師がキャラクターを描いているため絵のクオリティが非常に高い。
パッケージもその有名絵師が担当しており、中央にはメインヒロインである幼馴染がでかでかと描かれている。
思えばこのゲームの幼馴染の攻略には長い時間を費やした。
幾重に及ぶ選択肢の中から正解を選ばなければならず、間違えれば即バッドエンド行き。
時にはどの選択肢を選んでも、バッドエンドになることさえあった。
攻略サイトを見ると、バッドエンド回避するには他ヒロインのエンディングを全て見る必要があることがわかった。
このゲームのメインヒロインである幼馴染を簡単に攻略できては面白くないと、製作者側の意図らしい。正直迷惑この上ない。
登場するヒロインは幼馴染を除けば4人。1人当たりの攻略するのに平均して8時間がかかる。
俺は計32時間もの時間をかけ、幼馴染以外のヒロインを攻略し、とうとう告白イベントまでたどり着いた。
長かった……。
本当に長かった……。
さあ、どんな告白してくれるのかな?
『私、カズキくんと付き合うことになったんだ』
……は?
いやおかしいだろ!
だいたいお前、他ヒロインのエンディングで『私、シュウくんのことずっと好きだったんだよ!』とか言ってたやんけ!
なんでさっきまで幼い頃の思い出話してたのにそんな話になるんだよ!
しかもあれだ、この公園って主人公と初めて出会った思い出の場所じゃねーか!
そんな場所で他の男と付き合うとか言うんじゃねーよ!
一体何でこんなことに……。
攻略サイトを見てプレイしていたので、選択肢に誤りはない。
直近で出た選択肢を選んでから、既に1時間分以上ストーリーは進んでいる。
もし選択肢が誤っているのなら、バッドエンドに直行してすぐにゲームオーバーのはず……。
つまり、モニタの向こう側で発生しているこの異常事態はバッドエンドではなく、正規のルートということになる。
衝撃的なあまり、手はまるで机に固定されたかのように動かせない。
そのままゲームを進めることが出来ずにいると、急に場面が切り替わった。
そしてついさっきまで影も形なかったはずの件のカズキが画面に現れる。
『悪いシュウ、俺もお前と同じで彼女のことか好きだったんだ。お前がまだ彼女に告白してないって聞いたから、先に告白させてもらった』
何言ってんだこいつ。
ストーリー序盤で『気づいてたんだろ? 彼女の気持ち』とかドヤ顔で言ってきたくせに。
ヒロイン達には興味ありませーんみたいな感じで親友キャラやってたよな?
何ちゃっかり幼馴染を攻略しちゃってくれてんの?
……許さん。
絶対に許さない。絶対だ。
主人公を昔から好きだと言っていたくせに、他の男と平気で付き合う幼馴染。
そして主人公がその幼馴染のことが好きだと知っていたにも関わらず、横から掠めとるように幼馴染と付き合う親友キャラ。
そんな不心得者達には天誅を下さねばならない!
俺はゲーム機からディスクを取り出し、電源を落とした。
両手でディスクを鷲掴みにし、フゥーと大きく息を吐く。
そして俺はディスクに力を込めた。ディスクは平らなため、俺の力に反発してくる。
ふふ……意外とねばるな。だが抵抗は無意味だ。
俺がさらに両手に力を込めると、ディスクはくの字に折れ曲がり、ミシミシと悲鳴をあげる。
パリーン!
ディスクは大きな音をたて二つに割れ、破片が部屋中に散らばった。
あ、片付けどうしよう……。
怒りに任せディスクを割ってしまったが、その後のことを全く考えていなかった。
ゲームのディスクはプラスチックごみでいいんだろうか?
散らばった破片は掃除機で吸うと分別が面倒だし、箒かなにかで集めた方がいいだろう。
うちに室内用の箒なんてあったかなあ……。
――ガチャ!
そんなこと考えていると、いきなり部屋のドアが開け放たれた。
「あんた、なにやってんの……?」
ドアを開けた張本人はノックをしなかったことに悪びれる様子はない。
それどころか許可なく人の部屋にスタスタと入ってくる。
「勝手に入るな。この不法侵入者め!」
知ってるか? 同意もなしに部屋に入るのっては、プライバシーの侵害になるんだぜ?
あと、ディスクの破片が散らばってるからスリッパ履いてないと危ないぞ?
「別にいいじゃない。あんたと私の仲なんだし。それに、おばさんから家に入れてもらってるから不法侵入じゃないわ」
悲しいことにこいつと俺は世間的に幼馴染という関係になる。
こいつの名前は柏木理亜。
ハーフみたいな名前をしているが、純血の日本人だ。
俺としてはむしろハーフの方が良かった。
だってハーフの幼馴染ってなんか萌えるじゃん?
