私の場合のバレンタインは苦くて甘いのです
今日はバレンタイン。
一ヶ月前から生チョコかガトーショコラか小さなチョコタルトのどれにするか迷って生チョコに決めたよ。
生チョコに必要なチョコレートや生クリームを買ったのが一週間前。
五日前は生チョコの形を考えるの。
ハート型がいいかなぁ?
星型もいいよね?
トリュフにしちゃう?
トリュフも生チョコと同じ作り方だからまたここで迷ってしまう。
それでも私は生チョコに決めたんだから生チョコにするの。
自分用でトリュフを作ろうかなぁ?
三日前には生チョコにつけるココアパウダーや可愛い色がたくさんのチョコスプレーを買って、生チョコを入れる彼が好きな色の青色の箱も買ったよ。
足りないものは生チョコだけ。
一日前の夕方から作り出すの。
まずは決まった量のチョコレートを包丁で細かく切って湯煎で溶かすんだよ。
甘い香りが漂って食べたくなるのを我慢してちゃんと溶けるまでかきまぜるんだ。
そして決まった量の生クリームを入れてチョコレートと生クリームが混ざったら後は型に入れるだけ。
チョコレートはすぐに固まるからチョコレートが溶けたら時間との勝負だよ。
今回はハート型にしたの。
やっぱり彼に気持ちを伝えるんだからハートが一番いいよね?
型に生チョコを入れて残った生チョコを四角のトレーに入れて冷蔵庫で休ませるの。
火照った体を冷やしてね。
なんて思いながら冷蔵庫へ入れるんだ。
生チョコが冷えて固まるまで私は少し休憩。
何をしようかなぁ?
チョコ作りも半分くらい終わったよ。
あと半分は頭を使うからホットチョコレートを飲んで一休み。
口に入れたかったチョコレートがやっと口の中に入るともう幸せでこんな顔を彼には見せられないよ。
それでは一休みも終わり、残りの半分頑張るよ。
彼の為に彼への愛を込めて作るからね。
冷蔵庫から生チョコを出してまた、ここから時間との勝負だよ。
型から出したハートの生チョコは袋の中に入れたココアパウダーへダイブさせます。
そしてキレイにココアパウダーがつくまでフリフリします。
ちょっと苦味のあるココアパウダーがアクセントになるのよ。
チョコスプレーを使おうと思ったけど彼にはこの苦味のあるココアパウダーだけでいいかも。
チョコスプレーはまたいつか使おう。
去年もこんな風に残った気がするよ。
あっ大変。
チョコペンを買うの忘れたよ。
買いに行かなきゃ。
それが一日前が終わる四時間前。
どのお店に行ってもチョコペンはなくて、やっとピンク色のチョコペンを見つけ買ったら急いで帰るの。
これが本当に最後の工程。
ピンクのチョコペンでハートの生チョコに字を書いて青色の箱に入れて出来上がり。
リボンもつけなきゃ。
やっとできた生チョコを冷蔵庫へ入れて明日の為に休ませるよ。
彼に美味しいって言ってもらえるといいね。
なんて思いながら冷蔵庫に入れるの。
今日は疲れたから寝るよ。
お肌の為にも早く寝なきゃね。
告白の日は綺麗な私で告白したいからね。
おやすみなさい。
そしてバレンタイン当日だよ。
今年のバレンタインは学校がお休みだから彼と約束をしてるの。
近くの公園で十時に待ち合わせ。
今から洋服を決めなきゃ。
昨日は早く寝たから決めてないの。
彼の好きな服装って何だったかなぁ?
彼と映画を観に行った時に女優さんの黄色のワンピースを見て可愛いって言ってたことがあったよね?
それなら私は黄色のスカートにするよ。
上は白のニットにするよ。
可愛いって言ってくれるかなぁ?
待ってよ。
約束までの時間が迫ってるよ。
急いで軽くお化粧するよ。
唇は少し赤くなるリップをつけてグロスでプルプルにしちゃおう。
急がなきゃ。
今日は遅刻しちゃダメよ。
大事なチョコは持った?
鏡で笑顔のチェック。
大丈夫。
よし!
