第十話 疑惑
「・・・トイレだよ」
彼女は力なく「そう」と返すと、何かを言おうと口が開くが、溢れ出す言葉は胸でつっかえて出てこない。
「なぁ、この世界って変だと思わないか?」
王子様が振り返って言った。逆に聞かれるとは思わなかったので、口ごもる彼女。
「都合が良すぎるって話。誰もいなくなったはずなのに電気やガス、水道は止まっていなし、食べ物は腐らない。おまけに怪我もたちまち治ってしまう。なんだか、どれもこれもここで暮らす僕たちのために用意された世界のように思えるんだ。・・・そう、まるで赤ちゃんの部屋みたいな」
王子様は慎重に、言葉を選びながら話す。王子様が自分から話した試しがなかったので、彼女は呆気にとられて何も言えなかった。
「まぁそうなると、地球外生命体とかが僕たちを観察対象にしてる、みたいなSF的妄想が浮かぶけど、僕はそう思わない。なんかイマイチ現実味がないからね。だから、僕はこう思うんだ。この世界から生命が『消えた』んじゃなくて、僕たちがこの世界に『転移』したんじゃないかってね。まぁこの考えもかなりSFっぽいけど」
生き生きと語った王子様。「久しぶりに喋って疲れた」と言い捨てると、布団に潜り込んだ。
相変わらず彼女の方は向かず、そのまま眠りに落ちた。
王子様の豹変ぶりに付いていけなかった彼女は、先程の行動を反芻して様々な解釈を与えながら、一睡もせずに朝を迎えた。