理亜は所謂黒ギャルと呼ばれる女子だ。
髪は真っ金々で、肌はチョコレートみたいな色をしている。
手にはまるで必殺技を放てるかのような派手なつけ爪に、耳には耳たぶが落ちるんじゃないかと思うほど大きなピアスがぶら下がっている。
スカートは中を誰かに見せたくてしょうがないのか、丈は短く膝よりちょっと上くらいまでしかない。
ちなみに中はスパッツなので、俺が望んでいるものではない。残念。
というかよくその格好で学校とかいけるな。
未だに退学とかになっていないので校則違反ではないんだろうが。
俺と理亜とは幼稚園の頃からの付き合いだ。
中学まで同じ学校だったが、高校は別のところに通っている。
昔から理亜はこうして暇があれば俺の部屋にやってくる。
俺が学校から帰ってきて部屋に入ると、既に理亜がいる時すらあった。
そんなこともあって、俺がギャルゲをしていることも理亜にはバレバレだ。
理亜は中学の時はどちらかと言えば俺と同じ陰キャの部類だった。
その時は当然髪は染めておらず、いつも図書室で静かに本を読んでいるような大人しい子だった。
しかし、理亜が高校に入ってからそれは一変した。
高校に入ってから、一月も経たない内に理亜に初めての彼氏ができた。
彼氏の影響なのか、高校デビューをしたかったのかはわからないが、その時から理亜は派手な格好をするようになった。
理亜は初めての彼氏とは長続きせず、別れた後はすぐに新しく彼氏を作った。
そして新しい彼氏ともすぐ別れ、また新しく彼氏を作った。
理亜はいつも当てつけるかのように彼氏ができる度に俺に自慢してきた。
しかも、彼氏はファッション雑誌の表紙を飾ってもおかしくないレベルのイケメンばかり。
共に日々を過ごした幼馴染が急に別人のようになってしまったことに俺は少なからずショックを受けた。
そのくせ理亜はイケメンの彼氏がいた時も、変わらず俺の部屋に入り浸った。
俺はそんな理亜に嫌気が差し、理想の幼馴染をギャルゲの中に求めるようになった。
ギャルゲの幼馴染はまさに理想の塊だった。
清楚だし、一途だし、何より他の男と付き合ったりしない。
……まあ、さっきは裏切られたけど理亜よりはマシだ。
それにしても母さんめ、またこいつを家にいれるなんて。
俺の部屋に勝手に入ってくるから、家にいれないでってあれほど言っておいたのに……。
「それよりさっきも聞いたと思うけど何してたの?」
「不心得ものどもに天誅を下していたのさ……」
「てんちゅう?」
理亜が怪訝な顔を浮かべる。
しかし、俺の手に握られていた半分に割れたドーナツみたいになったゲームのディスクを見て、合点がいったようだった。
「なるほど……。あんたの手に握ってるものみて大体想像がついたわ。そういうゲームを遊ぶのはともかく、ムカついたからって壊しちゃうのはさすがに周りに引かれるわよ」
「ふふ、既に手遅れだ。目の前にドン引きしてる人間がいるんだからな」
「……」
「つーか、何しにきたんだよ? また暇潰しか?」
「あ、そうだった。ちょっと外に出て話しない?」
ここじゃ駄目なのかとも思ったが、ディスクの破片が散らばってるので落ち着いてを話するのは難しいだろう。
それにしたって話とはなんだろうか。
俺には思い当たる節がない。
そもそもただ話がしたいなら、今までいくらでも機会はあったはずだ。
どうして今なんだろう?
「話って今日じゃないと駄目なのか?」
「うーん、駄目ってわけじゃないけど、今日の方がいいかな? それとも何か用事ある?」
「いや、ないけど」
「なら決まりね。行きましょう」
★★★★★
俺と理亜は近くの公園にやって来ていた。
陽は既に落ちており、街灯だけが煌々と輝いてる。
遊具で遊ぶ子供の姿はなく、公園にいるのは俺と理亜の二人だけ。
夜の公園で幼馴染と二人きり。
……あれ、これってデシャヴ?
いや、そもそも理亜には今彼氏がいるから関係ないか。
俺は自販機で適当に飲み物を買い、ベンチに座る理亜に放り投げた。
「おっととと! ……ありがと」
一瞬手から滑り落ちそうになったが、理亜はすんでのところで見事キャッチした。
わざと炭酸系のジュースを投げてやろうかとも考えたが、流石にかわいそうなので止めておいた。
彼氏に変な誤解されても困るので、俺は少し距離を空けて理亜の隣に座る。
「もっと近くに座ってよ。話しづらいじゃない」
「いや、これ以上近づいたらお前の彼氏に勘違いされるだろ?」
「彼氏なんて……いないわよ!」
理亜は小声でそういうとおもむろにベンチから立ち上がって、座って動かない俺の前まで来る。
「あ、あんたのことがずっと好きだったの! アタシと付き合いなさい!」
いつの間にか理亜の顔は茹でダコみたいに真っ赤になっていた。
勢い余って力が入ったせいなのか、右手に握られていた缶の中身が飛び出している。
せっかく買ってやったのになんてことを……。
……ん? こいつ今何て言った?
