第九話 女の勘
その日から王子様は笑わなくなった。
彼女がどんなに明るく振舞おうと、素っ気ない返事が返ってくるばかり。
次第に二人の会話から笑顔が消えていった。
そして、ついに目的地の金沢港まであと一日ほどの距離になった。
高台に立ち並ぶ住宅街の一軒を選び、二人はそこで夜を明かすことにした。
キッチンを拝借して王子様が作ってくれた夕飯を無言で食べ終え、重たい空気から逃げるように風呂場へと向かう。
湯船に浸かって浴室の白い天井を見上げながら、彼女はあの雨の日の口づけに思いをはせる。
(私のファーストキスか・・・。別に正式に付き合ってるわけじゃないのにしちゃったな。だから今ちょっと微妙な感じになってるんだよなぁ。はぁ・・・)
このままではまずいのは分かっていた。もしかしたら一生、こういう旅を続けることになるかもしれない。
そうなったら、いつかは正常な関係に戻さなければならないのだ。別れるという選択肢もあるが、それは不可能に近い。
誰もいない場所に居続けると、いつかは人間としての理性が保てなくなる自身があった。
だから彼女は、風呂から上がると、正式に告白をする決意を固めたのだ。
しかし何も言い出せぬまま就寝時間になった。2階に女の子の部屋があったので、そこのベッドで寝ることに。
王子様は他の部屋から拝借してきた布団をベッドの横に敷いた。
当然彼女は眠れるはずもなく、そっぽを向いている王子様の寝顔を想像して、意気地の無い自分を不甲斐なく思っていた。
すると、突然王子様がむくりと起き上がる。
トイレかなと思って見ていたが、こちらを一瞥して静かに部屋を出ようとする姿に、彼女の「女の勘」とも言うべき嫌な予感が反射的に彼女の身体を動かした。
「待って!・・・どこいくの?」
王子様の動きがピタリと止まる。