行こう。
彼の元へ。
彼に早く会いたくて早歩きになっちゃう。
だから少し約束の時間よりも早く着きそう。
彼はいつも遅刻したりするから私の方が早いかな?
でも今日は違ったの。
彼が私よりも早く来て私を見つけて笑って手を振ってくれているの。
私の鼓動は早くなったよ。
ドキドキが止まらない。
「ごめんね。待った?」
「全然。今日は寒いから俺が遅刻して君を待たせたらいけないと思って早く家を出たけど君はすぐ来たよ」
「あなたが遅刻しないなんて今日、雨が降るかもね」
私は彼の優しさが嬉しくてそれを彼にバレないように変なこと言っちゃった。
こんなこと言いたい訳じゃないのに。
「まあ、天気はあまり良くないから降るかもな」
彼はそう言って空を見上げてた。
そんな彼の横顔を盗み見しちゃった。
格好いいな。
見惚れちゃう。
「それで今日は何?」
彼がいきなり私の方を見るから私は焦りながら彼から目を離す。
見ていたのバレてないよね?
「はい。チョコよ」
私は彼にチョコを渡した。
「今日ってバレンタインだっけ?」
「そうだよ」
「今年も義理だろう?」
「そっそうよ」
言っちゃった。
毎年、私は彼に義理チョコだって言うの。
本当は違うのに。
私のバカ。
今年のバレンタインもダメだったか。
彼にチョコを渡すだけだったからその後すぐにそれぞれの家へ帰った。
彼はチョコを家で食べると言って持って帰ったの。
私の生チョコさん。
あなたは彼に美味しいって言って食べてもらえるよ。
だって私が作ったんだから。
私は泣きそうになりながら家へ帰った。
そして涙を我慢して昨日の私用の生チョコをトレーから出してトリュフを作るの。
私の手のひらの熱で少し柔らかくなって溶ける生チョコを素早く丸くしてココアパウダーへダイブさせるよ。
何個か作ったら自分の部屋へ向かって机の上に置く。
彼とは違う形だけど同じ味の生チョコを口に入れる。
苦いけど後から甘くなる。
すると私の我慢していた涙が流れ出す。
自分が情けない。
たった一言が言えないなんて。
たった一言の思いを伝えられなくて。
『ピンポーン』
いきなりインターホンがなった。
私しかいないので私は出るしかない。
涙を拭いて玄関へ向かう。
ドアを開けると息を切らした彼がいた。
「どっどうしたの?」
「君の部屋に入れて」
「うん」
彼の勢いに私は思わずうんって言っちゃった。
仕方ないから彼を部屋に入れる。
彼は私のベッドを背にカーペットの上に座った。
私は彼の横じゃなくてその上のベッドに座った。
「泣いてた?」
「えっ」
「目が赤いから」
「目に睫毛が入っちゃって」
私はバレバレの嘘をついてしまう。
だって泣いてたなんて言えないから。
「俺に何か言いたいことある?」
「何よ。いきなり」
「言いたいことはない?」
「なっないよ」
「あっそ」
彼は興味ないような風に言った。
興味ないなら聞かないでよ。
「それなら俺が言う」
「えっ」
彼は私を下から見上げて言った。
「俺も好きだ」
「えっ」
「俺も好きだって言ってんだけど?」
「何度も言わなくても分かってるわよ」
「それなら泣く前に言えよな」
「だって涙が先に出ちゃって」
「いいよ。君の気持ちは知ってるから」
「えっ」
「チョコに書いてたから」
「そうだった」
私は最後の工程でチョコペンで好きって書いたの。
今年は私が好きって言えなかったことに保険をかけたの。
良かった。
彼はちゃんと気付いてくれた。
「泣かないでくれる?」
「どうして?」
「キスをしたいから」
彼の言葉に驚いて私の涙は止まる。
すると彼は立ち上がって私の顎を上げキスをした。
私は幸せいっぱいになりました。
これが私の場合のバレンタイン。
読んで頂きありがとうございます。
皆さんはどんなバレンタインを過ごしましたか?
楽しく読んで頂ければ幸いです。