俺のことが好き? なんで? 今までそんな素振り見せなかったような……。
「どゆこと……?」
「この鈍感! 陰キャ! ヘタれオタク! なんで気付いてくれないのよ……」
どうも、鈍感陰キャヘタれオタクです。
いやいくら何でも、彼氏できたと言ってきた女子の本当の気持ちに気付くというのは無理だと思うんだが……。
「気付くもなにも、お前散々俺に彼氏を自慢しにきたじゃねーか」
「あれは全員レンタル彼氏よ。本当の彼氏なんて居たことないわ。彼氏ができたって言えば、あんたがアタシのことを気にすると思って」
あー、あれだ。好きな人の気を引くために他の人と付き合うとかいうやつ。
それって逆効果なんじゃないかと俺は思う。
というか、そういうサービスって未成年でも使えるの? 今度やってみようかな? 黒髪で清楚な感じのお姉さんがいいかなぁ。
……いや、今はそんなこと考えるよりももっと肝心なことを聞くべきだ。
理亜が俺のことを好きなった理由を。
「どうして、俺のこと好きになったんだ?」
「あんたとアタシ、高校から別の学校になったでしょ?
あんたと一緒にいる時間が減って、なんだか物足りなさを感じるようになったの。
別に学校がつまらないって訳じゃないのよ?
新しい友達もいっぱいできたし、部活も中学の時と違っていろんなのがあってワクワクした。
でもね、アタシはあんたと一緒にいる時の方が楽しかったの。
それでアタシ気付いたの、あんたのこと好きだったんだって、アタシにとってあんたと一緒にいる時間はかけがえのないものだって……」
理亜の言葉に胸が熱くなる。
理亜が俺との時間を大切に思ってくれていたことに、心は大きく揺さぶられた。
「それで、どうなの? アタシと付き合ってくれるの?」
正直、理亜と付き合うのは悪くない気がする。
俺は理亜以外の女子に接点なんてないし、これからあるのかもわからない。
それに理亜は派手な格好をしているが、顔は結構かわいい。
つぶらな瞳をしていて、鼻は小さい。さらにそこメイクが加わって、唇もぷるりとして輝いている。
ただそうなると、俺と理亜は釣り合いがとれているのか疑問だった。
理亜は彼氏が居たことがないなんていっていたが、作ろうと思えばいくらでも作れたはずだ。
実際、彼女は中学の時は地味だったが、密かに男子に人気があり、告白されていたのを俺は何度か目撃している。
逆に俺は女子に告白されたことなんてない。
容姿はというと、ギャルゲをしている時点で……まあお察しという感じだ。
俺は思わずそんな理亜に自分が相応しい男であるのかを尋ねてしまった。
「俺でいいのか……?」
「いいに決まってるじゃない。駄目だったら最初からこんなこと言わないわ」
「ゲームのキャラに怒って、ディスク割るような男だぞ?」
「そんな馬鹿なことするあんたのことをアタシは好きだって言ってるのよ」
全肯定やん……この子。
うわ、なんか涙が出てきそうだ。
俺にもう懸念はない。そうなると答えは一つだ。
「よろしくお願いします」
★★★★★
理亜を家まで送る途中、俺はあることを思い出した。
「そう言えば、なんで今日告白しようと思ったんだ?」
「やっぱり覚えてないか」
ん、どういうことだ? 今日は理亜の誕生日でも、俺の誕生日でもない。
「今日はね、アタシとあんたが初めてあの公園で出会った日だよ」
そう言って、理亜はこちらに向かって微笑んだ。
ちなみに、高校に入って派手な格好し始めたのも俺の気を引くためだったらしい。
なんだかゲームの幼馴染よりもリアル幼馴染の方が断然いい気がしてきた……。
翌日、俺は破壊した『School Memories ~初恋の思い出~』のネットでの評価を見ていた。
俺と同じような思いをした人がいないか気になったからだ。
予想に反して、阿鼻叫喚の炎上とはなってはおらずネットでの評価は概ね良好だった。
そこで俺は見てしまった。幼馴染ルートのネタバレを。
実は幼馴染とカズキは付き合ってはおらず、曖昧な態度を取っていた主人公の気持ちを確かめるために嘘をついたというものだった。
その後ひと悶着はあるものの主人公と幼馴染はめでたく結ばれるらしい。
俺は早とちりをしてディスクを割ってしまったわけだ。
もうギャルゲプレイするのやめよ。
三作品目になります。
最後まで読んでいただきありがとございました。