第七話 くま達の会談
「それではこれより、第二十回終末対策会議を始めます。気を付け、礼!」
現れたのは、茶色のテディベア、くま太郎だった。くま太郎の号令に、現れたもう三匹のテディベアがそれぞれ反応する。
「今回の議題は、どうやって王子様と再会するか、だ。各自意見を述べてくれ」
「いや、もう無理でしょ。こんな世界で会えるわけないし。万策尽つきてるって」
スーツを着た黒色のくまが、適当に言う。
「そ、そうかなぁ。私、あの人なら見つけてきてくれると思うなぁ」
赤いリボンをつけたピンク色のくまは、恥ずかしそうに身体をもじもじさせながら言う。
「んー・・・ま、いんじゃない?」
腹に欠けた月が刺繍されている白いくまが、大の字で寝転んでだるそうに答える。
「おい、次郎!お前はまたそんなこと言いや
がって!なんでそんなにネガティブなんだ」
くま太郎が黒いテディベアに掴みかかる。
「いや、俺は事実を言ってるんだって!第一なんであいつと一緒に行かなきゃいけねえんだよ!」
「そりゃぁ寂しいからだろ・・・」
くま太郎の言葉がたじろいだ。二人の喧嘩を諫めようと、ピンクが割って入る。
「やめてよ二人とも!それに太郎、王子様と一緒にいるのは寂しいからじゃないわ。す、好きだからよ!」
ピンクが顔を紅潮させながら叫ぶ。
「は?ち、違うよ。私は・・・」
「あなたも気づいてるんでしょ?自分の気持ちに」
くま太郎は次郎から手を放し、言い淀む。それを見た次郎はすかさず話し始める。
「でもよぉ、もし好きだとしても相手はどうなんだ?少しでもこっちに気があるような素振りを見せたか?いつもイケメンスマイル決め込んでよぉ。楽しんでいるように見えても腹の底は隠している感じで、あの笑みもニヒルに見えてくるぜ。実はあっちも迷惑してんじゃないのか?このままグダグダ一緒にいてもこっちが苦しむばかりな気がするけどな」
黒はシニカルな笑みを浮かべて言い放った。的を得た意見に言葉が出ない一同。
その固まった空気を壊したのは、今までずっと寝転んでいた白くまだった。
「なんで皆そんな面倒くさいこと考えるの?相手がどう思うかなんて変えられないじゃん。自分の気持ちだってそうだよ。離れたくないって思うんなら無理に離れようとしなくてもいいと思うよ。変えられないものは変えられないって割り切って、自分に正直になれば、面倒くさくないし・・・」
白くまは眠りに落ちていた。他の3人は顔を見合わせて頷き、くま太郎の方を向いて居直った。くま太郎がコホンと一言。
「えーでは、第二十回終末対策会議における我々の基本方針といたしましては、『とりあえず会えるように頑張る』ということになりました。終わります。気を付け、礼!」
くま太郎の号令と共に、四匹のテディベアは霧散した。それと同時に、チャプチャプと靴が水溜りを踏む音が聞こえた。
顔を上げると、土砂降りの中傘もささずに立ちすくむ王子様がいた。
驚きの表情は涙を浮かべながらやがてほころんでいき、びしょ濡れの袖で涙を拭うと、彼女へ走り寄る。
彼女は無意識に立ち上がると、抱きつく王子様を受け止めた。