第六話 目覚め
せせらぎが心地の良いメロディを奏でていた。
重い瞼を開き、何度かしばたたかせて体が自分のものだと確認すると、ゆっくりと身体を起こす。
すると、途端に胸の髄がむせ返り、胃液と混ざって体内にまとわりつくような水を大量に吐き出す。最悪の目覚めだ。
彼女は大方えづくと、辺りを見回す。彼女が浸かっている川は二十センチメートルくらいの深さで、川幅も二、三メートルといったところだ。
カーブしながら奥へと続いている。大小さまざまな丸い石が地面一面に広がっており、周りは切り立った崖で囲まれていた。
「私・・・たしか・・・」
蘇る記憶。立ち上がって自分の身体を見回すが、どこにも傷跡は無い。
確かにごつごつとした岩肌にサンドバックにされたはずだが、見る影もないどころか一層肌が美しくなった気がする。
曇天模様はしとしとと雫を垂らすと、もう待ちきれないと言わんばかりに、もうもうと激しく降りだした。
元々びしょ濡れの彼女は、今更濡れても関係ないと思い、何とか崖を登って王子様と連絡を取れないかと右往左往していた。
しかし、次第に山おろしの風が勢いを増し、増水により流れが速くなった川に身の危険を感じた彼女は、偶然見つけた洞穴に駆け込んだ。
中は真っ暗なので、辛うじて明るい入り口に座り、雨風をしのごぐことにする。
入口の出っ張った岩からはポツリポツリと水が滴り落ち、その奥で数多の水が地面を打ち付ける。
不協和音が意識を飲み込んでいくと、次第に目の前に見覚えのあるシルエットが浮かんできた。